夢 紬



by 遙か


【ご注意】

心優しい貴女にお願いv
このお話はお正月が背景となっているのを
念頭に置いてお読み下さいませ
そして設定は新婚さんのふたりですvv



一年の計は、元旦にあり
年が新たまると 気も新たまる
本当 人というモノは 
お手軽に 出来ている事で


**********


「八戒ーっ、まだーっ?」
「…はい、もう少しだけ待って下さい。」
「もおー少しってーっ?」
「あと…5分、待って下さい。」
「分かったーっ。」

5分か。
そーすっと、1本は吸えるな、と。
俺は胸ポケから1本取り出し、早速火を付けた。
ぷかりと、白い煙が宙に浮く。
とんとんと、吸い殻を灰皿へ落とす。
出掛けるんだから、散らかさずに、気分良く出掛けられる様にと。
俺は、俺の奥さん――八戒の仕度が整うのを待っていた。

結婚して、初めての正月。
仕事もきっちりと、去年の内に終わらせて。
がっちりともぎ取った、正月休み。
誰にもジャマさせねーぞっ、と。
何しろ、新婚さんの正月なんだからな。

昨日の大晦日は。
コタツでミカンで年越しソバで、紅白歌合戦だったから。
今日の元日は。
あけましておめでとさんとお節とお屠蘇と、初詣だよな。
と、ゆーコトで、午後はお出掛けタイム。
八戒と一緒にな。
だから、俺は八戒を待ってるってトコ。


**********


「ん―――――。」

これで、大丈夫でしょうか?
年末、花喃に特訓して貰って、覚えたばかりの着物の着付けは。
初心者の僕には、まだ不安の方が大きくて…。
鏡の中の自分を何度も確かめてしまいました。
変な処…無い、でしょうか?

悟浄が早めのお年玉と、僕に贈ってくれたこの着物は。
柔らかい感じの、紅色が基本で。
裾の方が濃い目のグラデュエーションで、構成されています。
そして、帯が深碧で着物と良く合っているんです。
優しい感じのするこの色合いを僕は、とても気に入っています。

悟浄が僕に贈ってくれた物。

けど、だからこそ余計に心配で。
悟浄からのだから、似合ってて欲しいんです。
僕、似合いたいんです。
だけど、客観的に見られないから。
折角の着物なのに、似合っていないのではと。
心配ばかりが先立って、恐くなってしまうんです。

悟浄の目に。
僕は。
どう、映るのでしょうか―――と。


**********


「…お待たせして、済みませんでした…悟浄。」

カチャリと、リビングのドアを開けて入って来た八戒に。
俺は真剣に、見惣れて言葉が出なかった。
今。
俺は自分がアホ面晒してんのが、分かってっけど。
けど、止めらんねえ……。
一体、俺は八戒と出逢ってから、何回、八戒に見惣れてんだ?
きっと、何十…何百回位、軽くしてるよな。
んで、これからも無限の回数で、見惣れ続けんだろーなー。・

「…あの、何処か変な処があったら、教えて下さい。
 初めて着付けたから…変かもしれないし…。」
「んにゃ、すっげえ綺麗。激・美人。
 俺の見立てに、狂いはないねぇ。」

あ、やっと素直な感想が口を出てくれた。
急いで、タバコを灰皿におし潰して立ち上がる。
立ち尽くして、所在なさげにしてる八戒の掌を掬い上げる。
そして、その白い手の甲にkissをする。

「とても似合ってる。
 着てくれてありがとな、八戒。」
「…僕こそ、ありがとうございます…悟浄。」

花の笑顔。
思っきり俺を射ってくれてるなんて、その持ち主は分かってないんだよな。
でも、その天然も可愛くて仕方ねえんだ。

さっ、出掛けよう。
俺の八戒を見せびらかしに。


**********


やっぱり…。
普段、着慣れていないから……。
でもでも。
この体勢は、いくら何でもないんじゃないでしょうか?


「悟浄…あの。」
「何。」
「僕、大丈夫ですから。だから…あの。」
「だあーめ。足挫いてんだから。
「でも…あの。」
「ダメっつーたら、ダメっ。」

着物は、洋服と違って。
歩くのが、上手くいかなくて。
神社は、当たり前ですけど人が多くて。
足元が、暗いのもあって見えなくて。
階段で、思いきり躓いた僕は。
悟浄に、助けて貰って。
……………。

帰り道なのが、まだ救われるでしょうか。
大した事ではないのに、大げさに悟浄に抱き上げられている、今の格好。
もうもう、恥ずかしい、ですっ。
けれど、悟浄に大事にして貰っているのを嬉しいと思ってしまう自分もいて。
とても…複雑です。

「早く、ウチに帰ろうなv」

悟浄のその言葉を。
悟浄の温かい腕の中で、聞きながら。
少し恥ずかしさで強張っていた身体の力を抜いて。
悟浄の胸へと頭を凭れさせて。

「はい、悟浄。」

悟浄に届く様にと、返事を返しました。
幸せな気持ちを胸一杯にして。



2002.7.15 UP



☆ コメント ☆

さて、【2002年開けまして、貴女のリクを私に下さい】今頃かい企画v
その第5号・飛鳥さんのリクは
『新婚さんで、奥様が初詣に着物を着ていって、
階段を上がっている時に裾を踏んでしまいこけそうになるのを
旦那様が人目をはばからず抱きしめる』
――でしたv

うふ
うふふ
なあんて、素敵なリクでしょうか
もうもう、思いっきり楽しんで書きましたv
旦那が奥さまをかまい捲り
このシュチュエーション、大好きなんですもの
飛鳥さん、素敵なリクをありがとうございましたvv
慎んで贈らせて頂きますので、どうぞ、ご笑納下さいませ
ぺこりん