夏
by 遙か
カラン――、と
飲み残したウィスキーグラスに入っていた氷が
存在を主張する様に、音を立てる
夏の夜
昼の暑さを宥める様に
柔らかく闇のベールを広げてゆく
††††††††††
昼に、八戒とケンカした。
久々に、険悪なのを。
売り言葉に、買い言葉。
盛大に怒鳴り合った。
原因は、いつものコト。
空き缶を灰皿代わりにするな、とか。
深酒をし過ぎるな、とか。
食いモンの好き嫌いが多過ぎだ、とか。
いつもだったら、軽く聞き流せるコトが。
今日に限って、出来なかった。
…つーのは、暑さのせい、か。
陽射しは、カンカン照り。
セミはミンミン煩せーし。
ウダウダするしかねーのにさ。
そんなトコに、耳タコのお小言、聞いちゃいらんねーっての。
それを八戒が、いつも以上にクドクドと言うもんだからさ〜。
キレたよ、俺も。
俺の反撃に、目を丸くしてたけどさ。
直ぐさま、臨戦モードに突入して、揚げ足の応酬攻撃ときたもんだ。
あーだこーだ言っても、一つ一つご丁寧に理屈で返されてさ。
グウの音も出ねーくらい、叩きのめされるんだもんな。
いつもは。
けど、今回は俺も虫の居所が悪かった。
負けずに言い返したモンだから、すっげぇドロ沼。
ドロドロ、グチャグチャ。
頭ん中の黄色信号は、もうヤメロヤメロって言ってんのに。
止めらんなくてさ…。
うわっ、どーすんだ俺と、内心ワタワタとし始めた所で。
バケツをひっくり返したよーな、夕立が起きた。
††††††††††
えっ? と、思った途端。
窓の外は、大雨…どしゃぶりになっていました。
一瞬、思考も動きも止まってから。
僕は、はっと気が付いて、口にしていました。
「洗濯物っ!」
それから。
「悟浄っ、手伝って下さいっ!」
「判ったっ!」
口喧嘩なんかしていられません。
即中止にして、僕は僕の一声で、先に外へと飛び出して行ってくれた悟浄の後を。
追いました。
ただ、追ったのは、いいのですが……。
結果、夕立の雨の勢力には敵わず。
洗濯物だけでなく、一緒に僕達もびしょ濡れと…なりました。
「悟浄、大丈夫…。」
「八戒、大丈夫か?」
同時に、お互いを振り返って。
同時に、声を掛けて…僕達は思わず、ぷっと吹き出してしまいました。
あまりにも、おかしくて。
慌てたけど、洗濯物は全滅。
おまけに、自分達もずぶ濡れ。
もう、笑うしかないじゃないですか。
堪えきれなくて、堪えられなくて。
一頻り大笑いしたら、さっきまでの険悪な空気は。
もう何処にも無くなっていて。
まるで、雨が流してくれたみたいに。
綺麗さっぱりに、なっていました。
洗濯の遣り直しは、明日。
シャワーを浴びて。食事をして。
気分が良いので、お酒を飲んで…。
手を取られて。肩を引き寄せられて。
視線を合わせて、唇を重ねて…。
††††††††††
焦ってって、カンジがしなかった。
ナンか、手順はいつもと同じだってのに。
ナニかが、いつもと違うカンジがする。
スル気が無かったって訳じゃねーんだが。
いつもみたいな、さあ、やるぞってカンジじゃねーんだよな。
ちと、不思議な気分だ。自分に。
ただ、合わせるだけのキスを繰り返して。
八戒の名前を沢山呼んで。
時々、頬とか目元にも柔らかくキスして。
存在を――形を確かめるよーに。
その肌へと、掌を滑らせていく。
俺より、体温が低いくせに。
俺が触れると、一気に熱を上げる躯。
だから、つい俺も夢中になる。
同じ構造だってのに、どーしてこんな気に。
ナンのか…ねぇ。
「ご…じょ…。」
甘い息と一緒に呼ばれる、俺の名前。
白い腕がもどかしげに、俺の首に伸ばされる。
雨が降って、ひんやりとした空気の中。
追い上げて、追い上げられた熱を。
互いの躯に、灯し合い…貪り合ってゆく。
俺達は。
「愛してる…八戒。」
2004.9.1 UP
★ コメント ★
悟浄と八戒の夏のお話です
喧嘩しても、ちゃーんと仲直り(Hでv)して
そんな二人の日常な、お話です(笑)
モドル