【僕はこの瞳で嘘をつく】
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愛する事も愛される事も許してくれなかったアナタ
だから僕は嘘を付くのが上手になったんだよ?
いいよねアナタは
そんな事も知らないんでいるんだから
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キッチンで洗いもんをしてる八戒の後ろ姿を。
俺は八戒に淹れて貰ったコーヒーを啜りながら見ていた。
男のクセに線が細え。
けど、それは外側からは簡単には折れねえ。
もし、折れるとしたら、それは内側からってのを俺は知ってる。
グッチャグチャだったコイツを引き取って暮らし始めて、随分と経った。
表面は、落ち着きましたって顔してっけど。
んー、まあなあ。
俺もそんな口出すコトはしたくはねえ。
こればっかは本人次第なトコあっからさ。
けどな。
俺はコイツに惚れてっから。
惚れちまってっから、ほっとけねえんだよな。
「悟浄、コーヒーのお代わりですか?」
「んーあー…くれる?」
カップを差し出せば、作った笑顔を俺に向けてくる。
無意識なんだか、態となんだか。
俺への壁を崩さすにしてよ。
「どうぞ、悟浄」
「サンキュ」
カップを受けとる時に、触れた指に、心臓が跳ねた。
けど、それを押し殺すのに慣れた俺は、それ以上何も出来ねえ。
一歩踏み出すには、俺にも八戒にも出来ねえ…んだよ。
どっちも、拘ってるモンを抱えてっからよ。
俺は母親、八戒は姉貴。
どったも、血にまみれ過ぎてっから、簡単にはいかねえ。
どーしたモンかね。
俺達は。
ナンでもなきゃ、見られる八戒の眸が見れねえ。
見透かされるのが恐えなんてよ。
バカバカしくも、まだあった純情を否定されんのがイヤだ。
あ、無視だな。
八戒はきっと無かったコトにしちまうだろう。
それはイヤなんだよ、俺は。
なあ、八戒。
「美味い」
「そうですか、良かった」
八戒の淹れた丁度イイ苦みのコーヒーの味に。
俺は途方に暮れた気分を誤魔化しながら、ゆっくりと味わった。
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視線を感じても振り向く事は出来ません。
その視線の深い意味を知っている僕には。
何故、こうなってしまったのでしょう。
何故、こうなってしまうのでしょう。
僕の業なんでしょうね。
だからこそ、悟浄。
貴方に背負わす訳にはいかないのです。
判って下さい。
贖罪の意味で生かされている僕には、何の権利も無い。
愛し愛される…それは全て花喃に捧げてしまったもの。
今の僕には何も無い。
無いのですよ、悟浄。
「八戒、あのさ」
「はい、何ですか」
「………ゴメン、いいや」
「そうですか」
普通の会話なら続くのに、核心に近付きそうなものは。
2人して遠ざけて、断ってしまう。
何て意気地無しな僕ら。
僕は僕で、花喃を背負い。
悟浄は悟浄に取っての、枷を。
それぞれ、どんなに苦しもうと悩もうと棄てる事の出来ないものを。
素直など、疾うの昔に見失ってしまっています。
なのに、傍から離れられない。
自分から離れようとしない。
ぬるま湯に浸る様に、口を噤み、現状に甘えている。
中途半端なのを判っていて。
「悟浄、良かったら買い物に付き合って頂けませんか」
「あ、いいぜ。何買うんだ?」
「ええと、お米とか缶詰とか…」
「ナンだよー、これとばっかりの重いモンばっかじゃないか」
「お願い出来ますよね、悟浄」
「ヘーイヘイ、お供しますって」
この心地良さも捨てられない僕は、どこまで貪欲なのか。
貴方の眸。
貴方の紅い眸を真っ正面から見据える事が出来たなら。
僕はどんなにか…。
だから、僕は嘘を付きます。
突き通します。
貴方の為にと偽って、自分の為に。
2011.05.12 up
★ コメント ★
2011年の58話です
思いっ切りの遅刻です
判ってます
勘弁してちょ(笑)
手を伸ばしたくて伸ばせない2人
きっと切っ掛けは悟浄になるんだろうけど
その前の溜めって感じ
幸せになって欲しい
その想いを込めて書きました
モドル