世界にひとつだけの花



by 遙か



誕生日だし
特別な日だし
だからこその日に
花を買ってもいいんじゃないかと 思う

**********

うーーーんと、と店先で悩む事…数十分。
日頃、あまり物を考えず。
即断即決の男が、悩んでいる姿は何とも言えない。
可愛らしいと言えば、可愛らしいし。
何やってんだと言えば…不気味だし。
店員さんも、客商売と言えど、心持ち…後ろに引いていたりして。

『…なんだって、こんなにあるんだよ。
 大体、アイツの好きな花なんて、俺、知らねえじゃん…。』

顎に手をやり、更にうーんと首を捻る。
視線は、バケツに入った綺麗に咲いた花達に固定して。
大体、花を買おうと思ってここに居る訳ではなく。
偶々、通りすがった花屋の店先の色取り取りの花達に目を惹かれただけ。
そして、今日は八戒の誕生日だから、花を買っていこうと思ってしまっただけ。

懐は、昨晩のバカツキのおかげで、ぬくぬくだったし。
朝帰り…という時間はとっくのとうに過ぎている後ろめたさも、あって。
何か、何か土産でもと考えていたとこに、目に飛び込んできた、鮮やかな花の色。
柔らかく、ゆらゆらと揺れている様は、心を和ませる。
これだ、と即座に思ったのはいいが。
さて、どれにしようかというとこで、悩み始めてしまったのだった。

『……アイツの好きそうなのは、っと。
 どれを選んだら、一番ね喜んでくれるんだ……?』

うーーーんと、更に首を捻って考え始める。

『……大体さ、物の執着ちゅーか、拘りないじゃん、アイツはよ。
 なければないでいいだしさ、あればあるに越したコトはない…なんだよな。』

ふと、倹約家で欲の無い、美人の顔を思い浮かべる。
にこにこと…いつも、にこにこしてて。
表面に出る感情も、画一化してる…コントロールしてる、笑顔。
だけど、唯一自分にだけは、感情の揺れを―――ストレートにぶつけてくる、相手。

『でもよ…どうせだったら、アイツの好きそうなのをやりたいよな。
 そうなると、と………。』

又…更に、腕まで組んで盛大に悩み出す、図体がデカくて見目良い男は。
もう一度、うーんうーんと、唸り出す。
周りの困惑など、我関知せずで…本当に良い迷惑で(笑)。

**********

朝帰り…昼帰りは、もういつもの事で、今更何の事はない。
慣れとは恐ろしいもので、感覚が麻痺するのかもしれない。
軽く、一人で朝食を摂って。
天気が良いから、シーツ等の大物を洗って干して。
窓を開けて、家の中に風を通して。
椅子に座ったところで、八戒は12時の時報を聞いた。

『…遅いなあ、悟浄。…何か、あったのでしょうか。』

流石に、いつもの事と言えど、12時を過ぎた事で。
八戒の頭に、心配が過ぎった。
子供じゃないのは、解っている。
解っているから、却って心配になる。
三蔵に負けず劣らずの、トラブルメーカーなんですよね…悟浄は…と。
八戒は、大きな溜息を付いた。

格好付けで、お節介で、馬鹿みたいに優しい男。
他人の痛みを自分に置き換えてしまう、男。
優しくないからと、言って照れた笑いを思い出す。

『…照れるくらいなら、言わなければいいのに。
 変なところで、素直な人なんだから。』

そう思い出す八戒の口元にも、綺麗な笑みが浮かぶ。
自然に…飾らずに…ただ、悟浄の事を想いながらの、微笑みが。


買い出しは済ませてあるので、今日は冷蔵庫にある食材で作ればいい、と。
悟浄が帰って来たら、直ぐに食べられる様にしておこう、と。
自分の誕生日が頭の中にインプットされていない八戒が、椅子から立ち上がった瞬間。
窓の外に、ある物を見つけて、その場に固まった。

『…何ですか、あれは……。』

少しずつ近付いてくる、色の塊。
それは悟浄が片手で、肩に担いでいる花束だと、直ぐに解ったのだけど。
今まで、一度もお目にかかった事のない大きさと色の統一性の無さに。
ただ…ただ、八戒は吃驚するしかなかった。

どんどんと近付いてくると、花束の内容も解ってくる。
色がバラバラなのは、花の種類がとんでもなく多いから――と、言うよりも、1種類1本ずつ――それが、何十本もの花で、束を構成しているからだった。

八戒が呆気に取られているうちに。
悟浄は開いている窓から――家の外から――部屋の中の、八戒に声を掛けた。

「ただいまー、八戒v」
「…お帰りなさい、悟浄。…あの、それは?」
「オマエへの、プレゼントvv」
「僕に…ですか?」
「そ。お誕生日のプレゼント…受け取ってくんねぇ?」
「あっ! ………ありがとうございます。」

窓の内側から、腕を大きく広げて。
八戒は悟浄から花束を受け取って、嬉しそうに抱き締めた。

「綺麗、ですね。」
「気に入ってくれた?」
「はい。」
「だったら、良かった。
 どれを買ったらイーのか、悩んじまってさあ。」
「…悩んだ結果が、これ…なんですか?」
「ああ、いいだろ? なかなか、さ。」
「ええ、とっても素敵です。」



花さえも勝てない、八戒の笑顔に
悟浄は頬へと手を伸ばして、キスをする

世界で、ひとつだけの、自分だけの、花へ―――



2003.9.23 UP              



★ コメント ★

うわわわ〜っ
本当に久しぶりに書きました…自分なりの58を(笑)
ブランクが長かったから…書けないかもと、心配してました(苦笑)

好きなんだなあ…しみじみ、そう思います
八戒さんが八戒さんが八戒さんが(笑)
悟浄も勿論、好き好き好きv


ハッピーパースディ、八戒v




モドル