Virgin Eyes

A 〜 あなたに逢うまでは 〜



BY 遙か


「お帰りなさい、悟能v」
「え、花喃、どうしたの、また?」
「遊びに来たの。何よ、またって」
「また、お義兄さんと何かあったのかなって。」
「何かって?」
「……夫婦喧嘩。」
「こらっ、悟能っ。」
「ごめん、ごめん。だって、この間もそうだったから。」
「今日は、悟能に届け物があったの。」
「届け物?」
「ほら、林檎の紅茶。あと、パイも作ってきたのよv」
「…ありがとう、花喃。」

僕の双子の姉。
花喃は、去年、結婚したばかり。
両親が早くに死んでしまったから、僕達はそれから一緒に暮らしていた。
いつかは、離れるとは覚悟していたけれど。
花喃の結婚がこんなに早いものだと思ってもいなかったから。
実は、少し落ち込んだりもしました。
僕以外の誰かを選んだ、花喃。
血の繋がりだけでなく、他人を愛した、花喃。
嫉妬…ですね、色んな意味を含めた。
でも、一番の優先事項は花喃の幸せ。
それが、一番。
だから、花喃が笑っていてくれる、今。
僕もとても、幸せだと感じています。

コンコン。

「あら?」
「ああ、いいよ。僕が出るから。」

ドアがノックされて、僕は玄関へと向かいました。
運命の扉という言葉があるけれども。
まさしく、これがそれだとは。
この時の僕には、思いもしなかったんですよね。
だから。
簡単に開けてしまったのですけど。

「八戒。」
「!!」

後の祭りとは、この事を差すんだと。
ズキズキし始めた頭で、僕は思いました。
どうして…。
 どうして、彼がここに居るんですか?
誰か、教えて下さい。
いえ、教えてくれなくてもいいから。
このまま、彼を静かに排除して下さい。

「……………何の御用ですか、今度は?」
「プロポーズをしに来た。」
「返事は、先程した筈ですが?」
「Yesの返事が、欲しいから来た。」

日本のアパートの玄関に、全く相応しくない、彼。
価値観が、世界が違うのを全く頓着しない、彼。
全く…どうしたら…。

「NO、です。
いくら、何度お申し込みを頂いても、未来永劫、このお返事しか出来ません。」
「未来は確定していないぞ、八戒。」
「はい?」
「どうなるかなど、誰にも分からないから面白いんだ。
勝手に決めつけて、選択の幅をわざわざ狭くするコトをするんじゃない。
常に、イイ方へ考えれば、結果は自ずから付いてくる。
だから、何の心配もいらないんだ。
な、八戒。」

同意を求めないで下さい。
ここで、頷いたら最後じゃないですか。
そういうのを屁理屈って言うんですよ。

「悟能、お友達?」
「ち、違うよ、花喃っ。」
「初めまして。姉の花喃と申します。」
「シャ・ゴジョウだ。」
「ゴジョウさん? 日本の方ではないのね。」
「そうだ。国はアラブだ。」
「留学生なのね。
じゃあ、悟能、親切にしてあげなくちゃ、駄目よ。
日本の習慣に慣れるまで、大変でしょうし。
折角、お友達になったのだし。
ねっv」

花喃……。
いや、でも。
ここで、勘違いをわざわざ訂正する必要なんかない。
このまま、帰って貰う方が都合がいい。
だったら。
と、僕が気を取り直した時だった。

「悪いが、俺は友達ではなく、求婚者だ。
八戒に、承諾を貰いに来た。
俺は、無理強いは好きではない。
合意の上が、好きだ。」

な、なんてコトを花喃にまで言うんですかっ。
もう一度、殴ってやらないと、彼の目は醒めないのかもしれない。
僕は、もう一度、拳に力を込め始めた…のですが。

「まあ、そうなの?」
「そうだ。」
「でも、ゴジョウさんのお国って、アラブなのでしょ。
そうしたら、悟能もそちらで暮らすって事になってしまうのよね。」
「心配ない。
盆と暮れと正月には、里帰りをさせる。」
「あら。」
「それが、日本式なんだろ。
ちゃんと、勉強した。」
「偉いわ、ゴジョウさん。
良かったわね、悟能。
これだったら、安心よねv」
「か、花喃っ。」
「そうそう、いつまでも玄関先じゃ、失礼よ。
上がって頂きなさい。
私は、そろそろ帰るから。
夕飯の買い物していかなくちゃならないし。
又ね、悟能vv
ごゆっくり、ゴジョウさんv」

靴をとんとんと履いて。
手を振り、笑顔で。
花喃は帰って行く。
笑えない冗談の、爆弾発言を残して。

「理解ある、良い姉上だ。」
「僕の自慢の姉ですから。」
「上がらせてもらうぞ。」
「勝手にどうぞ。」

なんだか、もう、疲れてしまいました。
ここで、押し問答するのが面倒臭くて。
僕は、先に部屋の中へと戻った。

「失礼する。」

以外に、礼儀正しい疫病神の声に感心しながら――。



2001.9.18 UP



Bへ続く


★ コメント ☆

サイト復活記念のA話目v

ホントは、イベント参加後、直ぐに書こうと思っていたのですが。
ちと、前日にやったボーリングの影響もあり。
断念・笑。
でも、ゴジョウが急かすのと、自分も書きたいのとで。
はい、お目見え致しました。
花喃ちゃん、登場です。
悩んだんですよねえ。
彼女を生きて出すか、鬼籍の人で出すか。
で、こーなりました。
ははは。

ウチの花喃ちゃんは、元気です。
八戒とは双子だけど、そっくりだけど。
魅力の違う、美人です。
とにかく、パワフル。
八戒の性格に、三重位、輪を掛けた良い性格です。
花喃ちゃんのコトを書くのは、とっても楽しいにゃんv