Virgin Eyes
 
@ 〜 ありったけの笑顔で 〜


BY 遙か


 「あっれー、八戒、どしたの?」
「え、何がですか?」
「チョー、難しい顔してんぞ。」
「そうですか。」
「うん。なっ、三蔵。
八戒、難しい顔してるよな。」
「……ああ。」
「悟空にも分かってしまう程ですか。
僕もまだまだって事ですね。」
「…何が、あった?」
「ええ、ちょっと…。」
「俺が相談に乗ってやるよv」
「サルじゃ、役にも立たん。」
「ひっでえ、三蔵っ。そんなコトないよな、八戒っ。」
「ありがとうございます、悟空。」

大学、構内、中庭での、ランチタイム。
八戒が作ってきたお弁当(本日、おにぎり弁当・唐揚げ&甘い卵焼き付き)を囲んで。
大学一、毛色の変わった3人組が、お昼を取っているトコロでした。
玄奘三蔵、教育学部の3回生。
孫悟空、これまた教育学部の1回生。
猪八戒、同じく教育学部の2回生。
どうして気が合うのかという、疑問は回りの方々の一番の疑問点なのですが。
誰も面と向かって、質問したコトは御座いません。
だって、本人達も分かっていないコトを聞いても無駄でしょ・笑。
兎に角、名物トリオには違いありませんし。
三蔵が、苦虫潰そうともね。
それに、何より何処に居ても目立つ確立した存在感の強さ。
まあ、憧れの対象と言えば、言えますが…。

さて、そんな3人の本日のお昼時の話題。
八戒の口には出さない、微塵にも出さない、ご機嫌斜めなのですが。
通常、そんなのを他人に悟られる八戒ではありませんです。
まあ、この2人は別格ですので、バレてしまうのですがね。
八戒もその点は、了承してますのでわざわざ隠すコトをしないだけ。

「で、どうしたんだ、八戒?」
「ええ…今朝、届き物があったんですよ。」
「何、食い物?」
「いえ、食べ物ではないです。でも、その方が良かったかも…。」
「何が届いたんだ?」
「ピンクのルージュと白のドレスとエメラルドをあしらったティアラです。」
「何それえっ?」
「僕にも分かりません。
届けに来た方にも間違いじゃないんですか、って尋ねたんですけど。
確かに、送り先は僕の所なんですよね。」
「…金持ちの変態じゃないのか?」
「心当たりないんですけどねえ。」
「あっ、それってストーカーってヤツか?
だったら、俺が守ってやるよ。」
「確かに、お前はそういう輩に目を付けられ易いからな。」
「あ、酷いですね、三蔵ってば。
でも、やっぱり気味が悪くて…分からないと対処のしようがないものですから。」
「だから、俺が守るから大丈夫だって。
八戒は安心してていーよ。」
「そうですね、悟空は強いですから。
その時は宜しくお願いしますね。」
「うん。まっかしてvv」
「――餌代分は頑張れよ。」
「ぶうっ!」

と、ここまでがお昼の会話です。
さて、この時から2時間後。
八戒のみ、この日の講義が終了し、買い物をして帰ろうと。
いつも通りに正門へと向かいました。

ざわざわ。がやがや。ひそひそ――と。
元より、大学というものは学生で騒がしいと決まっているモノですが。
その時のモノは、確かに種類の違うモノでした。
そして、それが正門の前――から、発せられていて。

『は? 何ですか、あれは?』

これでもかというくらいの、どうやってこの日本の道の角を曲がるんだというくらいの。
馬鹿デカイ、黒でピッカピカのロールスロイスと。
どう見ても、護衛を兼ねているだろう、隙のナイ黒眼鏡の男達。

『何か、ベッタベタの世界が展開されてますね。
でも、僕には関係ないし、興味もないですし。
レポートと買い物があるから、早く帰りましょう。』

済みません、通して下さいね、と。
八戒が野次馬根性の人混みの脇を通り抜けようとしていた時。
カチャリと車のドアが開かれ、トンと中の人物が地に足を降ろし。
スクッと立ち上がり、ワーーッと回りから驚きの声が上がった。
しかし、我関せずの八戒は歩く速度を緩めるコトも振り返るコトもなかった。
なかった…の、ですが……。

「猪八戒。」
「はい?」

突然、自分の名前を呼ばれて面食らわない人はおりません。
八戒もこれだけは、例に漏れずでした。
で、その声の人物へと視線を向けました。
向けなければ良かったとは、後の後悔。

『な、何ですか、あれは?』

花束――というのには、あまりにも凄い数で。
一体、何百本なのかと聞きたく成る程の、両手に抱えきれない程の。
真紅の薔薇――しかも全部蕾のまま――を持った長身の男が。
迷うことなく、真っ直ぐに八戒へと向かって来ていました。
薔薇の色よりも濃い、真紅の髪と真紅の瞳の、男が。
黒のタキシードを纏って、人懐っこい笑顔と共に。

「お前にやる。」
「やるって、貴方はどなたですか。」
「シャ・ゴジョウだ。」
「ゴジョウ?」
「そうだ――八戒。」

常識を一気に外れた展開に、固まった八戒に。
ドクガクジと名乗る、多分、お付き頭と思われる男から詳細が話された。

【シャ・ゴジョウ】
アラブ、トウゲンキョウ国、皇太子。
日本の大学へ留学の為、来日。
昨日、見初めた八戒へ。
本日、正式に求婚しに来た――と。

「もしかして…今朝、届いた物は貴方ですか?」
「ああ、俺が贈った。気に入っただろ。」
「気に入るも何も、僕は男ですよ。」
「男でも、お前には似合う。別に構わない。」
「僕が構いますっ。」

価値観の違い、ハードルの高さとはこんなに疲れるモノかと。
八戒は、眩暈がする。
生まれた時から、王族。
しかも、そのトップを継ぐ者としての、環境。
そして、未来も揺るぐコトのない、己への自信。
それらを全て、兼ね備えて。
八戒への前へ立つ、男――シャ・ゴジョウ。
NOと断られる可能性など、微塵も思ったコトがないのだろう。
一体、どうやったらこの申し出を断れるのだろうと。
八戒が思案していた処、ふとある考えが浮かんでしまった。

「あの、一つお聞きしたい事があるのですが。」
「何でも聞いていいぞ。」
「あの、貴方のお国って確か、一夫多妻制が主流ですよね。
そうすると、この話を受けた場合。
僕って何番目なる訳なんですか?」
「8番目だ。」

元々、自分でも堪忍袋の緒は短いのは、知っている。
大体、朝の贈り物から、気分がすっきりしなかったのだ。
だったら。
原因が分かったのだから、もうすっきりしてもいい筈。
八戒は、ぐっと右の拳を握り締めた。

「生憎、ここ日本では、一夫一妻制でしてね。
僕の貞操観念もそのつもりでいます。」
「ふーん、だから何だ。」
「ええ。ですから、僕、そんなに心広くないんですよ。
残念ながら――。」
「げほっ。」

的確に、素早く、八戒の拳が。
ゴジョウの鳩尾に打ち込まれる。
多少の手加減が加えられていましたから、崩れ落ちるコトはありませんでしたが。
ダメージは、相当なモノで。

「ま。見くびるんじゃねェよってカンジですねv」

にっこりと、一言。
ゴジョウは鮮やかな、その微笑み、その声に。
痛みを忘れて、見惚れた。

「折角のお申し出ですが、このお話は謹んでお断りさせて頂きます。
では、失礼致します。」

軽い会釈と踵を返して立ち去って行く姿。
一連の動作が、風の様に滑らかさを持つ。

「ゴジョウ様っ。」
「平気だっ。」

ダメージを受けていたので、足が瞬間ふらついたゴジョウに。
ドクガクジが慌てるが、それを手で制す。

「より、惚れた。
断りなんてさせてやんねえ。
俺のモンだ。そう、決めたぞ。」

八戒からしてみたら、迷惑でしかない、このゴジョウの宣言。
はてさて、一体、どうなりますことやら・笑。



2001.9.6 UP



Aへ続く


★ コメント ☆

サイト復活記念v
初めて、連載モノに挑戦です。
どこまで書くかは、神のみぞ知るってヤツですね・笑。

コンセプトは【アラブの王子様のゴジョ】と
【たった一人のハーレムのお姫様八ちゃん】だ!!
うーんと、うーんと。
アラブ風もどき、ラブコメ味付け・ぷっ。

書いてる本人が、めっさ楽しんでいるので、
読んだ方も楽しんで頂けたら、嬉しいな。