STAND BY ME
by 遙か
音に出来ない別離は
ただ、走ってゆく背をその眸に焼き付けるだけだった
赤色の眸にうつるのは『哀』という感情なのを
その持ち主は気付かずにいたけれど…
≪ ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ ≫
水が流れなければ、腐ってゆくように。
終わりの無い時間は、退屈と退廃を蓄積するものでした。
幾重にも枝分かれしてきた感情の縺れは、修正不可能と為り。
見えない振りをして、断ち切る事さえしなくなっていました。
腐り切って、落ちるのみの実のように。
誰も手を出そうとしない。
己の醜さに、落ちるに任せた儘に傍観していたツケが。
一気に噴き出したのでしょう。
謀反人というレッテルを貼った僕達をスケープゴートにして。
客観的に見ると、大事ですよね。
しっかりと、悪役になりましたし、人質もちゃんと取りましたし。
きちんと、籠城もしましたしね。
マニュアル通りです。優秀ですよね、と言ったら。
『バーカ、当たり前だろ。俺とお前がタッグを組んでんだぜ』
と、愉快に返されました。あの人に。
つくづく、僕達ってどこかが一緒なんですよね。
きっと、肝心な所が。
ほら、こんな状況でも気が合うんですから。ねぇ、捲簾。
大丈夫です。後悔なんてありませんから。
横に貴方がいるのですから、一歩を踏み出す事に戸惑いありません。
目に見えない境界線を貴方と飛び越えた時は、気持ち良かったですねぇ。
一応、柵も僕にもあったのですけどね。
綺麗さっぱりしました。
一つも惜しくありません。
それ以上…いえ、唯一だけを失いさえしなければ。
僕は何も惜しくはないんです。
他はいりません。はいv
だから、捲簾。
離れないで下さいよ。僕から。
判ってますよね?
≪ ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ ≫
判ってるって。
お前こそ、ちゃんと付いてこいよ?
俺の隣の、お前の場所にいるんだぞ。
ここはお前以外、誰も置かない。
空席になんかするなよ。
いつから、だったか。
それさえも忘れる位の昔に、俺はこの世界に退屈し切っていた。
可もなく不可もなく、色も無い。
生きている感覚が、稀薄になった頃。
俺は天蓬に会った。
頭脳明晰・変人・奇行………etc
色んな噂がごっちゃになった奴。
けど、付き合ってみると至ってシンプルな奴だった。
眠いから寝る。
蘊蓄が止まらないから、垂れる。
面倒臭い事は一切しない。
好きな事はに没頭する。
かなり判り易い。
『貴方に言われたくありません』
って、睨まれた事もあったな。そういや。
その凍るようなきつさの視線の色っぽかった事。
喰えねぇ奴だと思ったさ。それでも喰ったけどな。
味は、当然の如く極上。
他を喰う気がなくなった。
とどのつまり、俺は天蓬に惚れてるって事なんだよな。
だから、あん時に身体が動いた。
何も考えずに済んだ。考える事も一緒だもんな。
天蓬と背中を合わせていれば、それで充分。
向こう所敵無し。なあ、そうだろ、天蓬。
お前となら、躊躇う事なく踏み出してやる。
今を蹴って、先の見えない前にいくらでも。
甘い感傷も、纏い付く未練も、この手で引き千切るさ。
お前だけが残れば、それでいい。
さ、行こうぜ。天蓬。
≪ ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ ≫
私には、あの台詞しか出てこなかった。
言いたい事も、聞きたい事もあったのだが。
口を出たのは、あれだけだった。
迷いなどない、あの2人の前では。
上司として、部下として。
私達の間には、それなりの信頼関係が築けていた筈だ。
変わる事など、考えた事もなかった。私は…。
『形あるものは、いつか壊れる』
彼の楽しそうに言った言葉が、今も頭の中に残る。
後悔はしないのだろうか。不安にならないのだろうか。
確かな先に安寧を。振り返った後に安心を。
求めずに、いられるのだろうか………。
私は足元ばかりを見ていたのだろうか………。
私は2人を理解しないのかもしれない。
今の私でいる、為に。
時間と共に訪れた『別離』は呆気なかった。
『天界』という『不自由』を。
『自由』という『不自由』に、向けて。
彼らは私に背を向けて、走り去った。
そこに残された私に出来たのは、見送る事だけだった。
言葉を失ったまま。
いつか。
再び、巡り会える事はあるのだろうか。
そう思った自分に、私は慌てた。
それでも。
もしかしたら、と思う一粒の種が心の奥に根付いた。
誰にも教える事はなく、口に出す気もない。、
誰にも干渉させる事のない、もの…だな。
眸を閉じよう。
いつか――きっと―――
≪ ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ ≫
「ジープ、起きましたか? よく寝ていましたね。」
「寝汚くな。」
「疲れているんですよ。」
「それなら、お前だってそうだろ。」
「度合いが違いますよ。
僕は運転で、ジープは僕達4人を乗せてくれているんですから。」
「ん〜〜〜、まあな。」
「判ったら、気を付けて下さいね? 煙草とか色々と。」
「へーい。」
「今日もお願いしますね、ジープ。
悟浄、早くして下さい。三蔵達が待ちくたびれていますよ。」
「へーいへーい。」
「じゃあ、行きましょうか。」
白い翼をノビノビと広げ。
丸くつぶらな赤い眸をキラキラさせて。
ジープは、八戒の肩へと飛び乗りました。
それはそれは、嬉しそうに。
2006.02.25 UP
★ コメント ★
捲簾大将ピンの表紙のWARDを読んで書き上げた話です
核は『ハートの奥に降る雨』
泣きたいのに泣けない
泣くもんかって
閣下がジープに転生したてのって
2人の背中を追い掛けていきたいと
思ったからじゃないかな…って
羽があれば着いていけるでしょ?
ただジープに転生という事は一回死なないとなんで
一体、どんな死に方をしたんですか、閣下
私にはワッカリマセーン(笑)
……………閣下のモノローグって難しいよ(呟)
モドル