will
by 遙か
Stay …
Stay …
Stay …
貴方が死んでも 僕は生きてゆく
††††† †††††
風が…強い、ですね。
窓の鍵…大丈夫、でしょうかね。
ガタガタと、ガラスが揺れる度。
ギシギシと、嫌な音を立てていますからねぇ。
まぁ、壊れた時は壊れた時で。
今は、気にしたって仕方ありませんしね。
僕は読みかけの本へと、視線を戻しました。
僕にしては珍しい、ラブストーリィもの。切な系の。
…どういった風の吹き回し? です、かね。
『泣きたい時も 哀しい時も』
ふと、目に留まった、一文。
…これは、2人で居れば大丈夫って事なんでしょう…か。
そうすると、一緒に居る事を知ってしまったら。
一人では、耐えられない? という事でしょうか。
僕の色褪せていた日常でも、周りからの動きがあって。
それなりの生活を送っていました。
一人で居る事を意識せずに…。
…意識などした事も、無かったのに。
黒と赤のイメージの男に、出逢って。
少しずつ砂山が波に浚われる様に、その男へと意識が。
流されていって。
貴方の事ですよ、捲簾。
憎たらしいから、黙っていますけどね。
確実に、貴方はこの僕を侵食していたんですよ。
僕は、僕であれば良かったのに。
貴方を想う。
貴方を目で追う。
声を聞き、軽口を叩き、背中を預けて。
眠っている貴方の顔を堂々と覗き見るのが、好きでした。
確かな、呼吸音。
毛布から伝わってくる身体の温もり。
骨張った指。
剣を持つ者の、独特の手。
…小さな傷は、それこそ無数にありましたね。
そんな中で、爪の形が良くて。
よく眺めていました。
戦場での野営だと、仮眠といっても目を閉じるだけの貴方が。
僕と、2人だけでベッドに眠る時は。
鼻を摘んでも、起きた事はありませんでしたね。
全く、僕を無条件に信じる大馬鹿で。
間抜けな程、鷹揚で。
どうしようもなく、僕の愛おしい男…です。今も。
捲簾…貴方は。
――ガタンっ!
大きく窓が鳴って、僕は本から顔を上げました。
鍵が何とか保ったらしく。
風に、窓は開けられませんでした。
しっかりと、僕は現実に引き戻されました。
虚無に支配されている現実に。
「…捲簾。」
ポツリと、口は貴方の名前を呼んでいました。
いらえを期待しているんじゃありません。
無駄な事はしません。
合理主義、なんです。
現実主義、なんです。
無いものねだりをするなんて事は、嫌いなんです。
…捲簾。
どんなに貴方が、今も、欲しくても。
††††† †††††
あの日の戦闘が、終わったのは夜でしたね。
風が強く、雲が吹き飛ばされて。
月が煌々とした、空でしたね。
虫の息のくせに、貴方は笑っていて。
僕からのキスを欲しがって。
血と汗で汚れた手を僕の頬へと、伸ばして。
『天蓬。』
僕の名前を一回だけ、はっきりと呼んで。
目を閉じてしまいましたね。
とても、満足そうな表情で。
僕の、貴方の記憶はそこで終わっています。
もう、何一つ増えません。
打ち止めって、言うんですかね。これって。
―――くす
いい…ですよね。
これ以上、増える必要が無くても。
僕は貴方のもの、ですから。
貴方が、ここに居なくても。何処に居ても。
僕のものの様に。
―――あふ
そろそろ、眠くなってきましたね。
ここで、このまま寝ると身体が痛くなりそうですから。
まだ、起きているうちに。
ベッドに行って、寝ましょうか。
ベットの左端を空けておくクセは、その儘に。
捲簾の部屋の、捲簾のベッドに。
僕は潜り込んで、もうだいぶ薄れてしまった捲簾の匂いに。
フッと、一息ついて、目をしっかりと閉じました。
夢を見ない様に。
何も考えない様に。
眠りに就く為に。
2004.9.10 UP
★ コメント ★
某ゲームの滞在最後の思い出に
最後を一緒に過ごしてくれた
大切な人へ贈ります
モドル