花 散る 散る U
by 遙か
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恋をした
好きと言えないまま…
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「じゃあ、私はキッチンを担当するわね。
だから、貴方達はそれぞれの部屋の片付けをしちゃいなさい。」
「うん、花喃。」
「は、はい、判りました。」
3月初旬。
俺と八戒は、それぞれの家を出て。
同居する為に、この古いマンションに引っ越して来た。
LDKに、トイレにフロに、和室と洋室が各一部屋。
やはり、私室は必要だろうと。
ジャンケンで、俺が洋室。八戒が和室へと決まった。
八戒から同居のOKを貰った俺は。
大急ぎで、部屋を探しをして、このマンションを見つけた。
マンションと言っても、築10年以上なんで、古い。
古いから、安い。
部屋数の事もあったし、まだ学生の身分で金も無いし。
古いのを除けば、条件にぴったりの物件だった。
八戒にも当然見て貰い。
『趣きがあっていいですね。』
と、にっこりと笑顔と一緒に承諾を貰った。
4月からは社会人と、新しい環境に慣れようと言って。
早めの引っ越しを決めた。
そして、その当日。
八戒の双子の姉さん、花喃さんも手伝いに来てくれて。
俺は、物凄い緊張感も背負っていた。
何しろ、八戒の家族だ。
俺は品定めされている気分だった。
勿論、同居なんだし。
……まだ、手を出した訳じゃないし(告白はしてあるが)。
何もそんなに緊張しなくてもと、八戒にも言われているが。
恋人の肉親で、下心をひたすら押し隠している身としては。
緊張しない訳にはいかないじゃないか。
初めが、肝心って言うだろ?
ここで、印象を良くしておくべきだよな。
のちのちの為にもな………。
「―――捲簾さん。」
「あっ! は、はい、何でしょうかっ。」
不意に後ろから、声を掛けられ。
俺は間抜けにも、どもってしまった。
「あら、驚かせてごめんなさい?
ちゃんと、ご挨拶をさせて頂きたいなと思って。」
くすくすと、これが鈴を転がすような笑い方って言うんだろうな。
双子と聞いて…なくて、今日初めて彼女と会って。
似ている事に、今更ながら俺は驚いた。
だが、男女の違いもあるし、2人の個性の違いもあるしで。
見分けるのは、簡単だった。
「あ、いえ、こちらこそ今日はありがとうございます。
手伝いに来て頂いて、助かります。」
「いつも、あの子の話で聞いていて捲簾さんには、私ね、お会いしたかったの。」
「え? そ、そうなんですか?」
「ええ。いつも嬉しそうに話すのよv あの仏頂面のあの子が。
それはそれは、貴方の事を楽しそうに。」
うわっ。
俺は慌てて、口元を隠した。
花喃さんから聞く八戒の事に、俺も嬉しくてにやけてしまう。
「だからね、今日も渋るあの子に強引に言って、付いて来たの。」
「あ、そう…なんですか?」
渋る…って、俺との同居は本当に嫌だったのだろうか。
…八戒、は。
「私がね、貴方に何かしでかすと思っているのよ。
あの子ったら、失礼よねえ。
こんな弟思いの姉の事を疑うなんて。」
…しでかす???
「一寸だけ、品定めしたいって言っただけなのよ?
もう、毛を逆立てる猫みたいに警戒しちゃってるの、あの子ったら。」
くすくすくすくすくす、と笑い出した花喃さんに。
俺は目を丸くしてしまった。
「大事な弟を渡すんですもの。
ちゃんと、自分の目で確かめなくちゃね。」
肩を竦めて、楽しそうに同意を…。
求めているのか? 俺に??
「あ、あの…。」
「ね、捲簾さん、お耳を貸して下さるかしら?」
ちょいちょいと、背の低い花喃さんが手招きするのに。
逆らえずに、身を屈めると。
「貴方は合格! chu !」
耳に囁かれて、頬に音を立てて…へっ、キス?!
「花喃っ! 一体、何をっ!!」
「あら、合格の印を押しただけよv」
「花喃っ!!!」
俺は頬をおさえながら、いつの間にか来ていた八戒と花喃さんの。
姉弟ケンカ(花喃さん側から見ると、じゃれ合い)を。
呆然と見ていた。
「だから、花喃を連れて来たくなかったんだっ。」
「もう、来ちゃってまーす。後の祭りよv」
延々と続く言葉のバトルに、俺は。
同居じゃなく、同棲でいいんだよな。
家族の許可を貰った事だし、と。
これからの生活に、期待を大にし始めた。
多少あった不安を払拭して。
俺は口が嬉しさで、緩んでいくのを止められなかった。
八戒…あのさ
これから、ずっと宜しくな―――
2004.5.5 UP
☆ コメント ★
暁さまに捧げますv
『甘い捲八』
以前、書いたお話の続きですv
今回は、お引っ越し編・花喃ちゃん付きです(笑)
捲八が好きで、花喃ちゃんが好きで…の
私と好みが一緒の暁さんの為に書きましたv
ねv 暁さん、喜んでくれたよね?(笑)
では、慎んで贈らせて頂きますvv
モドル