小さな掌
by 遙か
雨…雨…雨…雨…雨…
昔は、冷たく感じられた雨が
今は、温かいと思える自分が
…います
≪ ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ ≫
「ん〜折角の誕生日なのになあ。これじゃ、どっこにも出掛けらんねえなあ」
ベッドの上で、僕を背中からすっぽりと抱き締めながら。
悟浄は窓の外の雨をチラリと見て、口調は残念そうに。
腕には、力を込めて言いました。
「雨、結構降っていますからね。無理に出掛けなくても、いいじゃないですか」
「そーゆーコト、言ってんじゃねえの」
「では、どういう意味ですか」
「男心、判れよー。誕生日は特別なんだぜ?」
「特別、ですか?」
「スキな奴のは、当たり前っしょ」
そう…ですね。
同じ誕生日でも、僕にとっては自分のより、花喃の誕生日だという事が。
嬉しくても、祝ったのを覚えています。
―――――失った、存在
「八戒だって、俺の誕生日は特別だろ?」
「ええ」
特別です。
そう、すんなりと思える僕は以前と変わったのでしょうね。
悟浄のおかげで。
―――――今、ここにある存在
背中から、肌を通して伝わってくる悟浄の体温が。
それを温かいと思える事が。
僕を満たしてくれていきます。
言葉だけでは、伝えきれないかもしれない気持ちが。
『ありがとう』
言葉は音には、しませんでした。
代わりに、悟浄へと身体を預けて。
僕は、僕を抱き締めてくれる悟浄の手を握りました。
≪ ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ ≫
八戒が笑ってっと、安心する。
俺の腕の中にいっと、もっと安心する。
誕生日は、八戒に取ってキーポイントの一つだ。
生きてる自分と、死んじまった姉ちゃんとの。
だから、俺はそれを口にしもえ。
それよりも、八戒を俺に繋ぎ留めるコトに専念する。
渡さねえから、誰にも。姉ちゃん、アンタにも。
夕べ、日付が変わった時から、俺はベッドの中に八戒を押し込んで。
抱き続けてた。
誕生日ってコトで、八戒のガードも甘くなってて。
いつもより、素直に身体を開いてくれたしな。
おかげで、ついつい調子に乗ってアレコレとヤッちまった。
…誕生日効果で、許してはくれたけどな。
つくづく、八戒は俺に甘い。
俺にだけ、人の良い顔を外す。
誰も…三蔵も悟空さえも、見たコトのねえのに優越感を感じたりしてな。
…情けねえ。
でも、ま、イーんだよ。
どんな些細なコトでも、片っ端から拾い捲ってりゃ、どーにかなる。
…してみせるって。
「八戒」
「…はい?」
「誕生日、おめっと」
振り向いたトコで、少し冷えてる八戒の唇にキスをした。
八戒が握ってる俺の手に、力を入れて握り返す。
―――――雨はもう、ここまで届かない
2008.9.25 UP
★ コメント ★
今年の八戒の誕生日話です
今年はオンリーで一寸遅刻
勘弁してちょ
BGMはアクアタイムの『小さな掌』です
モドル