雛菊
by 遙か
*** 捲簾
暇な時は、暇
忙しい時は、多忙
イレギュラーの多い西方軍の仕事には
先読みという概念は、無きに等しい
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通常業務と戦闘業務。
性に合っているのは、身体を動かす方なんで。
下界への出張は、苦じゃない。
つい先日まで、ひっきり無しに討伐に駆り出されたが。
ここ数日、ぱったりと止んだ。
向こうさんも、休養が必要なんだろうな――の、冗談はさておき。
片付けた端からくる書類の束に、俺はとっくにうんざりしていた。
一体、あと幾つ書類にサインをしたら終わるんだろうか。
俺のだけじゃない分の紙の束を見て、溜息を付いた。
この書類の半分以上、責任のある天蓬は。
目を離した隙を付いて、姿を消した…。
何処に、雲隠れしたんだ、アイツは。
ただ、今は探しに行く時間も惜しい。
深夜残業なんぞ、ゴメンだ。
優先順位の高い順に片付け、天蓬の分はきちっと残しておいてやる。
もう一頑張りするか…。
俺は持っていたペンを一回転させて、デスクワーク解放の為、気合いを入れた。
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…はあーーーっ、疲れた。
ペンを指から放り出し、俺は背伸びして椅子に凭れ掛かった。
終わった終わった。
当分、自分の名前なんぞ書きたくも見たくもねえくらいに。
窓の外は、真っ暗だな…今、何時だ?
目で時刻を確認すると…日付がもう少しで、変わる前だった。
あ〜やれやれ。寝るか。
と、立ち上がった所で、音が聞こえた。
ここに向かって、走ってくる音が。
――パタパタパターッ、と。
こんな該当者は、俺の知る限り一人しかいない。
俺はタイミングを計り、無言でカウントを取り。
部屋のドアを開けた。
「―――捲簾っっっ!」
勢い余って飛び込んできた天蓬を受けとめる。
息を切らしている天蓬は、俺の胸にしがみ付き。
呼吸を整えようとしていた。
「お前、今まで一体何処に居たんだ?」
「―――下界、です」
「? 下界? 何でまた」
「この、為…です」
顔を上げた天蓬が、唇を重ねてきた。
口移しで、甘さが口の中に広がった。
「ホワイトチョコ、です。
なかなか、僕好みの味が見つからなくて苦労しました」
「…もしかして、バレンタインのお返しか?」
「ええ、そうですけど?」
自慢気に、何を今更というきょとんとした表情をした天蓬を抱き寄せ。
今度は、俺からキスをした。
「ありがとな」
「どういたしまして」
さあ、仕事脱走の罪をチョコの甘さに免じてやろうか、どうするか。
これからの愉しみを考えつつ。
*** 悟浄
習慣化したイベントだから
深い意味は無いのだと
己に言い聞かせても
表裏一体の諦めと焦燥は、完全に消し去る事は出来ない
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目が覚めたのは、いつもと同じ。昼過ぎ。
雨の音はしてねえけど、ちっと肌寒い。
カーテンを開けっと、天気はイマイチ。
ま、いっか。
こんなのは気の持ちよーだもんな。
シャツを引っ掛け、俺はキッチンへと向かった。
「おはようございます、悟浄」
「八戒、おはよ〜」
テーブルにつくと、コーヒーカップが置かれて。
トースト・サラダ・半熟の目玉焼き…が並べられてくのは。
八戒と一緒に暮らし始めてから、日常となった光景。
温かい湯気がふわっとすんのが、目に見える。
こんなのがあるのも知らなかった俺に。
八戒は普通な事をして、教えてくれた。
「悟浄、どうかしました?」
「ん〜、イーなあって思ってさ」
「何がです?」
「こーゆーの」
「僕もです」
「んv」
端折った言葉でも、八戒は判ってくれて。
俺に笑ってくれた。
あ〜やっぱイイ。
俺も機嫌良く、ニコニコ返した。
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食後の一服。
八戒の掃除の邪魔になんねえように、タバコと灰皿を持ってソファに移動した。
2人で座っても寝っ転がっても、OKなこの規格外にでけえソファは俺のお気に入り。
当然、八戒だってな。
タバコの灰を落とさねえように、注意しつつ、ひっくり返ると。
色んな音が聞こえてくる――八戒が家の中を動いている音が。
タバコを消して、目を瞑って、八戒がいる音を聞きながら。
俺は、うつらうつらと、眠っちまった…。
「…悟浄、風邪を引きますよ。起きて下さい」
「……………ん〜〜〜」
うっすら目を開くと、八戒が俺の顔を覗き込んでいた。
寝顔…見られたな。
「出掛ける時間になりますよ」
「今日は行かね」
「? 今日はお休みですか。どこか具合でも悪いんですか」
「ホワイトディ」
「え?」
「バレンタインのチョコのお返しに、俺あげる、八戒に」
「悟浄…をですか?」
「あれ? 足んない?」
「いいえ、お釣りがきそうです」
「だろv」
くすくすと、嬉しそうに笑い出した八戒の身体に。
ひっくり返ったまんま、腕を回して。
近付いた八戒の翠の目を見つめて、キスする。
誰にもやらない。八戒がくれるこの感情は、俺だけのモン。
上にのし掛かる形になった八戒をキスしたまんま。
ぎゅう、ときつく抱き締めた。
―――このまま、ヤッちゃってもイイよな〜と、決めて。
2008.03.14 UP
★ コメント ★
バレンタインの時は、オンリー修羅場で何もサイトアップが出来なかったので
ホワイトディは、何とかしたいな〜と、ギリギリまで頑張り書き上げられ
アップに辿り着きました
万歳!
人間、やれば出来るんだなー(笑)
モドル