さぁ



by 遙か



社会に出たばかりは、がむしゃらに日々が過ぎて行きます
それは、もう一杯一杯で
やらなくちゃいけない事が多すぎて、大変です
だから、時々、一休みと一緒に甘えたくもなるのですが
…なかなか、上手くはいかないようで…

   --*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--


「だからさー、イーじゃん。
 有休、取れるようになったんだろ?
 …え、ナニ…ナンで、使えないんだよ…使えるんだろ。
 そんな気にしないで、正直に書けばさ……は?
 ひ、ひでぇ…冷てぇ冷てぇ冷てぇ冷てぇ冷てぇ…八戒っ。
 …それが、恋人に対する態度かよ〜。
 あ! ゴメンゴメン…悪かったって。
 おいっ、こらっ…チョット待てって…切るなっ、おいっ、八戒っ!」

ツーツーツーと、切れた音のする携帯を俺は呆然と見つめた。
…最近、ツンに磨き掛かってねえか、アイツ。
元から充分なんだからさー、やめてくれって、全く。

八戒とは建築の専門学校からの仲。
在学仲に知り合って、ダチになって、卒業ん時は恋人になって。
現在も続行進行中!
んで、俺は実際に作る方で、八戒はその前の段階の線引きの仕事に就いた。

そんでもって、お互い仕事が忙しくて、卒業後はプチ遠距離恋愛っポイ。
それは、仕方ナイっちゃ仕方ねえんだけどさ。
やっぱ、顔を見たくなるじゃん。ナンもしなくてもさ。

それって、俺だけじゃねーよな。八戒だって、そーだよな。
だ〜から、休み取って、デートしよって誘ったってのに〜。
ナンだよ、あの態度は…クソッ!

…………………………。

八戒、スキな気持ちは会えなくたって、スキなまんまなんだけどさ。
抱き締めたいじゃん。温もりって欲しくなるじゃん。

八戒は俺がHばっかしたいみたいに、考えてるみてえだけどよ。
たーだ、恋人をギュッてしたい時ってあるじゃん。
ナンで、そーゆーの判ってくんねえのかなあ。
テレ屋にも程があるってもんだぜ。

偶にはさあ、こう、パアーッと素直になってくれてもイーと思わねえ?
思うよな?
俺のコト、スキなくせにさ。


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「だから、さっきから説明しているじゃないですか。
 有休、ええ、確かに取れる様になりましたよ。
 でも、新人がそう簡単に取れる訳ないじゃないですか。
 それに、申請理由だって…正直に?
 そんな事、書ける訳ないじゃないですか。
 悟浄と出掛けるからだなんて…酷いって…冷たいって……………。
 いいです、もう。そう思いたいなら思って下さい。
 じゃ、切りますね。電源も落としますから。」

プツッと、小さなボタンを押して。
機能を停止させた携帯を、僕は掌でぎゅっと握り締めました。

どうして…ああ、聞き分けがないのでしょうか、悟浄は。
学生の時とは違う事は判っているでしょうに、悟浄だって
社会人一年目では、僕の意志だけでは融通の利かない事が沢山あるのに。
まだまだ、ひよっ子なのですから、今は下積みをして地固めをしないと。
そんな大事な時期なんですよ?

お互い、希望の職種につけたのですから。
余計、その分を頑張ろうと思うじゃないですか。
それで忙しくなっても、頑張れるじゃないですか…悟浄の馬鹿。

いつ、僕が貴方に会いたくないと言いましたか?
会って、貴方の屈託のない笑顔を間近で見たいと思っているのに…。
僕だって、同じ想いでいるのに…。

それを判ってくれていないとは、思ってはいません。
悟浄に取って僕は、我が侭な甘えが言える存在で。
そして、僕も悟浄に安心しているんですよね…。
受け止めてくれるのが、判っていますから。

手の中の携帯をじっと見つめました。
悟浄の、今頃のあたふたした顔が浮かびます。
喧嘩はスパイスと言いますけど、加減が大事ですよね。
入れすぎると、味を台無しにしてしまいます…。

僕は電源を入れ直して、悟浄へと電話をかけました。


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八戒から仲直りの電話を貰って、しかも休日前の夜のデートも取り付けられて。
俺はかーなーり、ご機嫌だった。
休みってコトは、羽目を外せるってコトじゃん。
つまり、健全なデートなんだから、勢いで泊まりも当然OKってコトだよな。

ココは、八戒に素直になってもらう為にも、酔っ払わせて。
俺んち、お泊まりコースになってもらおうじゃん。
んで、久々の濃厚な夜をな〜、2人でな〜。
ふふん、鼻歌が止まらないぜ。

アレコレ計画して、頭ん中がそれで一杯になって。
仕事で、チョイミスをして怒られたのは、八戒には内緒に…しとこ。


そして、その待ちに待った当日。
八戒と久しぶりに、いつもんトコで待ち合わせて。
八戒のお気に入りの店で、飯食って。
携帯でも話してっけどさ、やっぱ顔を見ながら話すのってのが。
ずっと、イイv

俺のスキな八戒の顔が真ん前にあって。
携帯を通したんじゃない八戒の声を聞きながらのが、やっぱイイ。

機嫌と酒の量は、一緒に上がってって、俺は微酔いを軽く超えてった。
八戒の『しっかりして下さい』つー心配声の小言と。
肩を借りてるんで、接近してる髪からするイイ匂いが俺を刺激してくる。
普段、会えない我慢をズンズンと突いてくる。

八戒を帰したくねえじゃなく、帰さねえって決心をさっさと付けた。
俺はこのシチュエーションを最大限に利用させて貰って。
八戒をベッドの中に押し倒した。

最初にくる抗議なんかにビビるコトなく…酔っ払いだし〜。
こうなったらさ、止められるワケないっしょ〜。


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…こっの…重たいんですってばっ。
中身は子供でも、外見は大人なんですから。
貴方は――悟浄っ!

取り敢えず、抵抗はしておきます。
そうしておかないと、図に乗るだけですから。
これ以上、調子に乗られたら僕の身体の方が保ちませんから。

いくら、悟浄を好きでもどこかで歯止めは必要でしょう。
下世話な言い方ですが、遣り殺されたら堪りません。
悟浄一人残して、僕が逝く訳にはいきません。

けど、服越しでも伝わってくる悟浄の体温。
強引だけど、僕を押し潰さないようにして重みを掛けてくる気遣い。
僕の好きな、悟浄の声が。
僕の名前を何度も呼んで…囁いてきて。
悟浄の胸を押し返していた手を背中へと。
自然と、僕は回しました。

ほんの一瞬だけ、吃驚顔した悟浄でしたが。
次には、僕のネクタイの結び目に、その長い指をかけ。
いつも通りの、少し太々しい嬉しそうな顔で。
僕へと笑いかけてきました。


譲ったり、譲らなかったりの僕達の関係。
先の事も考えたりするのですが、今はまだ目先を優先して。
アバウトな幸せに、気持ち良く委ねる事にします。

――好きですよ、悟浄…

言葉の次にくるキスに、目を閉じながら。



2008.2.3  UP



☆ コメント ☆

紺さまに、心を込めて捧げますv

紺さんのお誕生日祝いと相互リンクのお礼に、書き上げました

リクエストは『鳶職の悟浄とサラリーマンの八戒』で
『八戒のネクタイを悟浄が外す』が必須事項でした

うーんうーん、お題のクリアはどこまで出来てるか
紺さんにお任せ〜(笑)
でも、このリクを書くのは楽しかったv

どうぞ、お受け取り下さいませv



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