一発逆転
by 遙か
「悟浄。起きて下さい、悟浄。朝ですよ。」
八戒の声が聞こえる。
俺を起こす八戒の声が。
それは、聞き慣れた、そして、いつも聞いていたい声で。
「――ん。」
「おはようございます、悟浄。」
「はよ…八戒。」
キスを強請って、手を伸ばすと。
八戒の柔らかい唇が、朝用のキスをしてくる。
それに、満足して俺は起き上がった。
「イー天気だなあ。」
「ええ、良いお天気ですよ。
さ、悟空に着替えを借りて来ましたから、これを着て下さいね。」
「へっ?」
何で、俺が悟空の服を着なくちゃならねーんだ。
「だって、仕方ないでしょう。」
仕方ない?
仕方ないって、何がだよ。
「あっ…ああ、悟浄、貴方まだ気付いていないんですね。」
だから、何がだよ。
「では、ちょっと、立ってみて頂けませんか。
僕の前に。」
? まあ、立てと言われれば、立ちますがね。
ほいっ。
!!!!!
「ほら、分かりましたでしょう? 悟浄。」
絶対に、楽しんでいる声。
絶対に、この状況を八戒――お前、楽しんでいるだろっ。
「で、それって何歳位の時の姿なんですか、悟浄。」
今の俺のサイズは、八戒を見上げなくちゃなんねーサイズ。
しかも、声までハイトーン。
何だ。何だ。何だ。
一体、どーなってんだあーーっ。
「うわっ、悟浄、俺と同じくらいじゃないか?」
わざわざ、傍に寄って来て手で測るんじゃねーつうの。
このバカ猿。
「どうせ、日頃の罰があたったんだろ。」
俺にあたってたら、お前にもあたってるだろ。
このクソ坊主。
「まあまあ、2人とも。本人は大変なんですから、あまり刺激しないであげて下さいよ。」
八戒……。
お前、ホントに、心配してる?
朝から、ずっと、ご機嫌ちゃんに見えるんだけどよ。
「悟浄。」
「んーー、何。」
「買い出しに付き合って頂けませんか。」
「いいけど。」
「ありがとうございます。ご褒美に好きな物、買って上げますからね。」
「えー、いいなー。」
「飴でも買ってもらってこい。」
おいっ・怒。
お前ら、絶対、人の不幸を楽しんでいるだろっ。
「はい、ご苦労さまでした。」
買い出しを終えて、俺達は宿の部屋へと帰って来た。
「助かりました、悟浄。」
「なあーっ、八戒。」
「はい、何でしょう。」
「ご褒美、買ってくれるって言ってたよな。」
「ええ、言いましたよ。」
「で、何でこれなんだ?」
八戒がご褒美と称して買ってくれたのは、苺の飴。
「ストロベリィ・キャンディです。」
そんなの見りゃ分かるって。
何で、これがご褒美なんだよっ。
「だって、煙草を買う訳にはいかないじゃないですか。
今の悟浄は子供なんですから。」
さらっと、言うな。さらっと。
見掛けは子供でも、中身は俺だぞ。
「八戒っ。」
「やっぱり、道義的にもね。
それに、これを機会に禁煙するのもいいじゃないですか。」
くすくすと、八戒が笑い出す。
こーのー、甘くみんなよ。
そろそろ、堪忍袋の緒を切ってやる。
「八戒。」
「はい。」
返事を返した瞬間、俺は八戒を後のベッドへと押し倒した。
「何ですか、悟浄?」
こーいーつー、余裕ぶっこいてんじゃねーぞ。
「やるぞ。」
「やるって、貴方ねえ。
僕を犯罪者にする気ですか。
いたいけな子供としちゃったら、淫行罪になっちゃいますよ。」
ボスッ。俺はそのまんまの形で、八戒の上に気力が抜けて、覆い被さった。
言うにコトかいて、こーくるか。
ホント、喰えねえヤツ。
「で、悟浄。」
「何だよ。」
「朝も聞いたのですけど、今の貴方って何歳位の時なんですか。」
「――ん、12…くらいのような気がする。」
「随分と大きかったんですね。」
「まあ、マセガキだったもんで、チェリーちゃんじゃなかったな。」
「それは、また……。」
八戒の目が、心底、呆れてる。
あのねえ、そんなしみじみ言わんでくれるか。
それにさあ、その頃からテクニックを磨いてきてたんだからさ。
今、お前を喜ばせてあげられるわけっしょ。
「遠慮しときます。」
え、なんでだよ。
「やっぱり、その気になりませんし。
元に戻った時のお楽しみという事にしましょう。
ねっ、悟浄。」
スルリと、いとも簡単に俺の下から抜け出して。
八戒は何事もない様に、立ち上がる。
ニコリと、笑って部屋を出ていく。
みーてーろーよーーっ。
ぜってえ、喰ってやるっ。
この姿が、元に戻る前に絶対やってやるっ。
ベッドの上に、取り残された俺は。
堅く堅く、握った拳と共に。
堅い決心をした。
2001.5.16 UP
★ コメント ★
柾紀さんよりの、リクエストでした。
ごめんね、遅くなって。
小さくなった悟浄をご覧になりたいとのことでしたので。
こーなりましたが……。
完全に、八戒に遊ばれてますね。はは。
八戒、超・喜んでますね。
ホント、楽しそう。
油断してると襲われちゃうよお〜・笑。
それとも、いつもとサイズが違うから。
どこのサイズがって、突っ込みはしないように・笑。
逆に、新鮮さを楽しんじゃうのかなあ。
八戒さんってば、/////。
バカ丸出しで、申し訳ありません……。