メランコリック




by 遙か



普段通りのものが、普段通りではない
これは、気付いていなくともストレスとなります
少しずつ、裡を喰らう虫に侵食される様に……………

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捲簾と躯を合わせてるって事は、そういう関係であるんですよね。
あまり意識しないで…と、言うか。
捲簾とSEXする事に、僕は抵抗感がありませんでした。
今、思うと。

伸びてきた手を払う事なく抱かれて。
沢山の囁きとキスを貰って。
躯と心。両方の気持ち良さを知りました、身を以て。

僕が良いのだし、捲簾も良いのだし。
何の問題も無いでしょ?
元より、外からの騒音を気にする質ではありませんしねえ。
聞き流すと言うより、馬の耳に念仏…でしたっけ?
捲簾が大笑いしながら、言っていたのは。

まあ、それは良いとして。
ただ、困った事が出来てしまいましてね。
一人寝が、以前の様ではなくなってしまった事です。
自分以外の肌の温かさを覚えてしまった事と。
寝息とか、寝言とか、捲簾の規則正しい心臓の音とか。
当然のものとして、認識している僕がいます。いるんです。

冷たいシーツなんて、以前は気にもした事がないというのに。
これって…やっぱり、捲簾の所為ですよね。

2人で寝る様になって『僕を落としたらどうするつもりですか』の問いに。
捲簾からは『絶対、そんな事はねえから安心しろ』と、返されました。
あの自信は、どこからくるのか判りませんが。
有言実行。
僕はいまだに捲簾の腕にくるまれて、ベッドから落ちた事はありません。

なので、一寸感心しています。
こういった事は、慣れているんですねえ、と。
それが、気になるかって? いいえ、気になりませんよ。
以前の事は、一々気にする事ではないでしょう。
元が醜聞の多い人なんですから。

面倒臭いでしょ?
面倒臭い事はしない主義なんです、僕は。

―――で、それはそれで、良いとして。

今の僕の切迫した問題は、一人寝の長期化です。
捲簾が単身赴任で、行ったっきりなんです。
大した仕事じゃないからって、数人の部下だけを連れて。
………2週間、過ぎてます。
4〜5日で、帰って来ると言っていたのに…。

判っています。
予想外の出来事で、足止めを食らっているだろうという事は。
僕達の仕事には、臨機応変な柔軟な対応が必要なのは。
蓄積してきている体験で、判り切っていますから。

ただ、ねえ…まさか、ねえ…この僕が、捲簾の不在で。
持て余すなんて思いもしませんでしたよ、自分の身体を。
気の所為として、考えない様にしていたんですけど。
チリチリとした、消し切れなかった火みたいに。
素直に、僕を眠りに付かせてくれませんでした。

身体が覚えた、あの時の感触が。
気を弛めると…ヤバいかもで、あまり思い出さない様にしないと。
何しろ、後一週間はかかると昨日、連絡があったばかりですし。
これ位で、折れている訳にはいきません。元帥の僕が。

さあ、捲簾が居ない分の仕事に。
又は、本に没頭してれば良いんです。
眠くなるまで、そうしていれば問題は無くなります。
無くなるんです。無くなりました。
もう、これで解決済みですから、この事は終わりです。


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目が覚めたら、丁度。
目覚まし時計が一つ、鳴りました。

………1時? ………夜の?

目だけを動かして周りを見ると、暗いし、静かだし。
確かに、真夜中の様です。
夢を見ていた様な気もするので、眠りが浅かったのかもしれません。
半端な時間に、目が覚めてしまいましたね。

寝返りを打って、目を瞑ってみましたが。
なかなか、眠れません。どうやら…寝削がれた様です。
…困りましたね。何故か、本を読む気が起きなくて。
…どうしましょうかねえ。

え? あれ?

ぼんやりと、考えていた処に。
捲簾の匂いが、不意にして僕は目をぱっちりと開けました。
あ…そう、でした。ここ、捲簾の部屋の捲簾のベッドの中でした。
忘れてました。
残り香が、まだあったのですね。吃驚しました。

僕はもう一度目を閉じ、枕に顔を埋めました。

…元気ですよね。捲簾の事だから。
…今頃、何をしているんでしょうね。
…一体、何時になったら帰って来るんだか。
…ろくすっぽ、連絡入れてこないし。
…僕に、心配を掛けるなんて…ねえ。

段々、むかっ腹が立ってきました。
思考が捲簾一色になった事に、自分に、捲簾に…。
けど、一旦考えてしまった事は、頭の中から払拭されず。
広がっていくばかりなのに。
僕は逆らいませんでした。


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声が止められません。
漏れてしまう息も、捲簾の名前も。
一人で居るという事が、箍を外している様です。
唇を噛み締め様とも、思いませんでした。

僕は俯せになり、片手で枕の端をきつく掴み。
もう片方の手で、自分のものを握っていました。
記憶を辿り、捲簾がいつもしている様に手を動かして、みました。
…同じという訳には、どうやら無い様ですけど―――ん、いい…。

触られるのを悦んでいる、の…が、判ります。
握る手に力が籠もっていく、のも。
感じるとこを探して、動いているのも。
手だけが、別のイキモノになっていく、みたい…です。

はあ……っ―――と、長く息を吐くと。
冷たいものが口の端から、頬を伝わって枕へと染み込んでいきます。

肩が震えて、呼吸の間隔が短くなり。
腰の辺りに、急激に熱が集中してきて。
じっと、していられなくなっています。
きつく瞑った瞼の裏が、チカチカとしてきました。

『…天蓬』

耳の奥が、キーンと鳴ったかと思うと。
頭の中に浮かんだ、僕を呼ぶ捲簾の声が共鳴して。
身体の奥へと、響きました。

「…あっ」

両手首を掴まれて、強引に引きずり上げられる様な感覚が。
不意に怖くなり、目をパッと開けてしまいました。
未だ、手の中のものは、イッてないというのに…。


「何だ、もう終わりか?
 続けろよ、イッてないだろ、お前」

えっ! 捲簾っ? いつ帰って…。

「さっき、だ。
 部屋の中にお前の気配があったんで、起こさないよう気遣って入ってきたらな。
 イーこと始めてたからな、折角だから拝ませて貰った」

ニヤッと笑った捲簾の顔に、危険信号を感じて
身構えた途端、上から押さえ込まれ…。
圧迫感に、逃げる隙を失いました。

「声、久しぶりに聞かせろ。お前のイイ声、俺に」
「放…っ」
「手伝ってやるから」
「や…めっ」

中途半端な程、質が悪いものはなく。
僕は捲簾の手に促される儘、簡単にイッてしまって。
力の程よく抜けた身体を仰向けに転がされて。
大きく足を開かされ、真上から突き抜かれました。

僕からも捲簾に絡みついていたのが、記憶の端に残っています。
何をしたか、何を言ったかは記憶が軽く飛んでいますけど。
今朝は、身体の満足に反比例して、痛みで立たない腰の報復に。
横で寝ている捲簾の鼻を手を伸ばして抓んでみましたが。
流石に、昨日までの激務で疲労しているらしく。
全く、目を覚まそうとはしません。

なので、帰還の報告とかも後に…捲簾の目が覚めてからにしてあげましょうか。
『お帰りなさい』は、その時の気分で………。



2007.08.07 UP



★ コメント ★

裏三蔵様へ、捧げますv

リクエストも何も取ってないんだけど
メールの遣り取りの中で裏さんがよく

『天蓬を抱きたい!』

と、絶叫されるので、そこからヒントを得て
書き上げました、天蓬の一人エッチv
なので、やっぱりこれは裏さん行きかな〜と(笑)


ではでは、どうぞ、贈らせて下さいねv



モドル