蜜 柑
by 遙か
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『厚着なんか、出来っかっ!』
格好付けの激しい男の、冬の薄着の理由。
けれど、炬燵大好きとばかりに。
手足を入れて、温々とした姿を見せられたらば。
後ろ頭を一つ。
ボケッと殴ってやりたくなるのは、正しい事だと思います。
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怒濤の大掃除の年末が終わり。
年始に伺うトコのない、沙家では。
八戒が、のんびりとしたお正月を迎えておりました。
「良いお正月ですねえ。」
昨日まで降っていた雪は止み。
天気は晴天。
そのせいか、静寂があり、何となくお正月に相応しい雰囲気で。
八戒は、上機嫌でした。
「……終わりましたが。」
「はい。ご苦労様です。」
その八戒とは、対照的にゲッソリとした悟浄が、おりました。
年末、八戒の再三の警告にもめげず。
大掃除をさぼった悟浄は、姫始めの禁止と家からの締め出しを。
静かに言い渡され、泣きに泣きを入れ。
松の内中の家事を全て引き受ける事で、手を打って貰ったのでした。
「…次は。」
「そう…ですねえ。
熱燗でもつけてきて貰いましょうかv」
渋々といった感じは、既に無く。
機械的に悟浄は、キッチンへと消えて行きました。
『これで、少しは懲りてくれましたかねえ…。』
その後ろ姿を見送りながら、八戒はクスッと笑いました。
『まあ、悟浄の座右の銘は、喉元過ぎればですから。
いつまで、持つ事やら。』
くすくすと、笑いのツボに嵌ったらしく。
八戒は、笑い続けていました。
さて、一方の悟浄はガスレンジの前で仁王立ちしつつ。
燗がつくのを待っておりました。
『くっそお〜。八戒のヤツぅ〜。』
もうすでに、自分の行いが原因というのを忘れて。
悟浄は、ブツブツと悪態をついておりました。
『酒ん中に、睡眠薬でも入れてやろーかっ。』
このまま、この状態が続くのは。
何と言っても、下半身が堪らない悟浄の思考は。
どんどん、危ない方向へと向かい始めました。
『意識無くても、身体は覚えてんだからさ〜。
俺は、愉しめるだろーしv』
……………。
『そしたら、試したい体位が一杯あっから〜。
この際、ヤッてもいいよなvv』
……………。
『よし! 善は急げだ!』
あの…、今までの過去を振り返れば。
それは、不毛な計画なのですが…。
――成功した試しが無い、そんな過去の汚点を振り切って。
悟浄は、薬を一個。お銚子の中へと落しました。
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細心の注意を払いつつ、内心を悟られない様に。
チラチラと、八戒の様子を悟浄は探っていました。
薬の入っている一本は、自分の手元にしっかりと確保して。
合間合間に、八戒のお猪口へと注いでいました。
あと少しで、お楽しみの時間がやってくる、と。
内心ワクワクしておりました。
八戒の目元が、ほんわりと朱をはいた様に染まっており。
とろんとした感じに、なってきているので。
更に、悟浄は期待大となっているのでした。
「…悟浄。」
「ん。ナニ?」
急に名前を呼ばれて、ドキーンとした悟浄ですが。
何とか押し留めて、平静を装いました。
「…外。」
「外?」
「外は寒いけど、家の中は温かいじゃないですか。」
「あ〜、そっだな。」
「部屋の空気も、ほかほかとしてて…。」
「うん。」
八戒の話の糸が、まだ掴めないでいましたが。
悟浄は、自分もそれを感じていたので。
素直に同意していました。
「年末…頑張ったんですよ、お節。
…悟浄の好きなのを一杯作ったんです。」
「うん。」
「…お酒も、奮発したし…甘いものも用意したし。」
「うん。」
そこまで言って、八戒はコテンと横になって。
悟浄を見上げて来ました。
「…でもね、何よりも…僕。」
「何?」
「悟浄と一緒に、お正月を迎えてて…とても幸せだなあって…。」
それはそれは、とろけそうな最上級の笑みで。
八戒は、目を閉じて寝息をたて始めました。
コロン…と、悟浄の手から空のお猪口が落ちました。
あまりの殺し文句に、悟浄の思考は完全に固まってしまいました。
暫く、八戒の寝顔に視線を奪われていた悟浄は。
呪縛が解けた様に、動き出しました。
お猪口を拾って、炬燵の上に置き。
一旦、炬燵から出て、八戒の横へと滑り込みました。
八戒の頭を持ち上げ、腕枕をし。
しっかりと、抱き寄せました。
一言、『俺の負け』と呟いて…。
伝わり合う、お互いの温かさが。
全てを昇華させてゆくのを感じつつ。
悟浄も、八戒と同じ様に目を閉じました。
炬燵の上の、山盛り蜜柑だけが。
見ていた二人、でした…。
2004.5.21 UP
☆ コメント ★
ハルタさまに捧げますv
思いっきりよく季節を外したお話、です
ええ、のろまな私のせい…なのですが
相互リンクのお礼に書かせて頂きましたv
甘いんだか…エッチのなのか…
書いた本人も判らない(苦笑)
では、慎んで贈らせて頂きますvv
モドル