Start
by 遙か
――全て、リセット ここから、スタート
†††††
始まりがあれば、終わりもある。
そんなのイヤって程、知ってる。
見てきたし、聞いてきたし、経験してきた。
俺は、臆病モンだから。
そん時に備えて、ショック受けねーよーに。
守りをいつも固めていた。
ナンでもねーコトのよーに。
サラリと受け流すコトが出来るよーに。
執着ってモンを持たねーよーに、気を付けていた。
――アイツ、八戒に会うまでは。
八戒は――強気で、こまっしゃくれてて。
喰えなくて、侮れなくて――俺より、ずっと臆病だった。
切り替えのきく、表情の仮面。
口も目も、笑ってんのに笑ってなんか、決してねぇ。
だったら、笑わなきゃいーのにってさ、俺は思ってた。
誰の為に、笑うのか。
何の為に、笑うのか。
そこらヘンの詮索する気はねぇんだけど。
…気になるんだ、俺は、アイツが。
気になって仕方ねぇ。
大体、怪我人の、しかも、死にかけの男を。
この俺が、拾ってきたってトコから。
俺もどーかしてるっちゃ、してんだよなぁ。はは…。
「―――悟浄。」
「! ナ、ナニっ? 八戒。」
「…そんな吃驚しないで下さい。
さっきから呼んでいるのに、僕の方が吃驚しますよ。」
「悪ぃ、考えゴトしてたもんで。」
「貴方の考え事………。」
「おい、ナニ、その不審そーな顔は。
俺だってなあ、マジメに考える時だってなあ…。」
「はいはい、判りましたから。
それで、今晩はお出掛けするんですか?」
まぁ〜、人が話してんのを軽く遮ってくれちゃって。
俺がやったら、説教かますくせになあ。
「悟浄、聞いています? 僕の話。」
うわわっ、ヤバ。
「あー、聞いてる聞いてマス。」
「それで、どうするんですか?」
「休みv 昨日の晩、儲けたからさ、今晩はオヤスミvv」
「…判りました。夕飯、悟浄の分も作りますね。」
「サンキュー。」
くるりと、俺に背を向けて。
キッチンへと、歩いていく八戒が、ホっとしたよーに見えんのは。
気のせーか、自惚れか。
今日は雨だから、理由を作って俺は、家にいるつもりだった。
どーしても、八戒の傍にいるつもり、だった。
†††††
何を作りましょうか…今晩は。
冷蔵庫にある食料ストックを頭に思い浮かべて、僕は。
今晩のメニューを決めていきました。
セロリがあるけど…サラダには入れないでおきましょう。
好き嫌いが 、本当に多いんですから、悟浄は。
バレていないと思っている所が、また子供なんですから。
あんなに嫌そうな顔で、隅の方にセロリを寄せていたら。
直ぐに、判りますって。
本当に、面白い人です。くすくす。
――と、ここまで、考えて。
僕は、笑っている自分に気付きました。
外は、雨が降っているというのに。
それを気にしないばかりか。
『彼女』の事を思い出しも、しないなんて。
雨が降っていない普通の日でも、僕は時間があれば。
『彼女』の事を考えてばかりいたのに。
僕のたった一人。僕の半身。
僕の………。
現実で失っていても、僕は『彼女』を忘れるなんて事はないだろうと。
ずっと、思っていました。
実際、忘れていません。
ただ…『彼女』の肉体が無いだけという事ですから。
僕の裡にある『彼女』の声。言葉。仕草。表情。
…思い出。
それらが、あるから。それだけで、いいと思っていたのに。
『彼』が、僕の傍に居るんです。
生命力のある力強い紅が。
いつも、僕の傍に。
拾われた事は望んでいなかったけれど。
傍に居る事を望んだのは…僕です。
何か、変わってきているのでしょうか・
時間が過ぎれば、過ぎる程。
『彼女』は、決して僕から消える事は無いのに。
『彼』も、居るんです。
僕の中に。いつの間にか。
†††††
風が吹く
区切りをつけて、一陣の風が
何処に吹いていく風だが、判らないけれど………
2004.7.7 UP
★ コメント ★
悟浄と八戒の、お話
ある人の為に書きました
ある場所で、ずっと傍に居てくれた貴方へ
モドル