乱戦模様 〜不器用なボクラ・2
by 遙か
“こんにちわ”と“いらっしゃいませ”
これが、二人の挨拶の始まりでした
お客様とお店の店員、とでの………
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この間、街で会ったその偶然にすっげ感謝した。
収穫は、名前が判ったってコトだ。
『天蓬、と言います』
そう言って俺に向けて、にっこり笑った顔に。
俺は改めて、惚れたのを実感した。
もう一歩近付きてぇ。もう少し手を伸ばしてぇ。
この前まで、見てるだけで結構満足してたんだけどよ。
自己紹介して、顔見知りになれたんで、その先の欲が出た。
この前みてぇに、一緒に歩いて、一緒に茶して。
何か話してぇ。何でもイーからよ。
そんな気分が、どんどん膨らんでよ。
ついつい、映画のチケットなんか買ってみた。
前評判イーし、無難だよな『海賊船長物語』っての。
映画の前に茶で、後に飯にすれば、長時間になるし。
立派なデートになるよな。これならさ。
…ただ、な。これを渡す…タイミングが掴めねぇ!
確かに、ほぼ毎日会ってっけど。
それはバイト先での話で、向こうはお客さんで、俺は店員で。
コーヒーを運ぶ時に、話せっかと思ったんだけどさ。
無理だった…。
何度か挑戦してみたんだけどよ…撃沈。
もっと、こう…さあ、軽く誘えばイーってのによ。
ナンでそれが出来ねぇんだ、俺?
口ん中が乾いて『いらっしゃいませ』とゆーのも、一苦労してっし。
前より親しげに笑ってくれる顔を見ると、どーにもこーにも…。
マジで、どーしたよ、俺っ! …はぁ。
バイト中、首を垂れて自己嫌悪で項垂れてると、そこに。
チリン――と、ドアが鳴り、天蓬が入ってきた。
姿、見ただけでドキッとした。
足が、一瞬動かなかった。
これって――相当、重傷じゃねぇか?
しっかりしろ。踏ん張れって。
今度は心ん中で叱咤激励をして、胸に抱えてたトレイに水を乗せて。
オーダーを取りに行った。
ヨシ、今日こそ。今日こそ、どーにかしてやるぞ。
…どーにかしねぇと、俺がもたねぇ――これ以上。
オトコは度胸だと、俺は天蓬の座っている。
テーブルへと向かって行った。
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この間は、楽しかったです。
偶然、街で会った『悟浄』との簡易デートはとても楽しいものでした。
何気にエスコートが完璧でしたから、ああいった事に慣れているんでしょうね。
動作がスマートと言うか…。
鼻につくようなものでしたら、遠慮なく途中退席してましたけどね。
悟浄のは丁度良い加減で、僕を楽しませてくれました。
好意を持っているんでしょうね、僕も。
悟浄が僕に対して持っているのは、丸分かりでしたし。
一緒に居て苦痛ではない。
面倒臭いと言う負の言葉ではなく、シンプルに心地良いと感じる事が出来たのは。
僕に取っては、凄い事なんですよ。
何しろ、他人に興味というものが湧かなくて。
別に困ってはいませんでした、自分にそういった系統の感情は。
すっぽ抜けていると、知っていましたから。
だから、新鮮な驚きなんですよね。
僕が一人の人間を気にするなんて。
仕事帰りに、このお店に寄って珈琲を飲む事以外の。
楽しみが出来るなんて。
なかなか、面白い事になりました。
毎日が、楽しいです。
ただ…最近の様子が、一寸変な気がするんです。
挙動不審というか…普通通りにしようとしていて、逆にギクシャクしている様な。
一体、どうしたのでしょうか?
何か、僕に言いたい事があるのでしょうか?
目が合って笑い返すと、口をパクパクするのですから。
でも、それだけで何も言わずにカウンターに戻ってしまうんですよね…。
いえ、座り込んで何か話していくって事はしていませんから。
いつも通りと言えば、いつも通りの接客態度なんですけど…。
何か、引っ掛かりますね。
折角、友好関係を結べて、これから楽しくなりそうなのに。
この状況は、いけません。つまらないじゃないですか。
ん―――では、僕からアクションを起こしてみましょうか。
わあ、凄いです。この僕に腰を上げさせるなんて。
覚悟していなくても、いきますからね。悟浄。
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「おつかれっした…。」
悟浄が、従業員専用口から出て来た。
肩を落とし、疲れているのもあるのでしょうけど。
心がどよんとしているのが、一番の原因かと。
そんなイジけたオーラを背負って、とぼとぼと歩き始めた悟浄の。
後ろ姿に、声が掛けられました。
「こんばんわ、悟浄。」
「て、て、て、天蓬っ?」
驚いて飛び上がった悟浄が、後ろを振り向くと。
そこには本当に、天蓬が立っていて。
悟浄はもう一度、驚きました。
「遅くまでお仕事なんですね。お疲れさまですv」
「ど、ど、どしたの?」
「悟浄を待っていたんですけど?」
「俺を?」
「はい、丁度待ちくたびれたところでした。」
「ごっ、ゴメン!」
慌てて悟浄は、にっこりと笑っている天蓬の前へと近付きました。
「いいえ、僕が勝手に待っていただけですからv
悟浄が謝る事は無いんですよ?」
「…でもさ、待たせたコトに変わりねえしさ。
ちんたらしてねえで、さっさと出てくりゃさ。」
頭を掻きながら、バツが悪そうにしている悟浄に。
天蓬が一歩だけ近付いて、ふわりと悟浄を見上げました。
「悟浄、僕に何か言いたい事があるでしょう?」
「は?」
「ずっと、何か言いたそうにしていたじゃないですか。
このままじゃ、気になって帰れないじゃないですか。」
「…気付いてたんだ。」
「勿論。」
「そんで、待っててくれたんだ。」
「はい、そうですよv
だから、さっさと白状して下さいね?」
悟浄の身体中に、喜びが湧いてくる。
さっきまで、悩んでいた事がパーッと霧散していく。
「あのさ、映画! チケットが二枚あるんだ。
一緒に行かないか…いや、行って下さい!」
握り締めたチケットが、天蓬の目の前に差し出される。
悟浄の真剣な紅い眸と、一緒に。
その迫力に押された天蓬でしたが、直ぐに立て直して。
チケットを一枚、悟浄の手からするりと抜き取りました。
「良いですよ。いつ、行きます?」
「あ、明日は?」
「大丈夫です。」
「ホント?」
「本当に。」
「やったっ!」
叫んだのと同時に、悟浄の腕の中には天蓬が居て。
抱き締められている事に、天蓬は微笑んでいて。
―――恋人未満のゲージ
これで何目盛り、動いた事になるのでしょうか―――
2007.06.19 UP
☆ コメント ★
あゆりんさまに捧げますv
以前、この前のお話を贈りまして
その続きとして書き、再び贈らせて貰いました
あゆりんさんのサイトの『7周年』記念にv
おめでとう! ここでも言っちゃう(笑)
あゆりんさんが、又この二人に会えて嬉しいと
とっても素敵な感想をくれたので
書いた私も、とっても嬉しかった〜(笑)
ではでは、慎んで贈らせて頂きます♪
モドル