桃色片想い
by 遙か
『あの、無駄にデカイヒトが邪魔ですね。
そう、ですねえ。
ちょっと、工夫してみましょうか……。』
闇の片隅からの、独り言。
誰にも聞かれる事なく、消えてゆく……。
眠りの意識が浮上して。
僕は瞼の裏に、朝の光を感じ。
自分が目覚めた事に気付きました。
とても、穏やかな目覚め。
悟浄と一緒に、同じベッドで眠る様になってから。
僕の悪夢を見てしまう回数は、激減の一途を辿っています。
一人で寝ていた時は、抜け出せない悪夢にのたうち回っていました。
でも、今は。
僕が少しでも魘されると、悟浄が起こしてくれます。
小さなキスを、何回も繰り返して。
僕の意識を悟浄へと、向けさせてくれて。
何度も、強張った身体の力が抜けるまで、背中をさすってくれて。
そうして。
僕は、あやされる子供になって。
悟浄の腕の腕の中で、もう一度眠りに就くのです。
夢など見ない、悟浄が与えてくれた眠りの中へと……。
……と、それは良いのですが。
今朝は、いつもとどこか違う様な気がして。
僕は手探りで、隣の悟浄へと触れました。
右目が役に立たないのと。
左目がまだ朝の光に慣れないので。
感触で、悟浄を確かようとしました。
ごそごそと、手を伸ばすと。
悟浄はちゃんと、隣に居てくれました。
ホッとすると、今の取っている体勢が分かりました。
悟浄が、僕の胸の辺りに頭を付けて、しがみついているというのが。
僕は、思わず笑みが零れてしまいました。
だって、可愛いんですもの。
悟浄ったら。
普段は、あんなに格好付けで、男らしいのに。
こんな風に『甘えたさん』に、なってくるんですもの。
これって。
僕だけの特権、ですよね。
そう考えたら、何かとても嬉しくなってしまって。
思わず、ぎゅーっと、悟浄の頭を抱き締めて…。
えっ……………!?
「ごっ、悟浄っ!」
「―――――ん、どした、八戒?
また、恐い夢でも、見たのか?」
悟浄がムクリと起き上がり、僕のパニックは更に加速しました。
「大丈夫だぞ。
俺が付いてんだからさ。」
寝起きの良い悟浄は、もおしっかりと目覚めたらしく。
言葉もはっきりしています。
でも……でも……でも。
僕へと、伸ばしてくれている腕は。
凡そ、筋肉なんてものは、付いていなくて。
僕を気遣って、掛けてくれる声は。
小さな子供特有のハイトーンで。
その全身は。
どう見ても7〜8歳の男の子……………。
僕は、自分の意識がブラックアウトしたのを…感じました。
「八戒っ!」
何がなんだか、全く分からず。
急に、目の前でぶっ倒れた八戒に、悟浄はびっくりしました。
したから、急いで手を伸ばして、八戒の身体を抱き起こそうとしたのですが……。
抱き起こす事が出来ず、その違和感に悟浄は己を見ると……。
「なんじゃこりゃあっ!!」
まだ、朝早い宿屋の中に。
口汚い子供の声が、響き渡りました。
「―――で。」
青筋を深く深く刻みながら、金の髪の最高僧さまは。
苦悩と共に、どっかりと部屋に備え付けのソファへと、座り込みました。
「で―――って言われてもさあ、俺だってわっかんねーんだもん。
聞くだけ、無駄ってモンよ。
やっあねえ、ボーズって無粋でv」
ピシリ。
「…そうだな。
日頃の悪行のせいだものな。
言いにくい事を聞いて悪かった。」
ビシビシ。
「はあ〜、何、その言い草はあ?」
「額面通りだ。」
「うっさいよっ、2人共。
八戒が、大変なんだから、静かにしろよっ。」
薄氷よりも、壊れやすい堪忍袋の緒が切れる寸前に。
発せられた悟空の言葉に、三蔵も悟浄も、口を噤んだ。
「八戒、大丈夫?」
「―――――大丈夫、ですよ。」
全く大丈夫ではないといった風情で。
ほんの少しだけ、首を悟空の方へと向けて八戒は返事をした。
常日頃、何事に対しても平気の平左の八戒ですが。
悟浄の身の、大異変に気を失い。
しかも、高熱のおまけ付きで、寝込んでしまうという事態に陥っていた。
「な、八戒。
俺が八戒のコト、看病してあげるから、安心してていいよ。」
「は?」
「何、言っての、オマエ?」
「ほら、俺が看病するから2人共出てってよ。」
「何、勝手ほざいてんだよ、このチビザル。」
「今は、悟浄の方がちっさいぜ。」
悟空のしてやったり発言に、グッと悟浄が詰まる。
だけど、どんなに身体が小さかろうと。
八戒の権利を渡すつもりなど、悟浄には無い。
無いから、実力行使に出る。
「余計なお世話だっ。
八戒は俺が看るんだよっ。」
と、悟空を押し退け様とした瞬間。
【どこでもドア】を購入してあるのではないかと思うタイミングで。
清一色がいつの間にか、八戒の枕元に居り。
その手を八戒の額に当てて、熱を計っていた。
「…随分と、熱が高いですね。
苦しいでしょう、猪悟能。
でも、安心して下さって結構ですよ。
我が、看病して差し上げますからね。」
「わーっ、オマエ、何してんだよっ。」
八戒が熱の為に、抵抗が出来ないのを良い事に。
ちゃっかりと清一色は、八戒を抱き寄せていて。
しかも、うっとりと囁く。
途端、八戒の全身に熱のせいでは無い悪寒が走り。
力を振り絞って、清一色の腕から逃れたのだが。
ふらつき、バランスを失い。
「八戒、危ないっ。」
条件反射で、悟浄は腕を伸ばし。
倒れてきた八戒を受け止めたのだが。
今の自分の身を忘れていたので、一緒にそのまんま。
ベッドの下へとひっくり返ってしまった。
「大丈夫か、八戒っ。
悟浄のバカっ、何、やってんだよっ。」
との、悟空の声。
「おやおや、大変ですねえ。
手を貸して差し上げましょうか。」
と、清一色の含み笑いの声。
そして、冷ややかな三蔵の。
「ふ。」
と、いう鼻先笑い。
それらに、プツンと切れた悟浄が。
座り込んだまま八戒を抱き締め(端から見ると、しがみつき状態)て…。
「おまえら、あっちいけえっ。
八戒に触んなあっ。」
甲高いボーイソプラノで、絶叫を上げました。
さ、これからの悟浄の運命は如何に――。
2002.3.8 UP
☆ コメント ★
19058のキリバンゲットして頂いた、城島(仮)健司さまへ捧げます。
大変遅くなりました。
申し訳ありません。
城島さんからの【一色様と悟空絡みの58】リク。
クリア出来たかどうか、自信有りませんが……。
どうか、捧げさせて下さいな。
うわあ、何だかおもちゃの取り合いみたいな話になっちゃった。
えへ…汗汗。
でも、楽しんで書いちゃいました。
ふふふ。
では、どうぞご笑納下さいませ。ぺっこちゃんvv