glass green
by 遙か
〜 KTver.
コン、と一つ。
開いている扉を叩いて、中に入ったが部屋の主は居なかった。
ここに居ないとなると、第一候補の書庫だが。
そこは、いの一番に見に行ってしまっている。
そうなると、一体どこに潜り込んでいるやら。
寝こけていると、捜索も困難になるな…と。
今までの経験を交えて、対抗策を考え始めた俺の目に。
机の上に置かれている、眼鏡が映った。
「天蓬の、だよな…」
ここが、天蓬の部屋である以上、そうであるし。
確実に見覚えのあるこの黒縁の眼鏡は、天蓬のものでしかない。
ひょいと、持ち上げてみると。
主に置いてけぼりにされた眼鏡は、怒っているような心配しているような。
硬質な光を放っていた。
「全く…どこに行ったんだか」
ただ言えるのは、そう遠くではない事。
不便さでイライラしているだろう事。
――何で忘れていったかは、聞かない事にして。
俺は、天蓬の眼鏡を内のポケットに仕舞い込み。
今度は、絶対に見つけ出す覚悟で踵を返した。
所が、今まで静寂を保っていた空間に、妙な声が上がった。
振り返ると、掌が一つ、パタパタと…。
俺は確認の為、こちらからの死角。
机の後ろへと、回った。
「…天蓬」
呆れて、名前しか呼べなかった。
いつもの事とはいえ、どうしてここまでなってしまうんだか。
天蓬は判りませんと、ヘラッと笑って言うが、俺にだって判るか。
手だけは、眼鏡を探しているが。
その他は、電池が切れたままのように、一切の活動をしていない。
俺は大きく溜息を付いてから、天蓬の前にしゃがみ込み、頬を叩いてやった。
「…あ、れ…? 誰、ですか?」
…こんな台詞に一々切れてたら、コイツと付き合ってなどいられない。
俺は、呪文のように胸の中で繰り返した。
「俺だ」
取り出した眼鏡を掛けてやると。
「あぁ…貴方でしたか、捲簾」
半分以上、脳みそがまだ寝ているだろうが。
俺を認識出来た事に、単純に俺は気を良くした。
「ああ、俺だ」
ただでさえ、近かった距離を更に近付けて。
眼鏡のレンズ越しの、又、閉じてしまった天蓬の瞼を見ながら。
俺は苦笑しつつ、唇へとキスをした。
―――いい加減、起きろ、と。
〜 58ver.
「八戒」
昼に、目が覚めて。
俺は起きると、一番にするコト、家の中にいる八戒を探して。
リビングに来てみたが、ココにもいなかった。
台所はも、一番最初に見た。
セットしてあるコーヒーメーカーだけが、動いてて。
八戒はいなかった。
「…どこ、いるんだろ?」
寝起きの、まだブラシを入れていない髪をがしがしと掻きながら。
俺は、首だけを巡らした。
雨は降ってねえな。天気はイー。
だったら、買い物か…と、当たりを付けて。
俺はソファの上に、まだ眠い身体をドカッと座らせた。
…もーちっと、寝てりゃ良かったな。
けど、二度寝も面倒くせーし。
取り敢えず、一服すっかと、テーブルに手を伸ばした。
ん?あれれ?
いつも、タバコの傍にはライターと灰皿があんだけど。
今はもう一個、オマケがあった。
…これって、モノクル?八戒の…だよな。
持ち上げて、掌に乗っけてみると。
正座して、ちんまりって感じで、可愛く見えた。
…八戒も、これぐらい…うっ、わっ!
頭を左右に、ブンブンと強く振った。
別に可愛気がナイってワケじゃなくてー。
もう、ちっと素直になってくれたら嬉しいなー。
って、ぐらいで…そんな大したコトじゃねぇ、の。
危ねぇ危ねぇ…。
で、コレがココにあるってコトは。
八戒は、シテないってコトだよな、当然。
大丈夫、じゃねえよなあ…。
上に持ち上げて、眺めると。
ガラスが反射したのか、キラッと光った。
俺はスクッと立ち上がり、八戒に一刻も早く渡してやろうと。
リビングを飛び出しかけ…。
「「わっ!!」」
丁度、リビングに入って来た八戒と正面衝突してしまった。
「「痛っ……」」
咄嗟に、八戒の腰に腕を回して支えた俺は、ヨシ、偉かった。
「済みません、悟浄」
「八戒、平気か?」
視界の悪さが、八戒の表情を曇らせていた。
けど、ナンとなく頼りなさもあって、可愛く見えたりして。
「八戒、コレ」
「あ、探していたんです。良かった…ありがとうございます、悟浄」
俺からモノクルを受け取り、パアッと和らいだ顔に。
ドクンと、脈が跳ねた。
「八戒…」
「はい?」
片腕は、八戒の腰を抱いたまま。
顎を取って、その顔を見つめながらキスをした。
―――他のヤツになんか見せてたまるか、と。
2008.3.12 UP
☆ コメント ☆
マメタロさまに、心を込めて捧げますv
今年のオンリーで、とある理由で、お世話になったお礼に
書き上げたものです
何が良いですか、とお聞きした所
速攻で『眼鏡ネタなら何でもよし!』との力強いリクエストに
喜び勇んで、お応えしたつもりです
マメさん…どうかな?(心臓ドキドキ)
どうぞ、お受け取り下さいませv
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