夢の実
悟浄ver.
by 遙か
ユメを見た
けど 起きたら 目が覚めたら
どんなユメだったかは
ひとつも 覚えてはいなかった
ただ
イヤなユメじゃねえ
キラキラしてた
そんなカンジのユメだった気がする―――――
朝のキッチンは、色んな音がする。
温かい空気ん中、美味しそうな匂いがする。
これらは、以前、俺の回りにはひとっつもなかったモンだ。
望んでもいなかったし、望むのを諦めていた。
でも、今は、ある。
八戒が俺んトコに居てくれるから。
俺は肘をテーブルに付いて、八戒の後ろ姿をずっと見ていた。
「悟浄。」
「ナニ?」
「今朝は、随分と早起きなんですね。」
「ああ―――うん。」
「どうしたんですか?」
八戒は料理の手を止めず、俺に聞いてくる。
なんか、オフクロみたいなカンジ……って、俺はガキ扱いか?
たまんねえなあ、と。
つい、笑ってしまった。
「悟浄?」
俺の笑い声に、八戒が振り返る。
ああ、これもガキを心配するオフクロの顔かなあ。くくく。
「もう、一体どうしたんですか?
寝惚けているんでしたら、もう一度寝て来たらどうですか?」
「もお、眠くねーよ。」
「だったら、本当にどうしたんですか?」
朝の光ん中、八戒が立っている。
俺が買ったエプロンを付けて。
俺に食わせる為の朝メシを作りながら。
すっげえ、幸せな光景っての?
八戒が居てくれっから、実現してるんだよな。
「悟浄、熱でもあるんですか?」
とうとう、料理の手を止めて。
八戒がエプロンで濡れた手を拭きながら、俺の傍に来た。
今まで、水を使っていたひんやりとした手が、俺の額にあてられた。
「熱…は、ないですねえ。悟浄?」
離れていく、その手の感触が惜しくて。
俺か八戒の手を握りしめた。
「ユメ、見たんだ。」
「夢…ですか?」
「ああ。」
「その夢見が悪かったんですか?
そんな風には見えませんけど。」
そう言って、小首を傾げる仕草。
俺のスキな八戒の癖のひとつ。
「ユメ見は、悪くなかったと思う。
実は、覚えてねーんだ。どんなの見たか。」
「そう、なんですか。」
「でもな、イイユメだったと思う。
きっと、お前が関係してっから。」
「僕が?」
「そ。」
輪郭としては、覚えていないが。
感覚が、覚えてる。
アレは、絶対、八戒の姉ちゃん。
八戒の持つ雰囲気に、凄く似てたけど…違うのが分かったからな。
「だからさ、イイユメなんだよ。」
「悟浄……。」
握っていた八戒の手が、微かだが。
しっかりと、俺の手を握り返して来た。
だから、引き寄せて碧の瞳を座ったままで、覗き込む。
嬉しいのと、困ったのと、ごちゃまぜの。
それでも、俺に向けて笑ってくれていた。
だから。
俺はひとつの提案をした。
「八戒、海に遊びに行こうぜ。」
「海、ですか?」
「天気イイからさ。弁当持って行こうぜ。」
「…そう、ですね。行きましょうか。」
「よしっ、決まりな。」
「あと…大きめのタオルと悟浄の着替えを持って。」
「は? なんで、俺のだけ?」
「まだ、水は冷たいでしょうから、僕は遠慮しておきますが。
悟浄は、海に入りますでしょ?」
「サルか、俺は。」
「否定はしません。」
きっぱりと言い退けて、八戒は笑い出す。
自然な、本来の。
俺のスキな、八戒の笑った顔。
「そうと決まったら、直ぐに用意しなくちゃですね。
悟浄、手伝って下さいね。」
「へーい。」
八戒がパタパタと、手際良く動き出す。
返事だけをした俺は、一本取り出して口に銜えた。
火を付け様とした、一瞬。
空気が動いた。
手を止めると、甘い香りが微かに香る。
八戒のではない、ソコに俺が見たのは、淡い人の影。
そして、聞こえて来たのは、小さな声。
『悟能』、と。
「OK、了解。」
それに、俺は八戒に聞こえない様に、呟きで返した。
交わした約束を守る為に。
「悟浄、何しているんですか。
早く食べないと、置いて行きますよ。」
「はいはい。」
「はい、は一回。」
「はーい。」
「………。」
呆れて、俺を見ている八戒へと。
椅子から立ち上がり、近付く。
「困った人ですねえ。本当にあなたは。」
「一生困らせてやっから、ちゃんと面倒見てよ。」
「僕がですか?」
「そう、お前がさ。」
八戒の腰を抱いて、正面から緩く抱き締める。
「お前がいいんだ、俺。」
スキだから。
大事だから。
愛しいから。
俺には、お前だけだから。
「いいですよ。
馬鹿な子ほど可愛いっていうのを、実践してますし。」
全く、口の悪いオフクロなんだからさ。
ガキが非行に走ったら、どーする気だ?
「だから、離さないで下さいね。
僕がどこにも行けない様に。
あなただけを見ている、ここから。」
さっきまでの強気を翻すなんて、反則だぞ。こらっ。
きつく抱き締めて、キスをする。
俺が幸せにしてやっから。
ずっと、笑ってろ。
そーすっと、俺も幸せだからさ。
な、八戒。
託された 願い
想いは 叶えられる
夢は 叶えられる
―――――成就する為に。
2002.5.7 UP
☆ コメント ☆
2002.5.8の為のお話です
悟浄視点です
悟浄と八戒
そして
花喃ちゃんと夢を
心を込めて、書き上げました
読んで下さってありがとうございました
ぱろサイトEVEryのTSUKASAさま主催の企画への参加作品ですv
BGMは【小田和正】さんの【キラキラ】でしたvv