RUN     



by 遙か



**********

「僕達…。」
「ん?」
「よく、こんな所まで来ましたね。」
「ホントにな。」

地平線から昇ってくる、年明け一番の朝陽を拝みながら
悟浄と八戒の、2人は―――――

**********


兎に角、邪魔する奴はブッ飛ばすで。
続けて来た三蔵一行の旅は、方針は変わる事無く。
年の瀬を迎えた。
日付の感覚など、無いモノ、元から無いモノと様々ですが。
一人だけは、把握していらっしゃいますので。

『明日は、新年ですねv』

と、一応残りの3人に教えていらっしゃいました。

『………。』
『はあ?』
『新年って、何?』

反応も、これまた様々ですが。
荒野のド真ん中。
野宿決定の、焚き火を囲んだ夕食時に言われても。
新年だから、一体それが何なんだ?
と言う、疑問が頭の中に浮かびます。
けれど、意図が読めない以上。

『…そうか。』
『そ、そうだな。』
『なあなあ、新年って何だよお。』

と、対応(一部除く)もディフェンス態勢を取ってしまいます。

『お正月の事ですよ、悟空。
 まあ、何も出来ませんけどね。
 気持ちだけでも、新たにと言う事でv』
『…あぁ。』
『新たに、ね…うん、新たにな。』
『お正月って…寺、大掃除することだよな…。
 良かったな、三蔵。しなくて済むじゃん!』

悟空のやや(?)ピントのずれた答に、締め括られ。
この話題は、この場で、終りました。

**********

―――――ん。

いつもの癖で、俺は隣で寝ている八戒へと手を伸ばした。
けれど、そこに八戒の感触がなく。
俺は、自然に意識を浮上させた。

薄目を開けると、周りはまだ薄暗く。
焚き火の明かりだけが、パチパチと音を立てていた。

「あれ? 悟浄、どうしたんですか?」
「…お前こそ、何してんの?」
「焚き火の番です。
 いっくらみんなが頑丈だって言っても、冬の最中の野宿ですからね。
 風邪引いたりしたら、大変でしょ?」
「お前は運転してんだろーが。俺が代わるから、寝ろ。」

むくりと、起き上がり。
寝起きがイイ俺は、素早く八戒の横に座って。
火掻き用に使っていた木の枝を八戒から、取り上げた。

「大丈夫ですよ。」
「お前の大丈夫は、世界一アテになんねえの。」
「…酷い、ですね。」
「ホントのコトだから、仕方ねえだろ。」

八戒の薄い肩を抱き寄せて、俺へと寄り掛からせた。

「ほら、こんなに冷えてるしよ。」
「冬だし、外だし、それこそ仕方無い、ですよ。」

憎まれ口も、快感ってか。はは。
もう、すっかり慣れちまったもんな。

初めは、カチンとくるコトも多くてよ。
怒鳴り付けたコトも、結構あったよな。
…そんな時の、言い草も忘れらんねえなあ。

『僕を怒鳴った人なんて、あなたが初めてです。』

つまり、それって八戒が周りの人間を排除してたってコトだよな。


八戒の思い出は、いつも姉ちゃん。
偶に、口にしても…いつも、姉ちゃんのコトだけだった。

――――――――――八戒の、世界で、たった一人の彼女

それが、あの怒鳴り付けた時から、少しずつ。
俺を見始めてくれた。
数え切れないくらいの、喜怒哀楽を。
俺達は、晒け出し始めた。
隠し事をしたり、感情のまんまに八つ当たりをぶつけたり。
雨の日の、ドロ水ん中、心飛ばしてる八戒を引きずって…。
連れ戻したコトも、ある。
借金取りと女問題が同時に起った時、取り持って貰って。
後で、延々と説教喰らったコトもある。
つまんねえコトで、ツボに嵌って2人でバカ笑いしたコトもあった。
……………。
振り返るのって、今までしなかった。
スルのが、イヤだったんだ。
余計なコトなんて、思い出したくねえから。

けど、今は、
八戒と過ごして来た時間を思い出すのは、ちっとも苦じゃねえ。
寧ろ、笑えて楽しいんだよなあ。


不意に、タバコを吸いたくなって。
俺は、焚き火の火を借りて。
一本、吸い始めた………。

**********

悟浄の肩に、頭を乗せながら。
僕は、そおっと息を抜きました。
焚き火をしたって、冬の外気の寒さは。
真冬ですから、半端じゃないんですよね。
けど、悟浄の存在が僕を暖かくしてくれる。
…本当、お手軽に出来てますよね、僕って。

僕と悟浄って、本当に変な関係ですよね。
同居人で、親友で、恋人で。
何もそんなに兼用させなくてもと、思うのですが。
他の人に求める気なんて、全くないんです。
僕は、許容範囲が狭いですから。ええ。

3年、一緒に暮らしてきて。
良く暮らせたなあって、思っちゃいます。
花喃しか、信じないでいた僕。
彼女しか、愛せなかった僕。
血の繋がりだけに、固執して縋っていた僕、が。
他人を――悟浄と日常を過ごす事が出来たなんて。
自分で、一番驚いています。
時の流れって、血より濃いものを作る時があるんですね…。

生まれて初めて、罵り合う大喧嘩をしたのは、悟浄とでした。
お酒を媒介にして、仲直りしたのも。
嘘みたいに、口煩く干渉したのも。
悟浄が、初めての相手でした。

不思議です。
いつの間にかも、気が付いたらも。
全部、悟浄…ですから。

目が合うと、笑ってくれる。
だから、僕も笑える。

何があったって、一々、そんな細かい事は覚えてはいないけれど。
どっちかが、死ぬまでの腐れ縁になるんじゃないかって。
今は、思うより…願っているんですよね。

**********

「ねえ、悟浄。」
「何?」
「僕にも一本下さい。」
「何、タバコ?」
「はい。」
「ほいよ。でも、珍しいな、八戒がタバコなんてさ。」
「ええ、何となく…と言うより…。」
「ん?」
「悟浄が、美味しそうに吸っているから、吸いたくなっちゃったんです。」
「ガキみてえ。」
「あなたには、負けますけどね。」
「何よ、ソレ?」
「勝ちを譲って差し上げたんです。」
「いらねー、そんなの。」
「折角、上げるんですから貰って下さいよ。」
「俺、それよりこっちの方が欲しいんだけどなあ。」

八戒の煙草を取り上げ、自分のと一緒に悟浄は消し潰した。
【まだ、吸っていた】の八戒の抗議は。
悟浄とのキスで、相殺される。


朝陽がうっすらと光の線を
地上へと伸ばしてゆく
年が改まろうが
あけましておめでとうだろうが
自分達のスキな様にやってくから
いつもとあまり変わらない

前を見据えて
地面を蹴る
決して乾く事ない心を抱き締めて―――――



2003.1.1 UP              



★ コメント ★

あけましてあめでとうございます
さて、一年の計は元旦にあり
と、いう事でこんなSSを書きました

分かる方は分かると、思う・笑
BGMは【B'z】の【RUN】です
分かりました? ふふ

隣で、肩を並べて、一緒に
前を見据える
そんな無意識の形で、2人は明日も行くんだろーなー

いいよねv

では、今年もどうぞ宜しくお願い致します
ぺこりvv



モドル