奏
by 遙か
【サヨナラ】という言葉は、誰の為に言うものなのでしょうか
言った、自分の為?
言うべき、相手の為?
決別への一歩だったら、本当は口に――声に、したくないかもしれません
音となって、伝わったら
本当の終わりを受け入れなくてはならなくなるから…
†††††††††††††††
雨の音なのか…それを都合の良いように、聞き違えているのか。
最近、ずっと呼ばれているようで。
僕は、耳を澄ましていました。
遠くから。それでも近くから、呼んでいるような声に。
記憶を辿らなくても、それが誰のものなのか判っています。
―――花喃、僕の姉、僕の半身。
僕の愛した女性。
女性という事で、僕より体力的にとか力では弱かったけれど。
心は――精神は、僕よりずっと強かった人。
笑顔で――いつも笑顔でいて、拗ねたり、怒ったり。
ころころと表情を変えて、素直に感情を表に出して。
『悟能、悟能』と、僕を呼んで…。
いつも、彼女には救われていました。
後ろ向きな僕の手を明るく引っ張って、癒してくれていました。
大好きでした、花喃の全てが。
僕に無いものを持っている彼女に惹かれて、自分よりも愛していました。
花喃さえいれば良い。彼女以外、何も望まない。
喪えない。喪いたくない。
喪うのは、考えられなかった。
――なのに、喪ってしまった。目の前で。
助ける術もなく…あったかもしれないのに。
僕は息絶えていく彼女を救えなかった…んです。
あんなに愛していた筈なのに。
僕の、彼女の最後の記憶は…泣いているのに笑っていて。
でも、そんな笑い方は初めて見るもので。
いつも、僕に見せてくれていた笑い方じゃなくて。
………花喃。…花喃、花喃。
本当は泣きたかったの?
僕と居て、僕の為に笑っていたの?
君自身は、本当は笑いたくなんかなかったのに…僕の所為…で。
―――――カタン
あ。悟浄が帰って来ましたね。又、雨に濡れて。
何度、言っても傘を持って行かないんですから。
僕は用意しておいたタオルを持って、玄関へと急ぎました。
†††††††††††††††
俺がカサを使わないのは、八戒の為。
雨の日に、意識をもってかれちまう八戒を。
俺の方へと向かせる為の…つまりは、俺の為ってコトもあるか――ははっ。
拾ったモンは、ちゃんと面倒をみる。
拾うってコトは、俺のテリトリーに入れるってコトなんだよ。
だからさ、拾った時から八戒は俺のモンになってんだよ。悪ぃな。
悪ぃって、思ってるって。マジ。
けど、思ってたって手放さねぇ。手放す気なんかねぇ。
八戒は俺のモンだから、アンタには返さねぇよ。
女を泣かすのを心苦しいんだけどさ。
そんな恨めしそうな顔しても、ダメ。
恨み辛み言ってもいーぜ? 聞くだけはしてやっから。
但し、聞くだけな?
ナニ、言われよーと俺は八戒を放さねぇから。
…だから、さっさと諦めろよ。
八戒の所有権は、今は俺のモンなの。
雨が降ると、ぼんやりと輪郭を為してる白い影…。
髪の長い女。八戒の姉ちゃんだって、直ぐ判った。
似てっけど、似てねぇの、な。
アンタはアンタで、八戒は八戒なんだよ。
早く判れよ。な…判ってくれよ。
ホントは…アンタは…俺の良心の呵責ってのが見せる、幻影で。
ホントは、ソコにいねぇのかもしんない。
けどさ、俺には見えっからいるんだよな。アンタはソコに…。
いいぞ。恨み言でもグチでも、言えよ。
言って、すっきりしてくれ。八戒を連れて行かないでくれ。
ゴメン…ゴメンな。
アンタも俺も、ただ八戒をスキなんだよな。
それだけ、ナンだよな。
こんな風に虚勢を張ってでもしねぇと、いらんねぇのは。
チョー情けねぇんだけどさ。
しちまうんだよ。
八戒を失いたくナイ、俺自身の為に、よ。…ゴメンな。
―――――八戒
灯りが点いてんのが見える。俺ん家に。
あそこに帰れば、八戒が出迎えてくれる。
俺が欲しかった『おかえりなさい』と温かさを用意して。
俺へと優しい笑みで。
俺は出迎えてくれた八戒を。
玄関先で、きつく抱き締めた。
†††††††††††††††
『サヨナラ』の代わりの言葉を
ずっと
僕らは探していた
君に『サヨナラ』を言いたくなくて
言ったら、君は永遠に棲みつきそうで
だから、狡い僕達はずっと
『サヨナラ』の代わりの言葉だけを探して
…今も、探しているんだ
終わりを知るのが
怖くて…
2007.03.05 UP
☆ コメント ★
文羽さまに捧げますv
去年の…いつ頃だったか…記憶が定かですないのですが
ブログと拍手メッセの遣り取りで
頂いたリクエストを書かせて頂きました〜vv
基本は、スキマスイッチの【奏】です
花喃を絡ませる話は好きなんです
トライアングルな関係で、どこも欠ける事は出来ないなって
そうそう、今回のは暗い系ですが
明るい系のを捏造するのも好きです(笑)
ではでは、慎んで贈らせて頂きます♪
モドル