今宵の月のように




by 遙か



『くだらねぇ』

吐き出す様に言った言葉は
諦める為の色を濃くしていて
虚しいよりも切なさを
無理に心に押し込んでゆく…

†††††  †††††


悟浄と暮らし始めて、一年…。
一年以上、経っているんですね。
僕は、何となく思い出しました。

初めの頃に比べれば、だいぶ慣れてきたとは思うのですが。
ぎこちなさは、まだまだあって…このままでいたいと、思う反面。
このままじゃ、いけないっても、思うんですよね。

―――――悟浄が、優し過ぎる人だから。

九月の僕の誕生日…悟浄は祝ってくれました。
ケーキを買ってきて、プレゼントだと言って本を渡されて。

『本、読むの好きだろ? いつも読んでるしさ。』

そう言って、贈ってくれたのは児童文学のぶ厚い本。

『話題の本だって、店員がゆーからよ。
 ナンにしていーか判んねーし…俺じゃ。』

バツが悪そうに、頭を掻いていた悟浄。
驚きましたけど…とても、驚きましたけど。
嬉しくて。

『誕生日、おめでと。』

と、悟浄が僕の誕生日を祝ってくれたのが。
ただ、嬉しかったんです。素直に。

『ありがとうございます。』

と、だから言葉にしたんです。悟浄へ。



give & take ――今まで、人との関わりはこれだけでした。
見返りに何かを要求されるのが、当然の事で。
でも、それが面倒で何かを欲しいと思うのを止めていました。

だから、僕。
悟浄を信用していなかったんですよね。
だって、何で見ず知らずの人間を怪我をしているからって。
ここまで、面倒見てくれるんですか?
ほっとけばいいのに、死にかけた罪人なんて。

…僕、捻くれていますからね。
額面通りに取れなくて、悟浄をずっと無碍にしていました。
でも、どう考えているのか。
悟浄の方は、一貫して変わる事がなくて。
僕はいつの間にか、悟浄の事を考える様になっていました。

何かを返したい。
何か、悟浄に僕が出来る事。
何があるかは、判りませんけど。
そう、自然に思った事に、僕自身が一番驚いてしまいました。

けど、それを否定する気もなくて。
頑張ってみようかなって…。
そうすると、思い付くのは悟浄の誕生日でした。
悟浄がお祝いをしてくれた様に。
僕なりの、お祝いをしたいです。

…ケーキを焼いたら、食べて貰えるでしょうか。
それとも、悟浄の好きな物を沢山作った方がいいでしょうか…。
そして、何より。
悟浄に、喜んで貰えるでしょうか。


†††††  †††††


『もーすぐ…くるなあ〜。』

俺は銜えていたタバコを思いっきり吸って。
煙と一緒に出した溜息を誤魔化した。

賭場の帰りの、夜道。
暗いのはいつもの事だが、だいぶ寒くなってきている。
風が吹くと、つい首を竦めちまうくらいに。

新品のストーブ、買うか、やっぱ。
俺一人だと、別にいーんだけどよ。
家にいる八戒のコトを考えるとさ。
今あるのじゃ、もー古さ限界だし、あぶねーもんな。
八戒に、ナンかあったら大変だしよ。

俺はポケットに手を突っ込みながら、八戒のコトばかり考えて歩いていた。
完全にクセになってんな。
八戒のコト、考えんのが。

いつまでも、心配しなくていーのは判ってんの。
クソ坊主に『過保護』って、言われっしな。
でもなナンかさ、気が付いたらアイツの為ちゅーより。
俺が気にしたくて、気にしてんのよね〜〜〜はぁ。

参った。心底、参ってる。
俺が他人を気にするなんてよ。
避けてたってのに。したくなかったってのに。
それなのに、ナンで八戒はって……理由判ってっから、始末に負えない。

俺さ。
八戒がさ。
好きなんだよ。

どーしたら、いい? この究極の片想い。
願いゴトなんてさ、今まで叶ったコトねーんだから。
口に出したら、おしまいなのは目に見えてる。意気地ねーし。
9月の八戒の誕生日を祝ったのが、精一杯。
ムクムクとおこる見返りの期待も、せっせと抑え中。

『もーすぐ、俺の誕生日なんだよな。』

口にすれば、八戒はきっと祝ってくれる。
この間の礼を前提にさ。
…………………………。
でも、それがヤなの、俺。
それだったら、いらねえもん。
俺が欲しいのは…ヤメとこ。くだらねえ。
こんなん、八戒を困らせるだけだ。
俺は落ち込んで、緩んでいたスピードを速めて家路を急いだ。



そう、自暴自棄の結論を抱いて家に帰った俺に。
青天の霹靂が待っていた。嘘のよーな、奇跡。

『もうすぐ、悟浄のお誕生日ですね。
 …あの、その日はお忙しいと思いますけど。
 …僕にも、お祝い…させて頂けませんか?』

聞き間違いじゃないよな。
本当のコトだよな。
俺は自分の両頬をビヨーンと伸ばして、抓ってから。
八戒をきつく…きつく、抱き締めた。

夢でもイイ。
そう思いながら、現実に真っ赤になっている八戒を。



2004.11.08  UP



★ コメント ★

今年の悟浄のお誕生日のお話です
色々と考えて、コレになりました(笑)

自分が、悟浄と一日違いの誕生日なので
それも堂々と祝いつつ、毎年書いてます(大笑)

大好きな人の誕生日
とてもとても、意味のある大事な日ですねv

お誕生日おめでとう、悟浄〜♪




モドル