掌 〜 くるみ



by 遙か



触れてみたい
そう、思ってしまう自分に戸惑いつつも
彼の人の手の動きを目で追ってしまう
あの手に触れる事が出来たなら、と
願いながら、見つめて…

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八戒の手はよく動く。
朝からずっと家事をして、洗濯に掃除に食事の支度と。
手際良く動いて、後片付けもしてく。

俺はいつも関心のナイふりをして。
八戒の――男なのに綺麗な――手をいっつも見てた。
気付かれねえよーに、目で追ってた。

理由は…口に出来ねえ。
言ったら、八戒にヘンな目で見られちまう。
んで、見られるのもヤだけど口きいてくんなくなったり。
最悪、出てかれたりしたら。
俺、再起不能…だ。それは…。
ぜってぇ、ヤダヤダヤダ。

俺は八戒にずっといて欲しいんだよ。
どっこにも、行って欲しくねえ。
このまんま、俺んトコにいてくれりゃイイ。
頼むからさ。イソローだなんて、思ってねえからさ。
…俺さ、八戒がさ、スキなんだよ。

あーーーっ、こっぱずかしい!

どの面下げて、こーんなコト言ってんだか、俺。
男だっての、判ってるよ。
死んだねえちゃんのコトも、判ってるって。
前途多難どころか、お先真っ暗っての判ってたって。
スキになっちまったモンは、仕方ねーじゃんか。
俺だって、こんなスポーンとハマるなんて思ってもみなかったんだって。

『おはようございます、悟浄』
『珈琲淹れましたから、飲みませんか』
『煙草の灰は、灰皿にですよ』
『行ってらっしゃい、気を付けて』
『お帰りなさい、お疲れさまでした』

八戒から俺に掛けてくれる言葉の一個一個に。
俺はナンでもない顔しつつ、内心でいっつもニヤニヤしてた。
嬉し過ぎてよ。
だってさ、新婚夫婦の会話だろ。コレって。

しかし―――――あ〜〜〜ムナシイ。

現実に返るとな、八戒にそんな気ねぇもんな。
あったり前だけどさ。

あんまりスキ過ぎて、冗談でも触れなくなっちまってきてる。
意識し過ぎて動けなくなってる、バカな俺がいる。
いっそ、言っちまったらっても、考えるんだけどさ。
けど…怖くて出来ねえんだ、結局。
いつまで、ガマン出来んのかねえ。
八戒の笑った顔、見るたんびにグラグラ揺れてる俺の理性。

八戒が。
俺が八戒をスキなよーに、八戒も俺をスキだったらイーよなあ。
そんな都合のイイ夢みてえなコトなんか、ねえよなあ。

八戒の手握って、告って、OK貰えたらさ。
イーのになあ…。


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テーブルに肘を付いて、煙草を吸っている、悟浄の手。

僕は、そんな悟浄の手を見るのが好きなんです。
指が長くて、骨張っていて、大きな手。
とても、悟浄らしい手。
時々。いえ、しょっちゅう触ってみたい衝動に駆られています。
僕は。
…何とか、それは押し止めていますけど。
だって、気味悪がられるのがオチですから。
出来ません。

悟浄の拘らない性格のおかげで。
居候を続けていられるのですから、それ以上を望んではいけないと。
窘める自分と。
その逆を行ってしまいそうな自分に引っ張られて。
苦しくて、息がつけない時があるんです。

その度に、自分を叱咤してきてはいるのですが。
いつまで…耐えられるか。
あまり、自信はありません。
いけないと、判っていたのに僕は。
悟浄を好きになっていました。

外見はいい加減そうに見える悟浄は。
とても、優しい人で。
僕みたいな貧乏くじを笑って受け入れてくれる事の出来る人です。
その優しさは心地良くて。
思わず縋ってしまいたくなる誘惑を耐えるのは。
本音を言うと、きついです。

けれど、どんなにきつくても悟浄の傍に居たい気持ちが。
居候としても、構わないから…。
同情されていても、憐れまれてても…良い…ですから。
それで、悟浄の傍に居られるのだったら。
僕は構わない…んです。

「あ、お出掛けですか、悟浄。」
「ん〜、ちっと稼いでくるわ。」
「はい、頑張って下さいね。」
「―――頑張ったらさ、何かご褒美ある?」
「そうですね…悟浄の好きなものばかりのお摘みというのは、
 どうでしょう?」
「ノッたv 当然、酒付きだよな。」
「はいはい。頑張った分をそれなりにお付けしますよ。」
「オマケしてな〜。んじゃ、行ってくるv」
「はい、気を付けて…行ってらっしゃい。」

悟浄を見送りながら、込み上げてくる嬉しさと。
哀しさに、僕は溜息を付きました。
どの位、この均衡が保たれるのか、先が全く判りません。

けれど。
もっともっと、と。
望んでばかりいる子供のような自分を。
抑えられるだけ抑えていきましょう、と心の奥底で。
今を誓いました。
自信はなくとも―――



2006.07.04  UP



☆ コメント ★

こももさまに捧げますv

こももさんのお誕生日兼サイト一周年記念に
贈りまーすv …と、書いたお話です
大遅刻なのには、もぉ目を瞑ってね?(大汗)

こももさんからのリクは
『出来上がる前の2人』でしたv
切なさを全面に出せたらなあ…と、書きましたv


ではでは、慎んで贈らせて頂きます♪




モドル