Your innocence



BY 遙か




あまり、自分で自分の事を。
僕は好きでは、ありませんでした。
自分に対する価値
それをどうしても、考える事が出来なかったんです。

以前は。
ただ、花喃が。
僕の指を好きだと言ってくれていたから。
僕は、生きていました。
花喃の、その言葉の為に。

今、花喃がいない、今は…。
死んでも良かったのに。
生きている僕がいる。
生きて、笑っている、僕がいる。

悟浄。
あなたが、好きだから――。


「ナニ、笑ってんの?」
「笑ってました?」
「うん。すっげえ、俺が嬉しくなっちゃうような顔でな。」
「悟浄が、ですか?」
「うん。とろけそうなくらい、無邪気で可愛くて、喰っちゃいたいくらい。
ほら、今もしてっぞ。」
「自分では分からないんですけど…。」
「俺だけ、分かってっからいいって。
他のヤツに、見せんなよ。」
「だから、分からないって言っているのに。」

俺の我が侭に、ほんの少し、困ってないのに困った色を浮かべて。
俺の我が侭を受け入れる事を喜ぶ、八戒。
俺も。
八戒も。
一人でなんか、生きていけない。
生きていけなかったのに、生きてた。
だから、歪んでる。
歪んで、生きてきた。

「キス、しよ。」
「ええ。」

顔を近づけると、鼻先が掠めて。
八戒が擽ったそうに、目を細めた。
その薄い、形の良い唇に触れる、一瞬前に。
音にしないで、言葉を紡ぐ。
【スキ】
柔らかさが、温かさが。
実感出来て、胸ん中がざわつき始める。
泣きたくて、泣けなかった。
飢餓感。
それが、八戒で満たされていくのが、分かる。
分かってしまう。

「誕生日。」
「え?」
「おめでと。」
「…ありがとうございます。」
「俺の方こそ、ありがとな。
生まれてきてくれて、生きてきてくれて。」
「悟浄…。」
「俺んトコ、来てくれて。」

悟浄の紅の瞳が、僕を見ていてくれる。
それが、それだけで。
ただ、嬉しいと、幸せだと、感じてしまう。
生きるだけなら、きっと、必要ないかもしれない。
でも、僕は、生きていく事を決めたから。
悟浄が、必要なんです。
一人でいようとした、弱い自分。
一人でいられない、我が侭な自分。
全部、悟浄が気付かせてくれました。

「ずっと…居ていいですか?」
「ああ。」
「叩き出さないでくれますか?」
「するかよ。
それよりか、俺の方がされそうでこえーよ。」
「浮気したら、します。」
「してる暇ねえって。
俺は、本気だけで、忙しいんだからさ。」

ポーカーフェイスの巧い、八戒が。
唯一、感情が浮くのは、この至近距離の碧の瞳ん中。
それはほんの一瞬。
見逃す確率の方が、高い。
けど、俺は絶対にキャッチしてやる。
それが、八戒の望みだから。
お前が望むんだったら、なんだって叶えてやる。
それが例え、俺の死だろうと。
お前を殺してから、死んでやっから。

「悟浄、苦しいです。」
「我慢してよ。俺、我慢出来ないんだもん。」
「少しでいいですから、腕の力緩めて下さい。」
「逃げない?」
「逃げません。
何処に、逃げる処があるというのですか、僕に?」
「ねーよ。
お前には、俺だけだもんな。」
「ええ。
責任、取って下さいね。」
「当然。」


いつだって、探してた。
過去から、一人で。
いつもいつもいつも。
ただ、ひたすらに手を伸ばして。
闇雲に。
伸ばした指先が、傷だらけになり、血を流しても。
諦めと焦燥が、蔓延しても。
欲しかった。
義母さんがくんなかったモン。
兄貴がくれていたモン。
それを越える、俺だけのモンが。
欲しくて欲しくて欲しくて。
気が狂いそうだったから。


八戒。
お前が、スキだ――。



2001.9.21 UP



★ コメント ☆

八戒、お誕生日おめでとうーーーーーっ!!

の、ふたつめのお話です。

ここも、シリアス。
マジ、真面目。
(だから、ウチのこーなんだってば・笑)

一番の、プレゼント。
それは、自分の好きな人。
スキな人が、自分スキって言ってくれたら。
自分のコト、スキになれると思いません?

スキな人が、スキな自分。
自分が想うように想われている、自分。

大切な気持ち。
大事にしたい気持ち。
愛おしい、心。

全部、ひっくるめて。
幸せになれると、思います。

悟浄、八戒の幸せはあんたに掛かってるのだから。
肝に命じときなさいよっ。


【BGM】

hiro

Your innocence