by 遙か



生まれてきたという、自覚はありませんでした。
気付いた時には、目の前―――周囲には。
僕に用意された世界がありました。

取り敢えず、其処に身を置いてみたのですが。
時間が経つ毎に、色は褪せ。
音は遠退き。
ただ、ひたすら伽藍の空間ばかりが広がっていきました。

一言で言うならば『虚無』

空っぽで、何も無い枯れて逝く世界。
求めるという欲望が、どうしても湧かず。
僕は息をして、立っていました。
寒々しい空を見上げながら。

そんな人形の様な僕に。
色をくれたのは、貴方。圧倒的な、貪欲な黒。
音をくれたのも、貴方。
『天蓬』という僕の名前を。
僕に向けて、笑いながら、口にして。

貴方がいれば、良いと思った。
何時しか、貴方だけが、と。

軽口の付き合いの中で。
僕は貴方を求めていました。


ねぇ、捲簾。
生まれてきたのが、別々だったのですから。
最後は、一緒にしませんか?
僕はそう、決めたんです。


†††††††††††††††


いつ、自分というモンが確立したのなんか覚えてねぇ。
気が付いた時には、二本の足で立っていた。
喧噪と、退屈の中に。

何をしても満たされず。何かを欠けている焦燥感を。
押し込めながら。
ヘラヘラと生きてきた。

あやふやな何かを求めながら。
酒を飲めば潤される乾きの様に。
俺は、満たされたかった。

けれど、全てを満たしてくれるモノは見つからず。
諦めの中に放り出していた。

なのに、出逢った唯一俺を満たしてくれるモノに。
低く、俺を呼ぶ声。
刺す様な、嫣然な視線。
その容赦の無さに、俺は強烈に惹かれた。

肩書きよりも、何よりも、天蓬という個に。
だから…お前とだったら良いと思った。
『最後を一緒に』という、お前からの誘いに。
手を伸ばした。

後悔も未練も、即座に捨てた。
いいぜ、天蓬。
お前の為だったらな―――俺をやるよ。



2005.5.18 UP


★こめんと★

ゼロサム増刊号『WARD』の外伝告知ポスターを見て…
書き上げてしまったお話です(笑)





蒼天心中