少女の憂鬱
by 遙か
西での決着が付いて。
東へ帰る途中の事なのですが。
きっと、誰も考えも付かない事が、僕の身の上に降り懸かりました。
ある朝、悟浄の腕の中で目を覚ましたら。
躰が女性化していたんです。
その後、戻る気配はないし、原因は分からないしで。
一応、困ってはいたのですが。
三蔵も悟空も、あまり気にしないで、この状況を受け入れてくれたので。
僕としても、あまり気にしてはいなかったのですが……。
「八戒、これ。」
「何ですか、悟浄。」
「俺からのプレゼント。見てみ。」
「あ、はい。」
そう言って渡されたのは、白のノースリーブのワンピース。
「八戒に似合うと思ってさ。思いきっちゃったんだな。」
「…ありがとう、ございます。」
その時は、悟浄の上機嫌に、お礼の言葉を口にしましたが。
僕の中では、悲しみの小石が投げられて。
どんどん、波紋を大きくしていってしまいました。
悟浄は……もしかしたら……。
「済みません、先に休ませて貰いますね。」
今日も僕は1人部屋を取り、先に、誰も口を挟めないようにと。
急いで、部屋へと戻り、鍵を掛けた。
悟浄を避ける為に。
こんなにあからさまにしているから、多分。
いえ、絶対、悟浄は気が付いています。
でも、何も、言いません。
僕は、一体、どうしたいのでしょう。
なんだか、自分で自分が分からなくなっています。
女性化してから。
一度も、悟浄と肌を合わせていません。
1人で、ベッドの中に入り。
目を閉じるのですが、ちっとも眠れなくて。
眠れない日が、何日続いているのか……。
「八戒、顔色、ほっんとに、悪いぞっ。大丈夫なのかよっ。」
「え、そうですか。」
悟空に勢い良く言われて。
確かに、体調が悪いのは自覚しているのですが。
それを隠したくて。
笑って、大丈夫ですって、言おうとしたのですが。
がくり、と。
膝が折れて、目の前が真っ暗になって。
自分の躰を支えられなくて……。
「八戒っ。」
悟浄の声と悟浄の腕に、包み込まれたと感じたのを最後に。
僕は、意識を手放してしまいました。
優しい、眼差し。
目を閉じていても、感じる。
温かくて、心地良くて。
誰でもない、悟浄が僕に与えてくれる、モノ。
「目、覚めた?」
「……悟浄。」
「心配したぞ。」
「……済みません。」
さらさら、と。
悟浄の右手が、僕の前髪を梳いていて。
左手が、僕の手を握ってくれていて。
僕は、涙が一つ、零れるのを止められなかった。
「八戒。」
「……ごめんなさい、悟浄。ごめんなさい……。」
「いいって、ほら。」
悟浄の手が、今度、僕の頬を包んでくれた。
指で涙を拭ってくれた。
「……ごめんなさい。」
涙が止まらない。
どうして、悟浄は僕に、こんなに優しいんだろう。
何も言わないで、悟浄を避けていた、卑怯な僕に。
こんなにも変わらない、優しさを与えてくれるのだろう。
「悟浄、僕…。」
「八戒さ、俺のコト、恐かったんだろ?」
「……………違い、ます。」
「ん――って、ゆーかさ。俺のコト、避けてたよな。」
あ、怒ってなんてないからな。それは、本当だからな。」
僕は、返事を返せなかった。
声が、気持ちが詰まって、何も言えなかった。
「あのさ、無理して答えなくていいからさ。
返事の変わりに、yesだったら俺の手握り返して? いい?」
僕は、悟浄の手を握り返した。
「俺ね、八戒が俺を避けだしてから、色々、考えたんだ。
で、辿り着いたのが、八戒、大変だよなってコトなんだ。
朝、起きたら自分の躰が変わっちまってたんだもんな。
それで、パニック起こして当然なのに、俺達に気遣ってばっかりだろ。
気、休まらないよな。
だから、俺のコト避けたって仕方ねえよなって、思ったんだ。
俺、八戒にくっついての好きだからさ。
でも、それって、今の八戒には、しんどいもんな。
だから、八戒が八戒なりの結論が出るまで、黙ってようって思ってたんだけど。
倒れるまで、お前のコト、ほっといて…ごめん。
怒ってるよな。冷たい男だって。」
僕は、びっくりしてしまった。
悟浄がこんな風に、考えて、想っていてくれたなんて。
僕が1人で殻に閉じこもっていた間。
悟浄をこんなに苦しめいたなんて。
……ちゃんと、話さなくちゃ。
僕の、臆病な、隠してしまっていた気持ちを。
「違います。悟浄、違うんですっ。」
苦しい。言葉を出すのが、苦しい。
「八戒、お前の躰、起こすぞ。いいか?」
僕は、慌ててコクンと頷いた。
「ほら、俺に寄り掛かっていいから、力抜いてな。」
僕の躰を僕が楽にように、抱き込んでくれた。
ああ。
なんて、安心するのでしょうか。
ずっとずっと、避けていたから。
余計に、嬉しいです。
「無理に話さなくていいさ。…いいんだからさ、八戒。」
髪を撫でて、優しい声で。
僕を甘やかしてくれて。
僕は、口を開いた。
「悟浄が恐いんじゃないんです。
僕が恐いのは、自分の躰なんです。」
「お前の躰? って、女になっちまってることか?」
「ええ。悟浄に今のこの躰で抱かれるのは構わないんです。
でも、その後、悟浄が女性の方がいいっ思ったらどうしようって。
元の躰に、戻った時。そう思われたら、どうしようって。
悟浄の傍、いけなくなってしまったんです。」
「八戒…。」
「悟浄が僕に服をプレゼントするから。
本当は、女性の方がいいんじゃないかって、思ってしまったんです。
だから、だから、恐くなってしまって……。」
感情が高ぶってしまって、止められない。
話すつもりなんか、絶対になかったのに。
僕が引っ掛かってしまった、あの白いワンピースの件まで、口にして。
「ごめん。そんな深い意味でやったんじゃないんだ。」
「ごめんなさい。こんな事まで、言うつもりじゃ…。」
「俺、ただ、八戒に似合うだろうなって、思っただけなんだ。
それだけは、信じてくれないか。」
「ええ…ええ、悟浄、信じます。」
「俺さ、八戒だったら男でも女でも構わないんだ。
あ、どっちでも大した違いがないってコトだぞ。
外見が違ったって、中身は変わんないし。
どっちでも、美人で可愛いしさ。
たださ、俺、八戒がイヤがるコトだけはしたくねーの。
嫌われたくねーんだ。それが、俺の一番恐いコトだからさ。」
「悟浄。」
僕は手を伸ばして、悟浄の首に手を伸ばして。
しっかりと、抱き付いた。
好きです。
好きです。
悟浄が、好きです…僕。
「八戒〜、俺の我慢、試してる?」
「いいえ。」
「じゃ、我慢しなくていいのか?」
「ええ。」
いつの間にか、哀しい涙は止まっていて。
今は、嬉しい涙が零れていて。
僕は、悟浄の口吻を受け止める。
ゆっくりと、ベッドへと横たえられながら。
2001.5.1
☆コメント☆
八戒女の子化計画話でしたあ。
続きは、まだこれから書きますが、屋根裏部屋の方にします。
じゃないと、何しでかすか。
悟浄と自分に、自信がありせんので、そこはそれ、ご了承下さ〜い。
会社帰りの電車の中でこの話を思いついて、家に帰った途端、書き捲りましたあ。
楽しかった。
この女の子話は、八戒さんの方が腰引けてますが。
今度、悟浄の方がたじたじの話を書いてみたいもんです。
ではでは〜、感想などお聞かせ頂けると嬉しいし。
リクエスト頂けると、調子に乗りますよお。