曖昧なボクの輪郭(カタチ)



by 遙か



アナタを想う、ボクの気持ちを。
見えるカタチにして。
紅いリボンを掛けて。
贈るコトが出来たなら。



「悟浄…悟浄…。」
「ん…はっかい?」
「おはようございます、悟浄。」
「………はよ。」
「起きて下さい、悟浄。」
「ああ…うん。」

むっくりと、ぼさぼさの髪で。
悟浄は、八戒の言われるままに。
ベッドの上に身体を起こす。
だいぶ、冷えてきている朝の空気が。
悟浄に纏わり付く。

「さみ。」
「暦の上では、もう立冬ですからね。」
「もお、冬ってかあ?」
「そうですよ。」
「ひえ〜、やだねえ〜。」

そう、大げさに言いながら。
悟浄は、ごそごそと布団に戻ってゆく。
くるりと丸まって、大きな塊となる。

「悟浄?」
「冬眠。」
「…そうですか。」

あれ?
っと、悟浄が訝しがる。
茶目っ気でした事だが、いつもだったらば。
ここで、必ず、キツーイお返しが一発帰って来る筈。
なのに、普通の声の一言だけで。
手も足も、飛んで来ない。

「分かりました。お休みなさい。」

すたすたっと、軽い遠離ってゆく、足音。
キーッと開いて、バタンと閉まる、ドアの音。
ガバッと、布団から飛び起きても…後の祭り。
八戒の姿は、綺麗さっぱり、ドアの外。
引き潮よりも速く引いてゆく、血の気。
ガマの脂よりも大量に出る、冷や汗。

怒らせた。
マズイ。
どうしよー。

この三点が、悟浄の頭ん中をグルグルと。
高速回転のメリーゴーランド状態。
もう一度、ガバッと布団を被って。
考える。考える。考える。
考えて…考えて……………。



そのまんま、二度寝して。
次に目が覚めたのは、午後5時。
今度こそ、一気に覚醒して飛び起きて。
十中八九、八戒が居る筈のリビングへと
悟浄が飛び込むと。

「は、八戒っ。」
「はい。」

そこには、すっかりと見慣れた光景。
ソファに座った八戒が、本を読みつつ、ジープを撫でている姿があって。
そして、本から顔を上げた八戒の表情は微笑んでいて。

「あ、あのさ…。」
「…ああ、もうこんな時間なのですね。
悟浄、出掛ける前に何か食べますか?」

この場合の悟浄のお出掛けと言ったら、ひとつしかない。
夜の賭場に行く事。
それが、悟浄のお仕事だから。

「えっ、あっ、いいや。
ごめん…すぐ、行くわ、俺。」
「…そうですか。」

自分に非があるのが、分かり捲っている悟浄。
それに対して、いつもの小言も怒りの笑顔もない、八戒。
一時撤退とばかりに、悟浄さん。
今度は、夕暮れの外へと飛び出して行きました。



『はあ〜、分かんねえ。』

手札のカードは見てるだけで、ちっーとも、その先は考えていないのに。
運が強いのか、元々の素質なのか。
それとも、欲を出さないせいか。
今日の悟浄は、馬鹿ツキで、目の前にはコインが山積みされており。
お姉さん方の歓声も、大きくなってゆくばかり。
それを上の空で、頭ん中は、八戒の事ばかりで膨らんでゆく。

『なあんで、何も言わねえんだ、アイツ。
いつもだったら、スラスラと俺のコト、凹ますくせによ…。』

考えても考えても、分からない。
悟浄の思考が、ドツボに嵌り掛けた時。

「ねえ、そう言えば悟浄ってここに居ていいの?」
「あー、そうよねえ。ねえ、悟浄?」
「はあ?」
「だって、ねえ。」
「ええ、そうよねえ。」

お姉さん方だけで、納得する会話に。
中心人物なのに、全く状況の掴めない悟浄は、頭を捻るばかり。

「あのさ。
俺に分かるよーに、説明してくんない?」
「「「「「あら、だって、今日は八戒さんと一緒に誕生日のお祝いをするんでしょ?」」」」」

綺麗に揃った見事な、ハモリ。
もう完全に、やあね、何を言ってるの状態の。
好奇心丸出しの、目、目、目……………。

「誕生日?」
「ええ、そうよ。」
「誰の?」
「悟浄のよ。」
「……………。」

テーブルが、ガタンと大きな音を立てさせられる。
無言で、飛び出て行った男のせいで。



「――八戒っ。」
「お帰りなさい、悟浄。
今日は早かったのですね。」

朝から一貫している、笑顔。
だけど、それが今、初めて、儚げに見えて。
悟浄は、勢いのまんま、八戒を抱き締めた。

「ご、悟浄?」
「何で、言ってくんねーんだよ、俺の誕生日だって。」
「それは…。」
「なあ、どーして? どーしてだよ、八戒?」
「済みません。
少しだけ、力を緩めてくれますか。」
「ん…ああ。」

回した腕は外さずに。
抱き締めた躰を離さずに。
お互いの顔が見える距離を保つ。

「僕…お祝いの仕方って分からないんです。
花喃の時は、自分と一緒でしたから…花喃も僕を祝ってくれて。
でも、悟浄にはどうやってお祝いしてあげればいいのか、分からなくて。
だから、今日一日、悟浄の好きな様にさせてあげようと、思ったんです。
ほら、僕って口煩いじゃないですか。」

にこりと笑うけど、寂しい寂しいと、隠している碧の瞳。
精一杯の虚勢。
自分で自分を誤魔化さないと、いられない、弱さ。
それを上回る、溢れかえる、愛しさ。
悟浄は八戒へと、口吻けた。

「だったらさ、おめでとうって言って、俺に。
八戒から、俺に言って。」
「…悟浄。」
「そんで、傍に居て。
それこそ、ずっと…絶対に、俺の傍から離れんな。
俺、それだけで、いいからさ。」
「…おめでとうございます、悟浄。」

八戒から、悟浄の胸へと擦り寄る。
甘くて、子供の様な、その仕草。
悟浄は八戒の柔らかい髪に、顔を埋めながら。
最高の贈り物を手に入れた、至上の幸せに浸っていった。



2001.11.9 UP



★ コメント ☆

悟浄、お誕生日、おめでとうvv

なあんか、不思議な話になってしまいました。
自分で書いてて、こんなコトゆーのも、変ですけどね・笑
ほら、最初はドタバタにしよーと思ってたの
出だしは、そんなカンジでしょ?
で、途中で書くのをお休みして
さ、続きを書こうかといった時に
思い付いたのね、後半のネタ・笑
シリアスっぽく、なっちゃったのねえ〜
あ〜ら、不思議

でもね
誰だって、好きな人には臆病になってしまうと思うのですよ
そんな気持ちで書きました