遅く起きた朝は……



by 遙か



「おはようございます、悟浄。」
「…………………ん、八戒?」
「はい、もう起きましょうね。」
「あ………あぁ。」

何だか、すっげえ、優しい起こし方だなあ。
こんなの今まで、あったコトねえーんじゃないか?
俺は頭をブンブンと、振った。
さっさと、目を覚まさねえと。
何かヤバイ気が、するぞ。

「どうしました、悟浄?」
「うんにゃ、別になんでもねえよ。」
「あとで、僕が服を買ってきます。
 取り敢えず、今は…仕方ないですから。
 そのままで、いいですよ、悟浄。」
「八戒?」

背中を冷たい汗が、流れていく。
八戒の言っているコトの意味が、分からなくても。
俺の身に何かが、又、起こってるのは分かる。

「けど、本当可愛いですね。
 今度は、いくつの時なんですか、悟浄?」

八戒が俺の顔を覗き込んでくる。
それは、滅多に見られない上機嫌の顔で。



「うわっ、悟浄っ。
 また、ちっこくなったんだあっ。」
「…更に、罰が当たったか。」

はしゃぐ悟空に、冷静な三蔵。
俺は自分のこめかみが、ひくひくとするのが良く分かった。

「はいはい、これ以上、小さい子を苛めるのは止めましょうね。
 2人共。」

八戒っ。お前が一番やってんだぞっ。
俺は後に立っていた八戒を振り返って。
ギッと、睨んだ。

「お腹空いてるでしょう。
 悟浄。はい、いらっしゃい。」
「こらっ、八戒、降ろせっ。」
「はいはい、暴れちゃ駄目ですよお。」

八戒が俺の身体をヒョイと抱き上げて、椅子へと座らせる。
いつも抱き上げている恋人に。
抱き上げられる、この状況……。
俺は自分の不幸に、目眩がしてきた。
頭、いてぇ。
ガンガン、してきた…。
いってぇ、俺が何したってのよ。
こんなに、清く正しく美しい、生活を送ってるってのに。

「はい、悟浄。残さず食べましょうね。」
「……………うーーっ。」
「ちゃんと、食べないと大きくなれませんよ。」

ゴンッ!!
テーブルに、俺は突っ伏した。



今度は、5歳くらいですかね。
本当、可愛いです、悟浄ってば。

先日、12歳の大きさになってしまった悟浄が。
更に小さくなっていたのは、今朝の事。
目を覚ましたら、僕にしがみついて寝ている悟浄の大きさに。
その時は、びっくりしましたが。
あまりの可愛さに、僕は嬉しくなってしまったんですよね。
ふふ。思い出すと、顔が弛んでしまいます。

今、僕は子供服のコーナーで、悟浄の服を物色中。
何しろ、着られる物が一つもないので、外出出来ませんもの、悟浄は。
だから、僕一人で買い物に来ているんです。
悟浄、ですか?
三蔵と悟空に頼んで来ました。
一人で置いておくのは、心配ですからね。

さて、と。
子供服っていっても、色々あるんですねえ。
選ぶのが楽しいです。
だって、悟浄は何でも似合いますから。
何時、戻るかが分からないから。
当面の着替えを何着か、買っておかないと。

「いらっしゃいませ、お子さまは何歳でいらっしゃいますか。」
「ええ、5歳の男の子なんですけど、少し標準より大きいんですよ。」
「でしたら、あちらのコーナーの方がサイズ大きめのを取り揃えて御座いますので。」
「有難う御座います。」

僕は店員さんに、お礼を言って。
後は、自分で全部選びたいので。
一人で、教えてもらったコーナーへと足を向けました。



「ただいま帰りました。」
「あっ、八戒。お帰りーっ。」
「……………煙草は?」
「はい、買って来ましたよ。
こっちは、悟空の肉まんです。」
「サンキュー。」
「それで、悟浄はどうしました?」

荷物をテーブルに置きながら、僕は辺りを見回した。

「部屋から出て来ないんだよ。」
「拗ねてんだろ。」
「分かりました。」

何となく、予想は付いていたので。
僕は直ぐに納得して、僕は天の岩戸へと向かいました。



だーーれが、機嫌なんか直すかっ。
そんなネコ撫で声で、言っても無駄だぞっ。
案の定、部屋に籠もって、毛布を被ってた俺んトコに。
買い物から帰って来た、八戒が直ぐにやって来た。

「ほら、おみやげ買って来たんですよ、悟浄。」
 ………知るかっ。
「何をそんなに拗ねているんですか、悟浄。」
 ………分かってんだろっ。
「顔、見せて下さい、悟浄。」
 ………そんなしおらしい声出しても、無駄だっ。
「…………………………。」
 ………ん、どした?

不意の八戒の無言に、俺は毛布の中から外を見てみたら。
八戒っ? 泣いてるっ?
掌で顔を隠して、俯いて、肩が震えてて。

「八戒っ、俺が悪かったっ。
 機嫌直すから、泣かないでくれっ。」

がばっと、起き上がり、俺は八戒へと飛び付いた。
ここまで、困らせるつもりじゃなかったんだっ。
少しは、困ればいいと、思っただけなんだ。
ごめんっ、ごめん、八戒っ。

「本当に、貴方って可愛いですね、悟浄。」

やられたっ。

「離せっ、八戒っ。」
「大好きですよ、悟浄。
 どんな姿の貴方も。」

このまんま、気を失いてえっ。
誰でもいい。
誰でもいいから、この悪夢から俺を助けてくれっ。



2001.5.22  UP



☆ コメント ★

楽しかったです。
ほお〜、うっとり〜。
実は、この他にも色々なネタがあるのです。
【ね、玲さん・笑】

1.子供扱いに不満を抱いて、家出しますが。
 けど、子供の足なのでそんなに遠くに行けなくて、追いかけて来た八戒に保護されて。
 心配かけた罰として、お尻を叩かれてしまう悟浄。
2.八戒が買って来た、悟浄用の食器。
 ど●え●んのフォークとスプーンと落ちても割れないプラスチックのお皿とお茶碗。
 メニューは、旗の立ってるお子さまランチ。
3.夜の9時には子供は寝なさいと。
 八戒の子守歌と一緒にポンポンと寝かされる悟浄。
4.禁酒・禁煙。
5.トドメは、八戒とのH禁止…H断ち? かな・笑。
 いや、出来ないか…やりたくても・大笑。