薄紅ノ……



by 遙か



「八戒っ!!」

布陣がいつもと違うと、気が付いたのは。
戦闘が終わり。
八戒の姿が、どこにもない。
―――――消えてしまっていた時、だった。





三蔵一行を狙う牛魔王からの刺客は、手を変え品を変えながら。
無駄な戦いを俺達に仕掛けて来ていた。
負ける気なんか一つもないんで。
運動の一環位に、敵を叩いていたんだが。
今回の人海戦術らしく。
後から後から、湧いてきやがってキリがなかった。
しかも、間合いを詰めてはいるが。
決して、一定以上には食い込んで来ない…。
そう、深追いしてこねーんだ。
変だと思った時は、バラバラにされていた。
心配は心配だったが、簡単にやられる奴らじゃねーし。
取り敢えず、俺は自分のノルマをこなしたんだ。

一息、ついた時だった。

俄に、八戒のコトが気になった。
何か、とても、口じゃ表せない不安感が。
伸し掛かる様に、俺を襲った。

「八戒っ!!」

―――――返事は返らなかった。





目が開いて。
僕は、目に映った天井をぽんやりと見ていました。

……頭が、痛い……。

ここは、どこなのか。
全く覚えがないのだけど。
頭痛が酷くて、今の自分の状況をよく考えられない。

……ズキッ。

でも、考えないと。
考えて、動かなくてはと、気持ちが急いている。
そうでないと…ここは、とても嫌な気がして。
取り敢えず、身体を起こそう、と。

! 何故?

確かに、僕は目覚めている意識があるのに。
起きようとしたのに。
どうして、身体が付いてこな



「おっはー、おひめさまのお目覚めだね。」

頭がはっきりすればする程。
身体が全く動かない事が分かって焦り出した僕に、掛けられた声。
軽い口調に、ねっとりとした声質。
さっきから、ずっと感じている嫌な気がどんどんと増していく。

「つっよおい、動けなくなるクスリを打ってあるからね。
 無駄な努力はしない方がいいよ――は、一応の忠告。
 聞くか聞かないかは、君の判断に任せるとして。
 自己紹介は、飛ばします。」

声だけが明瞭に聞こえてきて。
不快感が、更に強くなってくる。

「僕を…どう…する…気、です…か。」
「お。すっごいなあ、まあだお口がきけるんだ。
 さっすが、千の妖怪を殺して転生しただけはあるね。
 ま、今はそれは関係無いんで置いといてっと。
 実はねぇ、君に来て貰った訳わねぇ…おいでおいで。」

誰かが近付いてくるのが、分かりました。
悪意はないみたいなのです…が。
首も動かせない僕の視界に、やっと入って来た人物は。

「紅、孩児…さん?」

これは一体、どういう事なのか。
一目で分かる。いつもの彼ではない事が。

「…紅孩児…さん。」

もう一度呼んでも、何の反応も無い。
ひたすら無表情で、何より瞳に彼の持つ強い光が無くて。

「ごめんねー。
 この王子さま、マジ、愛想悪くてさー。」
「…彼、に…何を…したんです?」
「あらら、人聞きの悪い。
 一寸ね、お願いしただけだよ。
 聞き分けのイー子になって下さいって、ねv」

それって……、まさか……。

「でね、ほーんの一寸、頭ん中を弄らせて貰ったんだ。
 そしたら、ほら、こーんなイー子になってくれちゃったりしてv」

……洗脳……。
酷い。……なんて、酷い…事を……。

「あ〜らら、そんな他人事に、そんな睨まないでよ。
 それにさあ、それよりもさあ、自分の事を心配した方がイーんじゃないかなあ。」

え?

「実はね、頭弄ってた時に、秘めたる想いってゆーの?
 王子さまの口にも出せない純情ってのが、発覚してね。」

……………。

「やっぱり、ここはお礼の代わりに叶えてアゲルのが、人の道ってモンでしょ。」

……………。

「ほーら、ご所望のお姫さまだよ、王子さま。
 君に慎んで、献上するからねv」

……………悟浄っ!!





あれから、一週間。
八戒の行方は杳として知れなかった……。
焦りばかりが積もり、俺は気が変になりそうだった。

八戒。
何処にいる? どうしている?

奪われたお前を取り戻したい。
なのに、この不甲斐ない状況に苛立つコトしか出来ない。

お前の俺を呼ぶ声を聞きたい。
お前の俺を見てくれる瞳を見たい。
―――――八戒。


コン。

不意に響いた音に驚いて、俺は顔を上げた。
見ると、窓の外に一匹の蝶。
俺は妙な確信で、窓を開け、蝶の後を付いて行った。

辿り着いたのは、結界を張った異空間。
俺はそれに拒否されず、足を踏み入れるコトが出来た。
初めから、招かれている様に。

「………悟浄。」
「兄貴かっ?」
「お呼び立てして申し訳ありません。」
「あんた……。」

目に前に現れたのは、闇をバックに浮かぶ桜の大木。
煩いくらいに舞い散っている花弁。
そして、姿を現したのは。
白い布に包んだ何かを持っている兄貴の独角児と。
八百鼡という女の、2人だった。

「済まない。」
「済みません。」
「え、何がだよ?」

俺の疑問に、2人の目が同時に伏せられた。





木の根元に座り。
俺は降り続ける花を見ていた。
後から後から、きりなく降る様は――雪にも見えて。

『八戒……。』

俺は兄貴から渡された白い布を腕に抱いていた。
その中に包まれている八戒を。
そっと、力を込めずに抱き締めた。
生きてはいる。
温かみがある。
けれど。
さっき聞いた兄貴達からの告白が、リピートされる。

詳細は話せないが、紅孩児が洗脳させたコト。
その紅孩児に、攫われた八戒が差し出されたコト。
……………八戒が、紅孩児に抱かれたコト。
その後、八戒が半狂乱になり手に負えないと兄貴に下げ渡されたコト。
クスリでそのキオクを削除して、壊れた精神を引き戻したコト。

だが…。

『八戒さんご自身のキオクはあります。
 仲間の皆さんのキオクもあります。』

ただ…。

『一番大切な想いと…引き換えなんだそうだ。』
『申し訳ありませんっ。』
『……済まない。』

頭を下げ続ける2人から、俺は八戒を受け取った。
静かに眠るおだやかな表情の八戒を。

『サンキュ。
 コイツを俺に返してくれて。』

心からの感謝を込めて、2人に俺は頭を下げた。





想いは喪ったが。
存在はここにある。
だから、いい。
八戒が居てくれるなら…いいんだ。
大丈夫。
何度でも繰り返せる。
お前が居てくれるなら。

八戒。
お前の目が開いたら。
もう一度、俺達は始めよう。


そう、心の中で誓いながら。
俺は八戒へと口吻けた。
薄紅の彩りの世界で。



2002.7.14 UP



☆ コメント ☆

さて、【2002年開けまして、貴女のリクを私に下さい】今頃かい企画v
その第4号・城島さんのリクは
「なぜか一本だけ咲いている時期はずれの桜花散るなかちゅうv」
紅ちゃんとかニィさんとか絡んでちょっとえっち目だったりすると嬉しいですー
――でしたv

頑張りました
んが、大きく外しているのは自分でも分かってます…ιι
ごめんなさーいっ
どんな障害があっても、この2人は何度でも恋しちゃうってのを
書いたつもりだったのですが……ιι
あれえ?

兎に角、捧げさせて下さいませ
返品大可にしてありますので・苦笑