奇跡の鐘

by 遙か

願い事は あなたと同じ

いつも、イベントと言ったら外した事のない男が、ポカをした。
しかも、最大級のポカを。
年の最後の、大イベント――クリスマス・イヴ。
プレゼントは、早めに予約オーダーしておいたので、良かったのですが。
狙っていたホテルの予約を忘れていて、連動して、レストランの予約も出来ず。
それに、気付いた時は。
瞬間、目の前が本当に真っ暗になったそうです。
さてさて。
愛しい恋人兼奥さんの手前。
一体、どう対策を取るのやら。
第三者としては、楽しみな事です。

血の気が、盛大に引いた。
電話を切った後は、耳鳴りまでしてきた。
愕然と、膝が崩れそうだった。
……………。
嘘だろお。この俺様が、こんなミスするなんて。
嘘としか、思えねえ。
仕事の過密さに、頭がパンク状態だったのは認める。
認めるが、寄りによってクリスマスの予約をミスするなんて。
自分で自分が、信じられねえ。
八戒を喜ばせたくて、喜んで欲しくて。
色々と計画しておいたのが、これでパア…。
ベタボレの新婚だってのに、俺の仕事が忙しいせいで。
あんまし、かまってやれねーから。
こーゆー時に、埋め合わせするつもりだったてのに。
あーっ、どうしたらいいんだ、くそっ。
今から他あたったって、この時期だ。
キャンセルが、出るのを待つしかないだろう。
けど、そんな確率の低いモンに頼って。
外れた時のコトを考えると、勝負になんぞ出られねえ。
こればっかりは、うぅーっ。
八戒には、まだ言ってなかったのだけが。
救いといっちゃえば、救いだけど。
根本的な解決に、なるわけじゃねえし。
うーっ。うーっ。
マジ、どうしたらいいんだ?
時間的に余裕がナイから、精神的にも焦る。
落ち着けとは、思うんだが…ダメだ。
うー、格好ワリィ。うー、情けねえ。
あーもー、どうしたらいいんだよっ。

もうすぐ、クリスマスですね。
僕は、幼稚園のクリスマス会で使う部屋の飾りを作っていた手を止めました。
子供達が、切ってくれた色とりどりの色紙を。
輪にして繋げていたのが、だいぶ長くなってきたので。
子供達が、楽しみにしているクリスマス会。
今年もサンタ役は、延長の三蔵ではなくて。
自分から志願した、悟空に決まっています。
きっと、子供達は喜びます。
元気なサンタさんから、プレゼントを貰えて。
そんな子供達の事を考えると、僕も嬉しくなってしまいます。
なるんですが……。
僕の旦那さんの、悟浄が……。
子供達より、イベントが大好きな悟浄が……。
クリスマスにカンして、何も言わないのが。
とっても、心配なんです。
何かあったのではないかって、心配なんです。
僕は、悟浄みたいにマメな性格ではないので。
いつも、気が利かなくて。
でも、そんな僕をいつも悟浄はフォローしてくれるんです。
それが…クリスマスって言うイベントを悟浄が。
何も言わないのって、何かあったとしか思えないんです。
いつもいつも、僕を喜ばせようと。
色々と、悟浄はしてくれます。
その度に、僕は吃驚して。
悟浄の気持ちが、本当に嬉しくて。
何でもいいから、何万分の一でもいいから。
僕も悟浄に返したいと思って…いるのですけど。
悟浄の方が、手回しが早くて。
いつも、何も出来ないでいるんですよね。
鈍くさいって言うか…気が利かないって言うか。
はあ…。
お仕事、忙しいのだったら…仕方ないですものね。
無理しなくても、いいえ、無理して欲しくないんです。
僕は、悟浄が居てくれるだけで充分なんですもの。
「せんせえ、どしたの?」
「おてて、とまっちゃったね。」
「つかれちゃった?」
考え事をして、止まってしまっていた僕を。
子供達が、心配してくれました。
「いいえ、大丈夫ですよ。」
「ボク、おてつだいするっ。」
「あ、わたしもするっ!」
「みーんなですれば、いいよお。」
「うん、みんなでしよっ。」
あ、そうか。そう、ですね。
僕も、すればいいんですよね。
本当に、子供って凄いです。
簡単な事を難しく考えてしまう大人って、本当に馬鹿ですね。
「みんな、ありがとう。」
二重の意味での、感謝の言葉。
誇らし気な子供達の笑顔が、とても眩しかったです。

はあーーーーーっ、全くダメだ。
お手上げだ。参った。八方塞がり。
そんな、困ったー、困ったーって、思ってたら。
八戒が『悟浄、少し寒いですけど、散歩に行きませんか?』と、言い出した。
今から、か? 10時、過ぎだけど…。
いいか。八戒からのお誘いなんて、滅多にないしさ。
「よし、じゃあ行こうか。
あ、ほら、ちゃんとコート着てな。」
八戒は風邪引きやすいから、しっかりと着込ませてから。
俺達は、外へと出た。
クリスマス前で、賑やかな通りは避けて。
静かな、住宅街の道を取り留めなく歩いて行った。
途中のコンビニで、温かい缶コーヒーを買って。
凍った空気の中を歩き、続けた。
八戒の意図は、分からねえけど。
2人で、こんな風に歩くのは久しぶりで。
俺は、八戒をチラチラと見ながら、満足感で一杯だった。
不意に、教会の前で。
八戒が、足を止めた。
「…悟浄。」
「ん?」
「明日のクリスマス、僕、夕食頑張って作りますから。
…家で、過ごすのって。」
「は?」
「…駄目、ですか?」
ポツリと言われたけど、八戒がそれを言うのに。
一大決心したとゆーのが、緊張し切ってる全身から分かる。
俺の為に、一生懸命考えて。
こんな行動に出てくれたんだと思うと、胸が熱くなった。
「あの…悟浄。」
「ああ、定時に帰って来る。
八戒と2人きりのクリスマスを家でする、為に。」
「あ、ありがとうございます。」
俺の方こそが、ありがとうだ。
俺は、一人先走ってばかりいた。
けど、八戒は人形じゃないんだから。
喜ばせるってコトを勘違いしないよーに、と。
俺は、自分に釘を刺した。
「すっげえ、楽しみv」
「僕もです。」

深夜の教会の前
神聖な口吻けを交わす
誰もいない空間で
微かな鐘の音を
聴いた様な気がしながら―――――

2002.12.24 UP
★ コメント ★
はい、間に合いましたv
やっぱり、クリスマスは書かずにいられませんでした
準備だけはしておいたので、何とかかんとか…ぜいぜい・苦笑
BGMは【サクラ大戦】の【奇跡の鐘】ですv
スキなの〜、で、映画版の【サクラ大戦】見てから
今年のクリスマスは、絶対これーっ、て決めてました
詞の内容が、特に好きv
♪ 願い事は〜あなたと〜同じ〜♪
この部分を頭ん中で、リフレインしました
新婚さんのお2人で、やって貰いました
満足、満足v
これで、今年のクリスマスは……
冬コミの新刊に、2本
他サイト様への企画SSに、1本
ラスト、自サイトのSSで、1本
きっと、ネタのどこかが被ってるコトでしょー
笑って許して下さると、嬉しいですv

