どっしても きみがいい
BY 遙か
淡い、ベビーピンクの、可愛い系の。
口紅が一本。
誰もが簡単に手に取り、誰にでも似合いそうですが。
その実、これがなかなか…。
シンプルだからこそ、難しい。
でも、ある男の可愛い恋人には、文句なく似合うのですが……。
「カードがもお、無くなるんだよっ。
とにかく、ここで待ってるからなっ。
いいな、出て来いよっ。
八戒っ!」
肝心なコトを伝えた俺は。
思いっきり、公衆電話を切った。
ポケットから、急いで煙草を取り出し。
思いっきり、煙を溜息と一緒に吐き出した。
事の起こりは、一本の口紅。
急に何の悪戯からわっかんねえけど、女化しちまった八戒への。
俺からのプレゼント。
男ん時からずっと、恋人同士してんだぜ。
今更、女なったって、俺は気にしてねえのに。
やっぱ、本人はそれなりのナーバス状態だったらしい。
普段、にこにこばっかしてっから、鬱屈するんだよ。
でさ、折角さ、女になってんだからさ。
気分転換に、着飾ってさ、遊びにでも行こうと思ってさ。
単に、それだけだったってのに。
俺のポケットから、これがコロンと落ちた時。
完全に、俺の浮気相手のモンって決めつけちまって、大騒ぎ。
説明する前に、部屋から追い出された…って訳。
その後、ドアの外で何言おうが、天の岩戸状態。
うんともすんとも、言わねーの。
で、俺も半分切れて、あーゆー電話したってトコ。
1本目の煙草が、吸い終わり、2本目に火を付けた。
ホント、なんでかわかんねーけどさ。
こんな道んトコでさ。
バカみたいに待てるくらいにさ。
俺、八戒がイーんだよ。
他の奴なんか、もお欲しくねえ。
恋愛に憧れを持ってた訳じゃねえ。
愛し合うとか。信じ合うとか。
ぎゅっと、抱き締めて。一番の傍らで、眠って。
単純とか、複雑とか、あったかいとか、つれないとか……。
以前の俺だったら、うざいというか…そんなの考えたコト、なかったのによ。
ただ、八戒がイーんだ。
八戒だけを抱いてたい。
どーしても、八戒が――。
「悟浄。」
震える身体と震える声。
自分で、自分を叱咤して。
僕は悟浄を呼んだ。
悟浄のポケットから出てきた、綺麗な色の、口紅。
嫉妬で、神経が焼き切れそうでした。
男の時は、自分は男だから、女性には敵わないのだからと。
自分に言い聞かせて…いました。
でも、女性化した自分は……?
それでも、本当の女性を悟浄が選んだら……?
この2つが、僕を常に、段々に、捉えていました。
――それは、仕方の無い事。
そう、結論付けてたのに……。
その時は、ちゃんと見苦しくない様にって…覚悟…していたのに。
悟浄の為に。
けれど、現実はさっきみたいに、なってしまって。
僕は一体、何をしたいのでしょうか。
何を悟浄に求めているのでしょうか。
いえ、分かってます。
悟浄の一番の傍にいたいんです。
悟浄の一番になりたいんです。
他の人なんて、見て欲しくない。
僕だけを見て欲しい。
我が侭。自分勝手。子供の様な、癇癪。
好き…なんです。あなたが…悟浄。
「八戒。」
さっきの勢いが、消え失せて。
俺の数歩先にいる八戒は、頼りなさばかりで。
胸が痛んだ。
今の、八戒の、情緒不安定は、全部。
俺のせいだ。
自惚れでもなく、驕りでもなく、本当に。
だから、何でもやる。
言葉でも、態度でも、何でも、全部。
俺をお前にやる。
やる、からさ。
抱き締めた腕ん中。
八戒が、こくんと頷いた。
「だからさ、コレは、お前のな。
似合うと思ったんだよ。ただ、そんだけ。」
事の発端の、口紅が悟浄から八戒に、手渡される。
「…ありがとうございます。」
八戒の指が、自分の唇へと、その色を乗せる。
「似合い、ますか?」
悟浄の目が、嬉しそうに、ゆっくりと細められる。
「当然。誰の見立てだと思ってんだよ。」
言葉も、不器用で。
キスも、まだ下手。
でも、想う心は――誰にも、負けないから。
勝つ自信は、あるから――と。
唇が、重なっていく。
2001.10.14 UP
☆ コメント ★
キリバン9999をGetして下さった篠原煎奈さんに捧げます
お題は『口紅を使った浄八』でした
色はお任せしますとのコトだったのと
女性化しても八ちゃんはノーメイクだろうからってコトとで
そこを敢えてと、いうコトでした
で、色々考えていたのに、さて、書こうかというトコで急遽、進路変更
裏・Smapの【どうしても君がいい】を聴いて、こーゆー話に落ち着きました
だって、この唄、好きなんだもん
2人に言って貰いたかったんだもん
『どうしても、悟浄がいいんです。』と
『どっしても、八戒がいいんだよ。』ってね
では、煎奈さん、貰って下さいねえvv