*** 花 ***
by 遙か
一つ一つ 確かめる様に
この手で 抱き締める
たったひとつの 宝物を―――
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八戒と初めて会ったのは、大学の入学式でだった。
あれだけの多人数のごった返した会場で。
俺は八戒を見つけた。
そうとしか言い様のない、出逢いだった。
学部も専攻も違う。
辛うじて、同学年だから同じ日に入学したというだけで。
俺は八戒の姿に、目を惹かれた。
色彩がはっきりしている黒い髪、翠の目。
伸ばした背筋と笑っていた顔が、いいなと。
思ったんだ…その時に。
だから、声を掛けてみた。
いきなりなのは判っていたが、どうしても。
俺の存在を知って欲しくて。
俺が八戒を気になってしまったという事をさ。
案の定、驚かれたが。
それでも、八戒は俺を友人として受け入れてくれた。
にこりとした見上げてくる、俺が惹かれた笑顔と一緒に。
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特に、何かするって訳じゃなかった。
挨拶したり、声掛けたり、遊びに誘ってみたり。
そんなたわいない事が楽しかった。八戒とだと。
「これ、面白かった。」
「面白かったですか? それは良かったです。」
八戒に借りていた本を返す為に、待ち合わせをしていた。
「今日は、時間あるんだよな?」
「ええ。でも、本当に良いんですか?」
「良くなきゃ誘わない。」
「だったら、良いんですけど…。」
「けど?」
「この本、一冊のお礼にしては僕の方が得してません?」
「俺の方が得しているから、良いんだ。」
「え? そうなんですか?」
目が丸くなって、不思議な顔をする八戒。
色んな表情を見てきたが。
これは俺のお気に入りの上位にランク入りの顔。
八戒はどちからというと、落ち着いていて。
理性的で、あまり感情を表に出したりしない方だ。
だから、俺は優越感を持つ。
俺だけが知っている八戒の表情。
喧嘩したり、怒ったり。
困ったように笑う。嬉しいと笑う。
一つ知れば、好きになる自分がいた。
それを知る事が、もっと八戒を好きになっていた。
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捲簾と初めて会ったのは、花弁が一斉に舞い散っている季節でした。
僕は、あまり人慣れが良くなくて。
入学時の人の多さに閉口していたところでした。
そんな中で、振り返って偶然、目が合った人。
―――それが、捲簾でした。
捲簾の第一印象は、エネルギーのある人。剛い人でした。
確固たる信念とかではなく、自分を持っている人で。
迷ったり悩んだりもするけれど、僕みたいにぐるぐるせず。
スパッと断ち切ってしまう…そんな人。
羨ましくて、軽く嫉妬して。
相容れたくないって、突っぱねていましたっけ。内心では。
今、思うと何を剥きになっていたんでしょうね、僕。
笑っちゃいます。あの頃の自分に。
惹かれていたのに…。
惹かれていたんです、捲簾に。
ただ、それだけだったんですよね。今、思えば。
捲簾と出逢った事で、僕の中に生まれた気持ち。
捲簾と過ごす日々に、育っていく感情。
僕にとって大事なもので。
その気持ちを抱き締める事が、幸せだと判りました。
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「八戒との時間を貰えるんだ。得しているだろう。」
「えっ…。」
どうして、この人はこうストレートなんでしょうか。
僕が思いもしない事を口にするんです。
「デートだと思ってるんだけど、俺は。」
「デート…ですか。」
「待ち合わせてして、2人で出掛けるんだからデートだろ。」
「そう…ですね。」
「そうだろ。だから、得しているんだよ。」
僕も背は高い方なんですけど、捲簾はもっと高くて。
視線を少し下にして、僕へと笑った顔を見せてくれました。
あっ……心臓がドキドキと勝手に、音を立ててます。
捲簾の言葉が、嬉しい嬉しい…って。
僕は、きゅっと胸元で掌を握りました。
「さて…何、食いに行く?」
「そうですね…。カウンターのお鮨とは言いませんから。」
「それは勘弁してくれ。」
「美味しい和食が食べたいです。」
「了解。」
この時間が長く続けばいい。
一分でも一秒でも。
僕は、貴方の傍に居たいから…捲簾。
2004.12.21 UP
★ コメント ★
捲八です。今更ですが(笑)
某所の学園物のゲームで、一緒に過ごした貴方へ。
贈ります。受け取ってねv
優しくて、幸せな時間をありがとう。
もっと伝えたい言葉もあるけど。
これが一番伝えたい言葉です(笑)
モドル