さくらんぼう物語
by 遙か
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オフクロの幼馴染みが、死んだ。
交通事故、だったそうだ。
常に、冷静沈着のオフクロが真っ青になってすっ飛んで行った。
家に帰って来てからも無口で、親父が懸命に慰めていた。
端から見ても判る程、オフクロの嘆きは深かった。
俺ん家は、静かに喪に服していた―――――
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沙家は、母親の天蓬、父親の捲簾、長兄の独角児と。
末っ子次男の悟浄の、4人家族です。
全員それぞれの仕事を持っていて。
個々を尊重していました。
(自由放任主義とも言いますが)
天蓬は親から受け継いだ警備会社の二代目。
その手腕に、異議申し立てをする者は無いという敏腕社長。
(おそろしくて言えない)
捲簾は普通に、天蓬の会社に秘書として入社して。
逆玉の恋愛結婚し、一時育児休暇を取っておりましたが。
今は、奥さまの第一秘書として働いております。
(捲簾以外、扱えないから仕事復帰をくれとの重役連からの嘆願があったとか…)
兄の独角児は、三代目としての修行中。
現在、バイト→正平社員→係長までを順調に、昇格中。
温厚で、世話好きで、面倒見良しで。
性格○の人格者。恋人有り。
弟の悟浄は、大学卒業後コネで。
ミッション系の女子校に、世界史の教師として就職。
ガキは相手にしないと、公言。実践。
しかし、夜遊びは以前と変わらずで。
ノリが良くて、外面良しなので、自他共にの人気者。
但し、末っ子気質で、内弁慶の我が侭。甘ったれの所が有り。
家族以外は知りませんが。
さて、この一家に豆台風が接近中。
一体、どうなる事でしょう。
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朝の食卓での事でした。
沙家は朝だけでも、必ず一家揃って食事をする習慣を守っています。
父親と長兄が、セッティングしている中。
低血圧の母親と寝起きの悪い次男は、ボーっと椅子に座った儘。
大人しく、用意が整うを待っています。
この方が、支度がスムーズにいくので良いのです。
カシャカシャ。カタカタ。
テキパキとした手際の良さで、テーブルが整い。
『いただきます』を合図に、食事が始まりました。
朝から、しっかりと食べるこの一家。
暫くは、無言で食事していたのですが。
天蓬が、不意に口を開きました。
「悟浄。」
「ん?」
「今日、あなたのお嫁さんがこの家に来ますから。
しっかりと、面倒を見てあげて下さいね。」
「はあ? ナニそれ?」
まるで、天気の話みたいな気軽さで伝えられた内容に。
悟浄は、目が点になりました。
「部屋は、一応お前の隣だ。
まだ、高校生だから勉強部屋がいるだろうしな。」
「お、親父っ。」
吃驚する間も無く、次の事実が。
今度は捲簾から告げられ、悟浄は目を丸くしました。
「可愛い子らしいぞ。楽しみだな、悟浄。」
独角児からの、冷やかしを含んだ言葉で。
自分以外は、周知の事実だったのだと知り。
悟浄は、愕然としました。
「らしい、じゃなく、可愛いんですよv」
「ああ、可愛いぞ。」
夫婦揃っての、ほめ言葉に。
悟浄は、やっと正気を取り戻しました。
「一体、どーゆーコトか、俺に判るよーに説明しろっ!」と……。
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降って湧いた悟浄のお嫁さんは。
天蓬の幼馴染み、金蝉の忘れ形見で。
事故でたった一人の親を亡くし、身寄りも無いので。
高校を中退して、一人で自活するというのを止めさせたそうです。
『ウチへいらっしゃいv』と。
初めは遠慮して、なかなか首を縦に振らなかったのですが。
持ち前の口八丁手八丁で、承諾させてきたそうです。
何しろ、天蓬がその愛らしさを気に入ってしまい。
娘にしたいという気持ちを抱いてしまったのですから。
その野望を誰が、止められるでしょうか。
しかも。
引き取って育てるのはいいけど、嫁に出したくないと。
先の先の事まで考えてしまい。
それだったらば、息子の嫁にしてしまえば。
手放さなくて済むと、いう論理を組み立ててしまったのです。
天蓬のこの意見に、捲簾からの物言いなどありませんでした。
捲簾も、気に入ってしまったからです。
野郎2人よりも、可愛い子の方が。
断然、比重が高かったのは当然の事でしょう。
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「判りましたか?」
「判ったろ。」
確かに、事情は飲み込めた。
けど、けど、それを承伏する気の無い悟浄が。
異議申し立てをしようとした時。
ピンポーン――と、玄関のチャイムが鳴らされました。
「到着したみたいですね。」
「時間ぴったりだな。」
「悟浄。ほら、お出迎えしてあげて下さい。
待たせたら、可哀想ですよv」
あっさりとかわされ、玄関に追いたてられてしまいました。
こうなったら、その子の方を説得した方が楽だと悟り。
悟浄は、アレコレとセリフを考えながらドアを開けました。
すると、そこに居たのは。
悟浄との身長差、30p。
ハムスター系の愛らしい小動物的な、ちょこんとした雰囲気の女の子が。
一人、立っていました。
「あの…あの…僕、猪八戒と申します。
あのあの、今日からお世話になります。
あのあのあの、宜しくお願いしますっ。」
頭がもげそうな勢いで、下げられました。
そして、その様子を見ながら悟浄は。
その場に、立ち竦んでしまいました。
前代未聞の一目惚れ。
さあ〜、こんな子供に惚れてしまったと。
口に出来ない男の、奮闘記の始まり始まり?
2004.09.15 UP
☆ コメント ★
みみ蔵さまに捧げますv
リクエストを頂いて書いた
相互リンクのお礼です(汗)
あ〜、本当に今頃でごめんなさいっ!
私もだけど、みみ蔵さんも女のコ八戒ちゃんが
大好きなんですよね〜♪ うふふv
慎んで、贈らせて頂きますvv
モドル