真 珠




by 遙か



日常の、段取り通りに。
家の中の事をしていくのが、僕の仕事です。
ご主人様が、いつ帰って来ても快適に過ごせる様にするのが。

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「お帰りなさいませ、ご主人様。」

暦の上では春ですが。
まだまだ気候的には寒さが抜けきらない日々が続いていました。
なので、外出時にはコートが必要です。
僕はご主人様の後ろへと回り、背中から脱ぐお手伝いをし。
コートを受け取りました。

「お仕事、お疲れ様でした。」
「ただいま、八戒。」

僕へと振り返り、笑顔のご主人様に。
僕も、笑顔で返しました。

ご主人様のお名前は『沙悟浄』と仰います。
半分、血の繋がったお兄様と貿易会社を共同経営されていて。
とても、お忙しい方です。
月の半分は、お仕事でご自宅には帰って来られません。
僕は、そのお留守の間も含めて、このお家を任せて頂いています。

今回は、特にお忙しかったらしく。
一週間ぶりのご帰宅です。
さぞ、お疲れでしょうから、ゆっくりと休んで頂かないと。

「八戒。」
「はい、ご主人様。」
「これを。」
「…何でしょうか。」

僕の手を取って、ご主人様は開いた掌の上に。
ぽとんと、白く小さな物を乗せて下さいました。

「あの…これは。」
「お土産、俺から八戒に。」

にこにこと、僕を見てくるご主人様と掌の上の物を。
僕は交互に見返しました。

「…気にいらない?」
「いいえ、そんな事は。」

僕は慌てて、左右に首を振ってから。

「ただ、こんな高価な物を」
「大丈夫だって、そんな心配しなくても。
 これを見た時、八戒に似合うって思ったんだ。
 だから、受け取ってくれると、俺は嬉しいんだけど?」

―――シンプルにデザインされている真珠のピアス

白く淡く光を放っている球体は、とても綺麗で…。

「ありがとうございます。大事に致します。ご主人様…。」

えっ!
突然、言葉の途中で身体を引かれて、僕はぎゅうっと抱き締められていました。
ご主人様の腕に、きつく。

「あ、あの…。」
「他人行儀過ぎ、八戒は。
 やっと帰って来れて、久しぶりに会えたってのにさ。
 いつまで、メイドモードでいる気だよ。」
「そう言われても、僕はメイドですので。」
「あーもー、狡いぞ、八戒。
 直ぐ、そう言うんだからな。」

…どっちが、狡いのでしょうか。
預かったままのコートと手に握らされた真珠に、両手が塞がっているから。
背中に手を回して、抱き返す事も出来ないでいるのに。

『ちゃんと、躾て差し上げないといけませんね、これでは。
 ねぇ、悟浄。』

僕は抱き締められた儘、悟浄の胸に顔を埋めて。
くすくすと、忍び笑いをしました。


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―――ん? ナンだナンだ??

腕ん中に抱き締めている八戒が、急に身体を震わせて笑い出した。
小さく、だけど。
…こーゆー時の八戒は、良からんコトばっかり考えてるからなあ。
油断出来ねえなあ。どっちがご主人様なんだか。

確かに、俺達は雇用関係が先だったけどさ。
今じゃ、立派な恋人関係だろ。
ちゃんと、告って『YES』の返事を貰ったのも。
夢でした、ナンて言わせねえからな。

一目惚れ、だった。
八戒が俺んトコに来て、最初の挨拶をしに来た時から。
俺は八戒に、ベタ惚れだ。
雇い主を笠に着んのは、イヤだったからさ時間をかけた。

俺は一人の男として、八戒がスキだってコトを。
偶々、こういった形で出逢っただけだってコトを。
俺的には、ラッキーだったから。
八戒にも、俺をスキになってくれるなら、そうであって欲しいって。
正直に伝えたんだよ。

あん時の八戒は、可愛かったなあ。
俺の台詞で、表情がコロコロ変わってさ。
ビックリして、困って、戸惑って、決心して。
それから、笑顔で返事をくれた。
ふわん、と花が開くようなカンジでさ。

で、俺はそれに2度目惚れ。
あん時から、切り無く八戒に惚れ続けてる。


自慢じゃねえけど、浮き名は散々流したし。
それに相応の実績も積んできた。
そこら辺の奴等より、ずっとなって自信もある。
けど、八戒にはそーゆー手管を使おうって気にはなんねえ。
つーか…使うって…余裕がねえんだ。
悪友達に、らしくねえっ笑われてもさ。

けど、イーんだ。
こーして、八戒を抱き締められてイー立場になれたからさ。
あいつ等はやっかみ半分以上だもんな。ふ〜ん、ザマミロ。

「―――ご主人様、そろそろ離して頂けませんか。」
「八戒〜〜〜。」
「これでは、仕事が出来ません。」

抱き締めた腕の中から、大人しく俺を見上げてくる八戒は。
口調はメイドモードのまんまだけど、俺を見る目は恋人を見つめる目で。
思わず、ぎゅーーーっと力一杯抱き締めた。

「…苦しい、です。」
「我慢してv 八戒、離したくないんだ。」
「それは、僕もです。」
「え?」
「離さないで、欲しいと思っています………悟浄。」

俯いた八戒の顔が、うっすらと赤く染まってくのと。
恥ずかしそうに小声で呟いた、俺の名前に。
俺はアクセルを踏み―――かけた、つーのに。

「でも、今は就業中ですから、ここまでで。
 これ以上をする気でしたら、教育的指導に入らせて頂きますよ。
 ご主人様v」
「……………はい。」

切り換えの早い、問答無用の笑顔。
これ以上は、レッドゾーン。
…突入する勇気は俺にはナイです、今は。
けど、これだけは譲らないからな、と。

「ただいま、八戒v」
「お帰りなさい、悟浄。」

もう一度、抱き寄せた恋人の唇にキスをした。



2007.05.07  UP



★ コメント ★

2007年の58dayはこんな話になりました〜(笑)
悟浄ってば、良い思いしてますよね?
八戒ったら、甘いですよね?
一年に一回だから、良いかな…と、いう事でv

ご主人様とメイドなんですけど(笑)
実はある方のイラストからイメージして書きました
許可はずっと前に貰ってあるので…良いですよね?(ドキドキ・笑)
こちらも併せてどうぞv → 



モドル