夢の実
八戒ver.
by 遙か
『花喃』
きっと
君は分かっていて
僕は分かっていなかったんだね
ふたりで
暮らしていたあの頃を
僕は君だけしか見ていなくて
君しか 愛していなかった
永遠を 信じないで
永遠を 求め
君に 甘えていただけの 僕
それらを 全て 許容しようとしてくれた
優しい君を―――――
僕は――――――――
「どうした、八戒?」
「あ…。」
名前を呼ばれて、横を見ると。
悟浄が、心配そうに僕を見ていました。
「怖いユメでも見たのか?」
夢………。
そうだ。
僕は眠っていたんでしたっけ。
悟浄と一緒に。一緒のベッドで。
「急に飛び起きるから、びっくりしたぜ。」
悟浄の手が伸びて来て、僕の頭をそっと抱える。
「よしよし。もう、怖くねえぞ。
俺サマが付いてんだからさ。」
そのまま引き寄せて、自分の胸へと。
赤ちゃんの様に、抱き込んでくれる。
トクントクン――と。
悟浄の規則正しい鼓動が、僕を落ち着かせてくれる。
「ごじょ……。」
僕は詰めていた息を吐き。
強張っていた肩から力を抜き。
悟浄へと、凭れ掛かりました。
「ん、どーした?」
「『花喃』の……夢を見ました。」
悟浄の身体が、一瞬だけ緊張し。
直ぐに、僕の為に元へと戻りました。
こんなに肌と肌が密着していれば、隠す事なんて出来ないから。
ごめんなさい。
分かっているのに。
僕と…いえ、もしかしたら僕以上に。
悟浄が『花喃』に反応してしまうのを知っているのに。
敢えて。
僕は、彼女の名前を口にしました。
悟浄は無言で、僕の髪を撫でてくれました。
あやすように、柔らかい仕草で。
「でもね、悟浄。」
「ん?」
「いつもの……リピートじゃ、なかったんです。」
いつもの――あの、シーン。
『花喃』が自ら、ナイフを突き立て、血にまみれ。
傍に居たのに届かず、彼女の死だけを見るだけの…夢、では…。
「……どんなの?」
恐る恐る、僕を気遣う声で尋ねてくる悟浄に。
僕は、涙が零れそうでした。
それを大きく息を吐く事で、紛らわして。
僕は、悟浄へと笑い掛けました。
「笑っていたんです。にこにこ、って。」
「笑って……?」
「ええ。それでね、僕は一生懸命に悟浄の事を話しているんです。」
「俺のコト…?」
「そうです、あなたの事です。
『花喃』は、ずっと聞いてくれて、微笑んでくれて。
それが、とても嬉しくて…僕は夢中で話していました。
今、僕がどんなに幸せかって。」
夢の中の『花喃』は。
光に包まれていて、とても穏やかな表情でした。
そして、沢山の花に囲まれていました。
僕と再会していなかったら。
僕が姉以上に愛さなければ。
きっと、こんな風な笑顔でいたのだろうと、思う……彼女で。
「だったら、良かったじゃん。」
ほんの少しだけ俯いた僕の頭を。
今度は、ぎゅっと悟浄は抱き締めてくれました。
「お前が幸せに笑ってっから、姉ちゃん喜んでくれたんだろ?」
「悟浄……。」
情けない僕の落ち込みを悟浄は、直ぐに分かってくれる。
そして、直ぐに手を掴んでくれる。
何でもない事だと。気にする事では無いと。
僕を放さないでくれる、あなたの温かい腕で。
「そう…でしょうか?」
「そう、だって。俺、分かるモン。」
「悟浄?」
「俺、お前が笑ってくれてんの、すっげえ、スキ。
そーすっとさ、俺も幸せになってお前に笑い返せるの。
八戒はどう?」
「…僕も、です。」
「そーだろ? だからさ、姉ちゃんもそーなんだよ。
俺と姉ちゃんの共通項ってさ、お前が幸せに笑ってくれるコトなんだ。
思い込みでもいい。俺、ずっとそう思ってた。
けど、お前のユメの話を聞いて、ああ、やっぱなと思ったぜ。」
僕も。
僕もそう思っていいですか?
彼女に甘えて。
あなたに甘えて。
自分の都合の良い様に、夢を解釈して。
「あのな、スキなヤツが幸せなのってメチャ嬉しいんだぜ。
そんで、それが自分の為なんて言ったら、更に嬉しくなる。
そんなの当たり前のコトなんだよ。
俺も姉ちゃんも、お前のコトがスキで…お前の幸せばっか願ってんの。
だからさ…もお、泣くなよ。」
「え?」
「俺、お前の涙には、多分一生降参なんだからさ。」
涙が零れていたのに、気付きませんでした。
我慢していた筈なのに。
いつの間にか、僕の知らないうちに、涙を流していました。
それを悟浄の指が、くいっと拭き取ってくれました。
「泣き虫。」
「…悟浄のせいですから。」
「なんで、俺?」
「なんででも、です。」
幸せ、だから。
あなたが居てくれて、僕は幸せだから。
こつんと、悟浄がおでこを合わせてきて。
紅い瞳が、僕の泣き笑いを映していて。
くすぐったい気持ちで、唇を重ねました。
僕は、あなたを愛しています、悟浄。
『花喃』
『花喃』
『花喃』
僕は 君を 抱き締めるよ
今も 抱き締めている
君の心 君の想い 君の全て
―――――愛してる
だから 忘れない
行く先が違う 僕だけど
逝ってしまった 君だけど
―――――愛しているよ 『花喃』
だから 僕は 生きていく
僕の 愛している 悟浄と 一緒に―――――
2002.5.7 UP
☆ コメント ☆
2002.5.8の為のお話です
八戒視点です
悟浄と八戒
そして
花喃ちゃんと夢を
心を込めて、書き上げました
読んで下さってありがとうございました
Lunariaのあませ信織さま主催の企画への参加作品ですv
BGMは【GLAY】の
【Way of Difference】でしたvv