ソメイヨシノ



by 遙か



好きな物は、先? 後?
貴方はどちらのタイプですか?

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立春を過ぎても、まだまだ寒い日が続く中。
気分だけでもと、お店のショーウィンドウには。
春らしいものが並び、飾られます。

そのうちの1つに。
買い物に来ていた八戒は、目を留め足を止め。
それを悟浄へのお土産に、買う事にしました。


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「今、帰りました。」
「―――ん〜、おかえり〜。」

リビングに入ると、ソファの上。
悟浄が長々とと伸びていました。
昨夜、深酒を過ぎたらしく珍しく2日酔いとなって。
潰れている真っ最中でした。

「具合はどうですか?」
「サイアク〜。」
「これに懲りたら、次からは程々にして下さいね。」
「…。」
「一応、いい大人なのですから、悟浄は。」
「…。」
「もう、そこら辺はちゃんと判ってますよね。」
「…。」
「余計なお世話でしょうけど。」
「…。」

グウの音も出ないとは、この事で。
悟浄は無言で、顔をソファにあるクッションの中に埋めました。
その姿にクスクス笑いながら、イジメ過ぎたかなと。
八戒はキッチンへと、買い物の荷物を片付けに行きました。

あの状態では、今晩のお仕事出勤は無理でしょうから。
何か胃の負担にならない軽いものを夕食に作ろうと。
八戒は考えておりました。悟浄の好物で。
何だかんだと、八戒は悟浄に甘いのでした。


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目も開けていられない頭痛の中。
悟浄はずっと、八戒の気配を追っていました。
ベッドで寝ていればいいものを、起き出して。
リビングのソファにいたのは、八戒の帰りを待っていたからです。

昨夜の飲み過ぎを悟浄なりに、反省して。
別に、八戒が怒っている訳がないのは判っているのですけど。
内心ビクビクしている子供のように、八戒の様子を伺っていました。

冷蔵庫を開ける音。
買い物袋から、買ってきた物が取り出される音。
水の流れる音がしたり。
動き回っているスリッパの音が聞こえたり。
そんな八戒がたてる――八戒が居る音を。
悟浄は目を瞑って、聞いていました。

さっき、八戒が帰って来るまでは。
頭の中にデンッと居座ったズキンッとした痛みに。
大きくダメージを受けていたのですが。
今は、八戒の気配を感じる事でだいぶ和らいできていました。
フゥ〜と息を付いて、そのままウトウトし始めていると。
身体の上に、毛布が掛けられました。

『全く…風邪を引いたらどうするんですか。』

八戒の苦笑いの、優しい声と一緒に。

『流石に、ベッドまで引きずっていけませんからね。』

パスパスッ!
それはパスしてくれと、内心焦り捲りつつ。
うたた寝から、悟浄は起きませんでした。

『もう少しだけ…このまま寝かせておいてあげましょうか。』

その言葉を聞いて、悟浄は安堵して。
一気に眠りに落ちていきました。


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―――――時計の時報の音で、悟浄は目を覚ましました。
ムクッと、ソファに起き上がり。
ボーッと、辺りを見渡しました。
1つ1つの記憶の糸を辿って、自分の状況を思い出します。

『あっ!』

やっと、スイッチが入ったようで。
手をポンッと叩きました。

『ん―――――八戒は?』

偉い。旦那の鑑ですね。
一番に奥さんの姿を探しています。
…昼寝から目が覚めた子供が、母親を探すのと大差ないですが。

八戒を探しに行こうと、悟浄が足を床に下ろした所で。
洗濯物を抱えた八戒が、リビングに戻って来ました。

「お目覚めですか、悟浄。」
「ん〜。」

頭を掻きながら八戒を確認して、ヘラッと悟浄は笑いました。
それに八戒もクスクスと、笑い返して。

「まだ寝惚けてますね、大丈夫ですか?」
「多分。」
「僕、これを片付けてきますから。
 悟浄は、顔でも洗ってきて下さい。すっきりしますよ。」
「ん〜、そーする〜。」

よっこらしょと立ち上がって、一寸覚束無い足取りで。
悟浄は洗面所に向かいました。
そのふらついている後ろ姿を見送ってから。
八戒は、洗濯物を仕舞いに行きました。


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「はい、どうぞ。緑茶です…目が覚めますよ。」
「へ〜〜〜い。」

お茶にしましょうと、テーブルに着くと。
目の前に、湯気がほわんと立った湯飲みが置かれました。

「それから…お茶請けにですが、どうぞ。」
「ん? これナニ?」
「桜餅です。美味しいですよ。」
「甘そ…。」
「甘さ控え目ですよ。」

美味しそうに食べている八戒に釣られて。
悟浄も恐る恐る、一口食べました。

「あ…美味。」
「でしょv」

ニコニコ笑う八戒に、悟浄は頭にふと浮かんだ事を聞きました。

「八戒ってさ、スキなモンは先?
 それとも、後に食べる方か?」
「僕ですか? うーん、どっちかなあ…悟浄は?」
「先。」
「そうですね。悟浄はそんな感じです。」

地団駄踏むのも。
鳶に油揚げも、悟浄はする気がありませんでした。
桜餅だったら分ける事は出来るけど。
八戒は出来ない。絶対に譲れない。

三蔵も悟空も、八戒を欲しがっているのを悟浄は知っていました。
だから、速攻で手を出した訳で。
だから、八戒は今悟浄の目の前で微笑んでいる訳で。
悟浄は、少し冷めたお茶を一気飲みにしました。

「なあ、八戒。」
「はい?」
「今年も花見に行こうな。
 桜餅持ってさ、2人っきりで。」
「…はい。」

2人だけを強調した悟浄に、八戒は頷いて約束を返しました。
独占欲という、恋心。
それを抱えている事に、幸せを感じながら。



2006.04.02  UP



☆ コメント ★

タカシマさまに捧げますv

リンクのお礼にと私からリクエスト取りに行きまして
頂いたお題が『桜餅』
『桜』ではなく『桜餅』
おおっ、と思いました。へぇ〜、とも(笑)
そしてこんな話を思い付きました
好物は先か後か、と。どーゆー関連性で出てきたのか
自分でも判りませんが、楽しく書いちゃいましたv

ではでは、慎んで贈らせて頂きます♪




モドル