一つのKiss
百万回のKiss
by 遙か
仕事は決して、嫌いじゃねえ。
面白いと思ってる。
手応えはあるし、遣り甲斐はあるしな。
けど…な。
ぜってえ、口にはしないが。
したくねえが。
心ん中に、ある――ちょっとした愚痴。
八戒を1人で、留守番させとくのが、すっげえ、やだ。
やなんだよなあ〜はあ……。
結婚して、3ヶ月。
その半分を俺は出張で、一緒に居られなかった。
八戒は、勿論な、何も言わねえさ。
きちんと、俺の支度してくれて。
ちゃんと、『いってらっしゃい、気を付けて。』って。
俺を見送ってくれる、さ。
だから、余計に。
自惚れたい。
八戒が、俺を見送る時。
きゅっと、唇をするコト。
瞳の色が、強がって揺れてるコト。
指先が力なく、俺のスーツの裾を握ってるコト。
八戒。
抱き締めたい。
俺の腕で、お前を抱き締めたい。
お前の全部を抱き締めたいんだ。
空港からの帰りの高速道路。
何で、よりによって、俺が帰る日に。
トラックの横転事故なんて起こって、渋滞すんだよっ。
一向に動かない車の列に、イライラするっ。
今日、帰るコトは連絡してあったが。
この事故のコトは、携帯の充電が切れてしまい連絡が出来ていなかった。
待ってる…よな。
空港を出る時に、電話した時は。
『悟浄の好きな物作って待ってますから。
気を付けて帰って来て下さいね。』
そう、言っていた。
俺の好きな、八戒の声で。
くそっ。
一刻も早く、お前んトコに帰りてえ。
帰りてえ、よ。
八戒――。
午前三時。
俺は地下の駐車場に、車を止めて。
大急ぎで、エレベーターに乗り。
部屋へと向かった。
さっき、マンションに着く寸前に見えた部屋の灯り。
八戒。
八戒。
八戒。
鍵を出すのも、もどかしい。
ドアを開けるのも。
靴を脱ぐのも。
「八戒っ!」
時間なんて、夜中だろーと、頭に無く。
俺は大声で、八戒を呼んだ。
「悟浄っ?!」
弾く様に、リビングから八戒が出て来て。
広げた腕の中――俺の腕ん中に飛び込んで来た。
「どうしたんですか、一体?
こんなに遅くなるなんてっ。」
「ごめんごめん。渋滞に掴まっちまって…。」
「だったら、どうして電話を…。」
「電源、切れちまったんだ…ごめん。」
「心配…したんですよ。
何かあったんじゃないかって…。」
「ごめん…ホントに、ごめんっ。」
八戒が、俺の胸に顔を埋める。
細い肩が、小刻みに震えだした。
「心配…した…ん…です。…本当に……悟浄。」
「八戒。」
触れた頬には、涙。
俺はそのまま、頬に手をあてたまま。
八戒へとKissをする。
何回も、何回も。
そっと、触れるだけのKissをする。
八戒への愛しさだけを――刻みながら。
2001.5.11 UP
☆ コメント ★
甘いのでしょうか。
それとも、切ないのでしょうか。
とにかく、タイトルがポンと思い付いて。
このタイトルで、新婚さんを書きたいって、突発的な衝動のまま。
書き綴りました・笑。
このシリーズは、生クリームとカスタードクリームとハニーディップとメイプルシロップが。
たっぷりと、かけてあります。
どこまでゆくかは、この2人次第で御座います。
温かく、「けっ、やってなさい。」と、見守って下さると嬉しいです・笑。