いつかのメリークリスマス



by 遙か



 永遠など、どこにも、ナイ。
 アル訳がナイのは、知っている。
 だが――。
 今は、確かに、アルのだから。
 手の届くところに、アルのだから。
 大事にしたいと、強く思う。
 心の底から、そう、願う。
 
 エゴイズムと、言われようが。
 そんなこと、欠片もかまわない。

 俺の為に。
 アイツの為に……。



 不思議だった。
 なんで、女達があんなに騒ぐのか。
 俺には、ちーっとも分からんかったが。
 それでも、付き合ってやれば喜ぶもんだから。
 俺は、笑って付き合ってやってた。

 クリスマス、とゆー。
 めちゃ、寒い季節にある、一日。
 えっと、神さんの誕生日だっけ。
 それを何で祝うのか、知んないけどさ。
 周りは沸き立つし。
 一緒に騒ぐのは、気が紛れるし…な。
 
 意味は、なかった。
 過ぎて行く日々の中の、一日で。
 俺にとって、いつものと同じ日。
 雪の白。
 街を彩る、赤と緑。
 楽しそうに笑う女達の声が、上滑りしていた。
 けれど。
 それは、去年までの話。
 今年は――違う。はっきりと、言える。
 今年は、俺自身がはしゃいでいた。
 クリスマスという、日が近づいて来るコトを。

『ねえ、悟浄。
 今年も、来てよね。お酒がね、飲み放題なのよ。』
『わりィ、俺、パス。』
『えーっ、なんでえ。』
『先約、あんだ。』
『うっそお。や〜ん、何それえ。』

 何回、馴染みの女達に、この台詞を繰り返したろーか。
 でもな、一見面倒なコトの筈なのに。
 俺は、ウキウキしてたんだ。
 先約――って、トコに。
 約束したんだ。アイツと――八戒と。
 クリスマスは、一緒に過ごそうって、な。
 そして、当日。
 今日は、早く帰るな――と、俺が言って。
 はい、待ってますから――と、八戒が言って。
 俺は、家を出たんだ。
 この日の為に、計画したコトを実行する為に。



「親爺、取りに来たぜ。用意出来てっかあ。」
「ああ、そこにある。」
 俺は街のアンティークショップのドアを開けるやいなや、中に居る店の主人に声を掛けた。
 客商売だってのに、無愛想な親爺が顎をしゃくって。
 俺の目的物を指し示した。
「サンキュ。
 ――で、何コレ。すっげえ。」
「クリスマス・サービスだ。」
 まじ、びっくりした。
 何、コレ、いーじゃん。
 八戒が喜びそーじゃん。
 アイツ、こーゆーの好きだもんな。
 年代モンの、アンティーク・チェア。
 初めは、4脚あったらしいが、今じゃこれが最後の一つらしい。
 ウィンドウに飾ってあったのを偶々見っけて、一目で気に入った代物。
 絶対に、八戒に似合うと思ったんだ。
 これ、八戒に贈りたいと思ったんだ。
 直ぐに手付けをうって。
 クリスマスまで預かってもらうことにして。
「センス、いーじゃん。親爺。」
「世辞はいいから、残りの代金を支払え。」
「ほいほい。んじゃ、これな。」
 ポイっと、親爺に金を渡して、俺はもう一度まじまじと椅子を見た。

 シンプルでいて、全体のラインが流れるような感じ。
 色は、白。
 多少、褪せているのは仕方ナイが、決して矜持が損なわれているコトなどナイ。
 その白に、リボンが掛けられていた。
 赤の緑の色の、リボンが。
 お互いの色を引き立てる様に、掛けられていた。
 でっかい荷物を抱えて。
 鼻歌を唄いながら。
 俺は、家路を急いだ。
 早足で。
 うきうき、と。
 こんな気持ちは、初めてだった。
 想うという、感情。
 胸ん中が、ぽっと、火が灯るような。
 温かい、気持ち。
 俺は、それを凄く大事に…大事にしたいと思っている。
 一歩、足を進める度に考える。
 家で待っている、八戒のコトを。



「たっだいまあ。」
「お帰りなさい、悟浄。」
 白い息を弾ませて、俺は家のドアを開けた。
 外の寒さと、中の暖かさが混じり合う。
 ほわっとした、空気が逃げないように。
 俺は慌てて、ドアを閉めた。
「寒かったでしょう?」
 エプロン姿の八戒が、俺を出迎えてくれた。
 家ん中は、今、八戒が作ってる夕食の匂いで一杯だった。
「八戒、これ。」
「え? どうしたんですか、これは。」
「俺からの、クリスマス・プレゼント。」
「僕に…ですか?」
「そ。お前に。」
 コトンと、持っていた椅子を床へと降ろす。
 そこへ一回、視線を移してから。
 八戒は、俺へと顔を向けた。
 本当に本当に、嬉しそうな顔で。
「ありがとうございます、悟浄。
 凄く、嬉しいです…僕。」
 翠の瞳を細めて、口元を微笑ませて。
 喜んでくれている八戒を。
 俺は素直に抱き締めた。
 腕ん中に、胸ん中に、八戒がいる。
 ふわっと力を抜いて、俺ん中に……。



 零れる、吐息。
 鼻に掛かる、甘い声。
 灯りを嫌う為、室内は薄闇が支配している。
 その中を蠢く、採光。
 白いシーツの中に沈み込んでいる、その肢体は更に白く。
 無理矢理、陸にあげられた魚のように。
 傷跡を残す、白い腹を引き攣らせている。
「はっか…ぃ。」
 呼ぶと、密着してる腹がヒクリと動く。
 小刻みに震え続けている身体を、包み込むように抱き締める。
 無理をさせているのは、分かってる。
 女じゃないんだから。
 八戒の負担が相当なモンだと、分かってる。
 それでも、抱きたいと、思う。
 俺の罪悪感を伴った衝動を。
 八戒がいつも受け入れてくれるから。
 甘えを承知の上で。
 愛しさを込めて。
 俺は八戒を抱く。
「…大丈夫か。」
「………えぇ。」
 ゆっくりと、開かれる翠の瞳。
「だい、じょうぶ…です、よ……ごじょぉ。」
 切れ切れの。
 それでも、しっかりと俺を許してくれる言葉を綴る、唇。

 愛してる――と、思う。
 それ以外の言葉が、見つからナイ。
 これ以外の言葉を言うつもりもナイ。
 これしか、ナイんだ。
 俺には。
 ――八戒。

「ごじょ…う。」
「ん?」
「本当に、大丈夫…です、から。」
「………ん。」
 ごめん、な。
「本当に、…心配症です、ね…悟浄は。」
 八戒が肩で大きく息をして、全身の強張っていた力を抜いてくれた。
 それから。
 落ちてしまっていた、怠そうな右手を上げて。
 そっと、俺の頬に触れてきた。
「愛…して、ます。」
「知ってる。」
「だったら…僕を…愛して、下さい。
 お願い、です……悟浄。」
「ああ……。」
 咽が乾く。
 ゴクリと、咽が鳴る。
 誘引。
 同居している慈愛と凶暴さが、交錯する一瞬。
 理性ではなく、感情のままを優先する瞬間。
 腕で支えていた自分の身体を倒し。
 胸と胸を密着させる。
 八戒の腕が、ゆるゆると俺の首を回り。
 開かれた唇に、唇を重ねる。
 角度を付けて、深く口吻けた。
 何度も何度も。
 息苦しさなど、気にならない。
 キスしていない方が、苦しい。
 こんなにも、際限なく欲している。
 だから。
 八戒が、いつか俺から消えてしまうのが、何よりも恐いと思う。
 だから。
 そんなことのないようにと、身体を繋げて、繋ぎ留めたいと思う。
「動い…て、下さ……ぃ。」
 懇願と拗ねた声。
「オッケ。」
 ぎゅっと抱き締め、俺は慎重に腰を動かし始めた。
 熱くて、狭い、八戒ん中。
 俺を締め付けて、今にも熔ろけ出しそう。
「あっ。」
「イイ?」
 一気に上昇していく体温。
 加減ナイ力で思い切り抱き締めて、次に思い切り脱力した。



 毛布でしっかりと、八戒の身体をくるみ込む。
 八戒ってさあ。
 本人に言えないんだけどさあ。
 すっげえ、感じやすいんだよなあ。
 所謂、過敏症ってヤツ。
 ラストは、大体、意識飛ばしちゃうんだよ。
 くったりとした身体を。
 俺は大事に抱き締めてる。
 綺麗な顔に、涙の跡。
 おでこと襟足に、汗で張り付いた髪の毛。
 俺は触れるだけの、キスをした。
「……ん、ご、じょ…う。」
「目、覚めたか。」
「…えぇ。」
「寒くねえ?」
 真夜中の、ピンと張り詰めた冬の寒さ。
 汗が引いているから心配で、聞いてみた。
 右と左に、ゆっくりと八戒は首を振った。
 そして、俺の側へと小さく身動きして、擦り寄ってきた。
「あったかいです、悟浄。
 あなたが、居てくれるから…。」
 思わず、八戒を引き寄せる。
 このまんまが、イイ。
 ずっと、このまんまが。
 2人で。
 俺と八戒の2人だけで。
 このまま、時間が過ぎていけば、イイ。
 
 ――どこにも、いくな。

「……側に居させて下さい。
 悟浄、あなたの側に……。」
 俺の本音の呟きに、応えてくれた八戒を。
 俺は、もう一度抱き締めた。泣きたくなる気持ちと一緒に。



2000.12.07  UP


2001.12.24 サイトUP



★ コメント ☆

はい、これはサークルの方で去年創ったお話です
タイトルにも使いました
B’zのいつかのメリークリスマス、です

この詞は大好きで大好きで
初めて聴いた時、あまりの切なさに涙が零れました
本当にそれ位、大好きです

去年、これで絶対に悟浄×八戒を書こうと決めて書き上げました
すんごい、勢いと意気込みでね・笑
だから、今年のクリスマスにサイトでもと思い、UPしました
出来たら、感想を頂けたらなと思います
おねだりv

悟浄と八戒がお互いを大切にして
とても、大事に想って
いつまでもを
過ごせるコトを祈っています
これが、このお話に込めた私の気持ちです