ff(フォルテシモ)




by 遙か



ノックの音もなしに
俺は寝ている寝室のドアを開けられた
こんな事をする奴は、一人しかいないと言う――天蓬に

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「捲簾、一緒に寝ますから、僕と。」

あー、はいはい。
お前、文法間違ってるぞ、の突っ込みは今は置いといて。
俺は毛布の裾を上げつつ、自分の身体を横にずらし。
天蓬のスペースを作ってやってから、目で促すと。
慣れた動作で、天蓬はするりと潜り込んできた。

毛布の中の空気を動かせて、天蓬はもぞもぞとしている。

「おい、大人しくしろって。」
「一寸、待って下さい。寝る準備っていうものがあるんですから。」

猫が自分の居場所を探すように、暫く天蓬は。
寝返りを打ったりして、全くじっとしていなかった。

「天蓬〜。」
「寝削がれました。貴方が煩いから。」
「あのなあ。」
「責任取って貰います。」
「責任? ――って、おいっ、どこ行くんだ?」
「直ぐ戻ります。」

ベッドから、さっさと降りて天蓬は部屋から出て行った。
アイツの気紛れさは、天下一品だ。
この俺でさえ、面食らう。

振り回されるつもりはないが、俺の可能範囲で付き合ってはいる。
それを承知の上での、恋人だからな。
これ位は、序の口だ。

「戻りました。」
「お帰り。」

何事もなかったような顔で、天蓬は。
再度、毛布の中に潜り込んできた。

「何してきたんだ?」
「これを取りに行ってきたんです。」

ひょいと、目の前に出されたのは文庫本のサイズだった。
―――で、これを俺にどうしろと?

「読んで下さいv」
「読む?」
「はい、貴方が僕に読み聞かせて下さい。僕が寝付くまで。」

…つまり、これがさっき言っていた責任を取れって事か?
まあ、それくらいの事なら別に…いいか、と。
本を受け取り、表紙を捲ると…。

思わず、タイトルと副タイトルを目にしたところで。
俺は本を閉じた。

「どうしました、捲簾?」

寝っ転がって、くるまっている毛布の中から。
目線を俺に向けて、天蓬が悪戯が成功したガキみたいに笑った。
確信犯は、天蓬の常套手段だが。
一体、幾つこういった手があるんだが。
他の事にも頭、使えって。

「いいや、どうもしないさ。」
「では、読んで下さいなv」
「了解。」

天蓬の顎を取って、一つキスをしてから。
俺はもう一度、本の表紙を開いた。

「宜しくお願いします。」

擦り寄ってきた天蓬の眸は、それ楽しそうに輝いていた。
―――全く、コイツは。


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捲簾に渡したのは、古典的であり、秀逸であり。
僕のお気に入りの、官能小説です。
ただ、ヤルだけの詰まらない展開ではなく。
描写、言葉の選び方、使い方が何とも言えず。
色を醸しだしていて、何度読んでも飽きないんですよね。

それで、ふと。
読むのも勿論良いのですけど、読んで貰うのも良いのでは、って。
思い付いた訳なんですよ。
それでそれで、だったら。
折角、読んで貰うのだったら捲簾の声で聞きたい、って思いませんか?
思いますよね? 白羽の矢を立てて上げたくなりますよね?

なので、立てて上げましたから。
僕の為に心を込めて、宜しくお願いしますね、捲簾。


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ふ〜ん、派手さはないが、地味でもないな。
続き…展開が気になる話の作り方で、読む方を飽きさせない。
流石、天蓬の蔵書だな。

それから、俺は読む事で本の中身に集中はしていた。
但し、俺は控え目な性格なんでな。
あからさまな言葉にはしないが、じっとしているのは苦手なんだよ。

それは、判っているよな、天蓬?

ベッドヘッドを背もたれにして、寄り掛かっていた俺は。
隣で俯せで、大人しく(?)している天蓬の髪を。
ゆっくりと、撫でた。

指先を軽く、髪の間に潜り込ませ。
そのまま、櫛代わりで梳いてやると、眸だけが。
俺の方をちらりと、見た。
シーツの中に、横顔を埋めて。

何の予兆もなく、そういう眸をするのは反則だろ。
コイツの無意識と意識しての間は、曖昧で。
それが一層、俺を煽る事を知ってか、知らずか…。
知ってて、やってるんだろうな、くくっ。

後ろ髪を撫で付けながら、首の方へと指を滑らす。
俺の手には余る、簡単に括れそうな首のラインを楽しむ。

「…捲簾。」

抗議なのか、先を促してるのか。
どっちとも取れない声を出して、天蓬は背中の力を抜いた。
それを了承と解釈して、俺は背中の浮き出ている骨を指先で擽ってやった。

声を詰まらせて、ビクッとする動きに。
何度も何度も、同じ事を繰り返してやると。

「捲簾っ。」

今度は、完全に抗議の声が上がった。
それに応える為に、俺は本を閉じ、サイドテーブルへと置いた。
…後で、煩いからな。

性急に、起き上がろうとした背中へと伸し掛かり。
強く手首を掴んで、重みをかけた。

「あ…。」

一つ啼いた天蓬の声が、俺に火を点けた。
好きな奴の声ってのは、本当にくるもんだ。
熱がザッと隅々まで行き渡っていく快感は、天蓬とだけ味わえる。

天蓬から見えない死角の、背中に幾つもの痕を付ける。
色を付け、噛み痕を残す。
腹の方にも付けてやろうと、天蓬の躯をひっくり返した。

―――――ん?

この体勢と状況は…あ、そうか。
さっき、俺が読んだシーンと同じだな。


「…捲簾…早く。」

伸びてきた両腕が、俺の首に絡む。
引き寄せられ、唇を啄みながら。
今晩は、この本の通りにしてやろう、と俺は。
天蓬の躯にと、沈み込んだ。

後で、どんな感想が出てくるか…楽しみだ。



2007.05.15  UP



★ コメント ★

いつもいつも、私のおねだりを聞いて
超エロいイラストを魔法の様に描いてくれる
由良さんへ贈らせて頂きまーすv

リクエストを貰ったので、頑張りました(笑)
萌えるリクエストをありがとう!
これで良い? 由良さん(笑)

そして、こちらも併せてどうぞv → 



モドル