ジレンマ
by 遙か
彼奴の
あの人の
―――手の内が読めない
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天蓬元帥――我が西方軍の誇る、ナンタラカンタラ…。
批評は様々に、良いのから悪いのまで。
けど、本人自身は至っては関知せず。
頭は確かに、切れる。切れすぎの感もある。
その反面、ずぼらで無精。
何で、こんな奴に、こんな顔が付いているんだってくらいの、美人。
たかが、皮一枚の造形だってのにな。
初めっから、興味が湧いた。
何しろ、初対面時が寝顔ってのは強烈だと思うぞ?
見せられた方は。
よく、この生活能力ゼロで、今まで生きてこれたもんだ。
周りが、甘やかしてきたのか?
…しかし、気付くと口煩く面倒を見ている、俺がいる。
放棄しようにも、妙に懐かれ放っとけなくなった。
便利に使われているのかも知れないが。
今更、この位置を別の奴に譲ろうとは思わなかった。
不思議だ。
『捲簾捲簾』
何度も、俺の名前を呼んでくる。
便所ゲタで、音を立てて歩きながら。
窓から、落ちるんじゃないかってくらい身を乗り出しながら。
呆気らかんと、気が抜けるくらいに。
いつからか、一番近しい相手だと思っていた。
―――が。
つくづく、底が知れない。
油断は禁物を何度も、味合わせられている。
で、その奇妙なスリル感は癖になった。
軍という組織の中で、生活の大半を共にし。
戦場とあらば、命の遣り取りもする。
培った信頼の中で。
俺はきっと、コイツを放さないんだろう。
生きている限り…。
「どうしました、捲簾。見惚れていましたか、僕に」
「バーカ」
「…上司に対する姿勢を教えてあげましょうか」
「いてっ、バカ、止めろって」
「止めろと言われて、止める人はいませんよ」
「本気出すなって、このっ」
容赦ない攻撃をしてくる手をやっと掴んで、押さえ付けて。
キスをして。
落ち着いたところで、唇を離して、目の中を覗き込んだ。
笑いながら、困惑している。
そんな感じに揺れている天蓬の目から、俺は目を離せなかった。
いつも、読み切れない。
全てを知ろうなど、無理を承知でいるが。
こんな時、知りたいという欲望に従ってジレンマに落ちる、俺がいる。
何をこれ以上、欲しいんだ、俺は。
「捲簾…」
視線を先に外し、天蓬が俺の肩へと顔を埋めてきた。
「子供みたいですね…僕達」
「ああ」
纏まりがなく、躁から鬱へと二人して移行する。
確立しているようで、不安な足元に。
天蓬も戸惑っていたのかと、安堵した。
「いつまで…」
「…ん」
ポツリと呟かれ、切れた言葉に俺は肯定の返事だけをした。
答は出ない。判らない。知らない。
いつか――先の事を今は、考えなくてもいいだろう。
ただ、身体を預けている天蓬を腕に抱き締め。
俺は、目を閉じた。
2008.8.22 UP
☆ コメント ☆
真神碧さまに、この話を捧げますv
相互リンクのお礼にリクエストを頂いて
(沢山時間が掛かってしまって済みません〜・汗)
『凄く格好良い告白か、プロポーズ』
と、ゆー素敵なお題を貰ったのに…
あまり、期待に応えられず…
でも精一杯、愛は詰めてあります!
どうぞ、お受け取り下さいませv
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