還る場所




by 遙か



気が強くて強くて…エンドレス…強過ぎて
しかも、狡賢いのに
こんなのは、反則だろ?

†††††  †††††


「はいv 行ってらっしゃいvv」

ムスーーッ、とした顔の俺に。
短く簡潔に、ニッコリと手を振って。
見送り体勢に徹している天蓬との間の空気は。
当然だが、一色触発状態だった。

事の起こりは、今回の討伐に。
天蓬が、当日になって同行しねぇって、言い出した事だった。
理由は…。
『一週間程の短期間だから僕まで出向く事はないでしょう。』
『貴方が行けば、充分ですよ。直ぐに片付いちゃいますよ。』
『僕は留守番して、溜まっている書類を片付けていますね。』
――と、言われたが。
誰が、そんな建前を鵜呑みにするかっ!
本音は、昨日届いた本の山から離れたくないんだろーがっ!

仕事云々もあるが。
いつもの事だと言ってしまえば、済んでしまうんだろうが。
恋人としての立場のプライドが。
このドタキャンには、思いっきり神経を逆撫でられたぞっ。
おいっ、天蓬っ!!!!!


†††††  †††††


…ちっ、全くしつこいですね。
こんなの毎度の事じゃないですか。
今更、こんなに怒る事も無いでしょうに。
もお、天下の西方軍御大将が子供みたいに。
堂々と、拗ねまくるのは止めて下さいよ。
まだ、2人きりの執務室の中で。
部下達の手前じゃないのだけが、救いですね…はぁ。

「天蓬っ!」

あ〜、はいはい。
本当に我が侭なんですから。
出立まで、もう時間が無いっていうのに。
仕方の無い人なんですから。
別に、いつもの事じゃないですか。
首を長くして、待っていた本が届いたんですよ。
直ぐに、読みたいじゃないですか。
人として、当然の欲求でしょ。
そんな散歩を反故にされた犬みたいに。
キャンキャンと、喚かないで下さいよ。

……煩い、ですよ。もう……。

僕は眼鏡を外して、白衣の胸ポケットへと入れて。
捲簾へと、腕を伸ばしました。
頭を両腕で抱き締めて、包み込みました。
唇をしっかりと重ねながら。
途端。腰を引き寄せられ。
背中に腕が回って、抱き締め返されて…。

ん、好きですよ、捲簾…。
だから、そろそろ誤魔化されて下さい。
貴方だったら、一週間もかかりません。
2〜3日で帰って来れますよ、これ位の任務ですから。

…本、読み終わるまで行っていてくれてもいいんですけどね。
これを口にすると、折角静かになったのが。
又、煩くなりますから黙っておきましょうね。

首を傾けて、角度を付けて。
状況を考えると、一寸ヤバイですかねぇ位の濃厚なキスをして…。
数分経過。
お互い、相手を知り尽くしているっていうのも、善し悪しですね。
キスだけで、こんな簡単に煽られてしまうってのも。
…困らないのが、困ったもんです。


†††††  †††††


俺だってな、それなりの自制心だの、判断力はあるんだ。
下半身のコントロールも、付けられるさ。
けどなあ…、あーっ、くそっ。
時間の無い時は、止めときゃ…。

眼鏡を外すと、天蓬は視力の悪さで焦点がぼんやりと。
頼りなくなる。
鳶色の瞳が薄く見えて、儚げに見えるんだ…見えるだけな。
それが、今のキスの余韻で潤んでいるから。
色気が倍増。
本人は鈍いが、身体の反応は俺のおかげで敏感になっているから。
目元は染まってくるし、鼻をクンと鳴らして甘えてくるし…で。
これさ、全部意識無いってトコが、ある意味怖いよなあ〜。

さっさと片付けて、早くに帰還するか…。


†††††  †††††


「続きは、帰ったらな。」
「ええ、そうして下さい。」
「覚悟してろ。躾直してやる。」
「はいはい。
 それを楽しみにしていますから、早く帰って来て下さいね。」

2人にしては不似合いの、チュッと小さな音を立てるキスをして。
やっと、お互いの身体を離しました。
次に抱き合うまでの間の種を植え付けた事に、満足しながら。

「浮気するなよ。」
「貴方こそ。」

大分、遅くれた出立時間も。
待たせてい部下達も、気にせずに。
軽く服を直して、2人は執務室を出ました。
部屋の中に、濃密な時間を閉じ込めて。



2004.9.6  UP



★ コメント ★

捲簾と天蓬のお話ですv
これが2人の日常…でしょうねぇ(大笑)
タイトルがシリアスっぼいのに
内容はコメディでしたねぇ(苦笑)




モドル