あなたに会えて良かった
by 遙か
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生きているだけで 精一杯だった身体に
想う心を 勇気を くれたのは あなた
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朝――熱が無くて。
昼――体調が安定していれば。
1時間だけ貰える、自由時間。
物心付く前から、入退院を繰り返し。
もう、ほとんど僕の私室になっている病室のドアを開けました。
自由と言っても、制限範囲が当然あります。
今日は天気が良いから、中庭のベンチで。
日向ぼっこをしようと決めて、歩き出しました。
一千万分の一の確率で、発生する血液の病気。
先天性で、治療というより。
これ以上、悪くならない様に。
進行を少しでも、遅らせる為の入院生活。
学校は勿論、行けなくて。
僕の対人関係は、家族と担当のお医者さんと看護婦さん達。
心配されたくないプライドで、築いた笑い顔は。
しっかりと貼り付いちゃって、今ではもう身体の一部化しています。
ベンチに座って、周りを視認してから…大きく息を吐いてから。
僕は、がっくりと肩を落としました。
後、何年生きればいいのでしょうか。
どれ位で、解放してもらえるのでしょうか。
両親、双子の姉の為には、おくびにも出さないけれど。
生きているのみの自分を、僕は嫌悪し続けているのです。
姉の花喃は、自身の健康を素直に喜べなくて。
父と母は、僕に愛情と負目を持っていて……。
暗い、ですね。もう止めましょう。
折角、一人で居られる時間なのですから。
勿体無いですものね、と。
うーーんと、伸びをした所で。
―――ドスンっ! えっ?
―――バタンっ!! えっえ?
―――ゴロンっ!!! な、何ですか?
慌てて、座っていたベンチの後ろを振り返ると。
松葉杖をちっとも役に立てず、盛大にひっくり返っている。
…人らしい物体が、そこに居ました。
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彼は『悟浄』と、名乗りました。
スキー旅行に行って、子供さんを助けて身代わりで大怪我を。
――骨折したと、看護婦さんが教えてくれました。
早く治らないと、助けた子供が気にするので。
リハビリで歩き回っているうちに、迷子になって。
病院奥の、特別棟にまで辿り着いたと、話してくれました。
外の人――僕とは、明らかに違う世界の住人は。
明るくて、豪快で、残酷な程眩しい人でした。
本当は繋がりは、持ちたくありませんでした。
擦れ違うだけが、良かった…のに。
会いに来てくれる事。話しをしてくれる事。
僕を僕として、見てれる事。
気持ちが動くのを止められない事。
諦めを…封じ込められない事。
全部、引っくるめた感情に気付いた時。
『スキだ』と言って貰えて。
『好きです』と応えてしまった僕は。
自分勝手な自分を…初めて自覚しました。
†††††
悟浄には、病気の事は差し障りの無い事しか。
話していませんでした。
聞かれれば答える位で。
『死』に近い事は、言葉巧みに隠していました。
悟浄に、僕から遠ざかって欲しくなくて。
そんなエゴ剥き出しの願いを。
僕は、悟浄の退院の時にぶつけてしまい。
SEXに耐えられる筈の無い身体を酷使して。
意識を闇の中へと堕として、しまいました。
†††††
僕は、後悔しませんでした。
悟浄の唇とキス。
抱き締めてくれた腕の強さと熱。
病棟の屋上。
干してあった、シーツの白さと抜ける様な空の青と。
悟浄の、僕だけを見ていてくれた紅の瞳の色は。
もう決して、僕からは消える事がない、喜び。
悟浄は忘れていいです。忘れて下さい。
忘れて欲しい。
それだけが、僕に出来る唯一の償いだから。
僕は。僕を。…消します。
†††††
「八戒です。」
初めて会った時に、名前を聞いたら。
嬉しそうに教えてくれたお前の顔は、しっかりと覚えてる。
あん時の、吸い込まれそうな碧色した目に。
俺は一目惚れしたんだからな。
忘れるなんて、ねえんだよ。
存在自体が、稀薄だった。
いつでも、簡単に消えそーで。
けど、存在を確かめたくて力一杯抱き締めたら。
粉々に壊れそーで、俺はいつも怖かった。
生まれ付きの病気のせいで、屈折はしてたが。
その純粋な歪みさえも、俺は好きになっていた。
八戒が健康だろうが、病人だろうが。
絶対に会えば、好きなったと確信出来ていた。
あまり…。
自分の病気の事は、話したがらない八戒だったから。
俺も聞かなかった。
知ろうとはしなかった。
だから、甘くみていたのかもしれない。
退院の時、俺は八戒を抱いちまった…。
俺の背に回された、細い指先が嬉しかった。
細いひんやりとした身体に、俺からの熱が移っていくのが嬉しかった。
素で、俺を受け入れてくれた八戒が、愛しかった。
行為の終わった後、八戒を白いシーツに赤ん坊の様に。
包み込んで、病室へと戻した。
『又、直ぐに会いに来るからな。』
そんな俺の言葉に。
『はい。』
と、深い碧色の目を微笑ませてくれた―――
†††††
それから、俺は八戒と会えなくなった。
八戒は俺と会ってくれなくなった。
病状の悪化の面会謝絶。
命の代償の、全身麻痺。
家族からの、嘆願。
八戒本人からの、拒否。
孤立無援になった、俺…。
けれど、悪い方向へと流れていく中で、俺は。
踏み止まり、足掻く。
八戒が【好き】で【約束】したんだ。
だから、俺はドアをノックする。
八戒と自分自身の為に、何度でも叩く。
俺は お前に 会えて良かったから―――
2004.4.6 UP
☆ コメント ★
ぶるGさまに捧げますv
相互リンクのお礼なの…
押し付けちゃうから、いいの…
お願い、貰ってっ(苦笑)
『パラレルでの悲恋の、悟浄と八戒の話』
昔々、チャットでぶるたんと盛り上がったネタですv
それを相互リンクのプレゼントで貰ってくれると
言って貰ったので、やーーーっと書き上げました(笑)
では、慎んで贈らせて頂きますvv
モドル