弥生*卯月
by 遙か
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咲き誇る花 散り行く花弁
お前への 恋情と共に 振り仰ぐ
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「何してるんですか? あなたは。」
「見て判んねえ? 花見だよ、花見。」
「花見ですか? 酒呑みにしか見えません。酒呑み。」
櫻の樹の太い枝に、どかりと座り込み。
一升瓶を片手に、手酌でコップ酒を呑む男に。
よれた白衣のポケットに、手を入れたまま。
歩きにくい便所サンダルを物ともせず。
優雅に歩いて来た元帥が、呆れ顔のまま声を掛けました。
西方軍のみならず、天界の軍の中でも有名なコンビの。
捲簾大将と天蓬元帥。
軍という戒律の厳しい世界の中に。
自由奔放、やらずぶったくり、厚顔無恥で。
自分達の責任において、在籍しておりました。
静と動を兼ね合わせた2人の息は、打合せ無しのアドリブで。
ご本人達は、嫌そうな顔をしますが。
いつも、ピッタリでした。
「そりゃあ、酒も呑んでっからなあ。」
「ええ、いつもの如くにですね。」
「けど、花がメインなんだって。」
「そうは見えなくても、ですよね。」
樹の根元で立ち止まり、天蓬は視線を顔ごと上にあげました。
それに応える様に、樹の寄っ掛かったまま捲簾は。
顔だけ、下にいる天蓬へと向けました。
少し肌寒い風の吹く。
日が顔を隠し、月が顔を覗かせ始める夕刻。
サアーッと、吹いた風が。
櫻の枝を揺らし、ザッとした音を立てさせる。
花弁が、一気に上へと舞い上がり。
何処かへと、散り散りに散ってゆく。
「綺麗ですねえ。」
「綺麗だな。」
「恐いくらいに…。」
「…そうだな。」
ふたりして、同じものを見、同じものを目で追う。
全ての感覚が、スッと消えてしまうような、一瞬の浮遊感。
掴まるものが、何も無い中での唯一の確かなものへの、安堵感。
「ねえ、捲簾。」
「ん、何だ?」
「ひとりで呑んでないで、僕にも下さい。」
「だったら、さっさとこっちに来りゃいいだろうが。」
「だったら、さっさと手を貸してくれればいいでしょうが。」
「………ほら。」
差し出された掌をしっかりと握り。
捲簾の力強い腕に引っ張られ、天蓬は。
身のこなしも軽く、樹へと飛び乗りました。
その際は、ちゃっかりと捲簾の膝の上に座るのも忘れていません。
「ナイスキャッチですねv 流石です、捲簾。」
「…受け損ねたら、なあに言われっか判んねえからな、天蓬。」
「良くお判りで。」
「長い付き合いなもんで。」
「腐れ縁ですよねえ。」
「ああ、腐れて爛れてるもんなあ。」
軽口の応酬。
お互いを見ながら、目で笑いながらの。
「櫻は、散り際が好きです。僕。」
「そうなのか?」
「ええ。潔くて、人みたいに見苦しくないですから。」
「成程。俺はこの花だったら、何でも好きだがな。」
「大雑把ですねえ。」
「博愛主義と言え。」
「言葉の使い方、間違っているような気がしますけど?」
「ニュアンスは判るだろ?」
「…そうですね。何となくですけど。」
「判れば宜しい。」
「はいはい。」
緊張の糸を自然と緩めて、身体を寄せ合う。
天蓬は、捲簾の腕の中へと凭れ掛かり。
捲簾は、天蓬を腕の中にと抱き締める。
誰も立ち入る事を許さない、唯一無二の場所。
何を引き換えにしても、悔いのない。
他に何もいらない。ただ、これだけ。
どんな言葉も追い付かない、感情。
己の中に、こんな部分があったのかと。
驚き、呆れてしまいくらいの…。
「捲簾。」
「ん?」
「僕にも、お酒を呑ませて下さい。」
「呑ませればいいんだな?」
「ええ。」
手に持った酒を一口含んで。
捲簾は天蓬の顎へと手を掛け、親指で唇をなぞり開かせた。
降りゆく花弁の中で、重ねられる互いの唇。
胸が痛くなる程の、口にしない恋情を抱え。
きつく抱き合う。
夜に溶けてゆくように。
櫻だけが見ていた、秘め事――
2004.5.14 UP
★ コメント ★
捲簾と天蓬のお話です
某ゲームで一緒にいてくれた貴方へ
沢山の心を込めて
モドル