半醒



『何、らしくねぇ事してンだよ!テメェは!!!』


・・・そぉ・・・ですよねぇ。僕もそう思います。
理由とか、聞かないで下さい。
僕自身にも理解不能なんですから。

・・・動いてたんですよ、勝手に。
気づいたら、ね。

ああ、もう。

そんなに耳元で怒鳴らないで下さい。
煩いじゃないですか。

そんなに、騒ぐような事じゃないですよ・・・これくらい。
大した事じゃないのに・・・。

・・・・本当に、貴方って人は。
うる、さい・・・・です・・・


・・・・け・・・んれ・・・・ん・・・・



----------



「何、らしくねぇ事してンだよ!テメェは!!!」


在り得ねぇ。

確かに今の俺の状況じゃ、避けきれないのは明白。
何せ怪我した隊員一人、抱えてるところに複数の敵。
とりあえず2体はヤったが、残りは間に合わない。

とっさに敵の攻撃から怪我人を庇ったその時。

目の前に、黒い影が立ち塞がった。

肉を裂く鈍い音と、飛び散る血飛沫。
空を舞う髪。
崩れ落ちる痩躯。

俺の中で、何かが切れる音がした。

怪我人をその場に寝かせると、ありったけの麻酔弾を撃ち込み敵を倒した。
麻酔の効きすぎで絶命しようが知ったこっちゃない。

そして、天蓬の処置をしているヤツから止血帯を奪いとり、自分の手で応急処置をする。

それでも。
天蓬の周りの血溜まりは見る間に大きくなり、それに合わせて腕の中の体は冷たくなる。

何をどう指示したのか。
自分でも良く覚えちゃいない。

俺は後の処理を永繕に任せ、天蓬を抱えて天界へと戻って来た。



----------



・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・あ・・・れ・・・・

・・・僕、どうしたんでしたっけ・・・・?
確か、下界に討伐に降りて・・・・

部下を庇って、自分の身を危険に晒した阿保大将の前に出たんでしたっけ。
そう言えば。

・・・・本当に・・・馬鹿、ですよねぇ・・・・


・・・目の前は真っ暗で、自分の身体も全く動かせないのに、意識だけが先に浮上しちゃったみたいです。

やれやれ・・・

・・・・

誰かが、傍に居る気配が・・

僕に怪我をさせた張本人ですね。

さっきから、ウロウロ歩き回ったり、座り込んだり。

見えないですけど判ります。
息が掛かる程の至近距離で、僕の顔を覗き込んでは溜息をついて。

『・・・・天・・・・』

そんな声で僕を呼ばないで下さいよ。
誰かに聞かれでもしたら、どうするんですか。

本当に・・・騒ぎすぎなんですよ、貴方は・・・。
これ位、どうという事はないのに。

・・・貴方がそんな体たらくでは、示しがつきませんよ。全く・・・。

それにしても・・・まだ身体が動かせませんねぇ。
貴方の声は、こんなにはっきり聞こえてるのに。

ああ・・・そういえば。
こーゆー時は、他のどの感覚よりも聴覚が先に戻るんでしたっけ。

仕方がないですねぇ。
それなら他の感覚が僕に戻ってくるまで、貴方の観察でもしていましょうか。

貴方の、その狼狽っぷりを・・・。



-------------



天界に戻ってからの処置は万全。
出血量こそ多かったが、危機的状況はすでに脱している。

これで、後は天蓬の意識が戻るのを待つのみ。
何も、問題はない。

・・・そう、理性では判っている。

判ってはいるのだ。

しかし、蒼白顔でベッドに横たわる天蓬を見ていると、それだけで感情が荒波を立てる。

命に別状がないのなら、何故目を開けない。
何故、ぴくりとも動かない。
苦しくてうなされるなり、痛みで叫ぶなり、何故しないのだ。

「・・・・天・・・・」

返事など返ってこないと判ってはいるが、そう声に出さずには居られない。

堪らず天蓬の手を取り、祈るように握り締め。
しかし、生者のものとは思えぬほど冷たい手は、返って己の不安定さを増長させるものでしか無く。

証が欲しかった。

天蓬が、生きているという。

ただ、それだけの。


―― だから ――



--------------



・・・・信じられません。
何を考えているんでしょうね、この阿保大将は。

手を握るくらいならまだしも。

こんな時に・・・キス、なんて・・・・。

捲簾の、乾いてカサついた唇が、僕のそれに重なりました。
始めは軽く、合わせるだけの。

それで終わるだろうと思っていたのに。

・・・普通しますか?身動きの出来ない、意識を失っているであろう人間に。

舌まで挿れるなんて・・・。



--------------



天蓬の冷たい唇に己のそれを重ねる。
始めは、ただそれで終わるつもりだった。

だが、止まらなかった。

何時ものように、きっかりと閉じられた唇に舌を捻じ込み、歯列を割る。

何時もなら。
上顎を擽るように舐めると、くすぐったそうに頭を振るのに。

何時もなら。
舌を絡ませ甘く噛締めると、鼻に掛かった声で小さく啼くのに。

それなのに。

今日は幾ら丹念に愛でても、反応が返らない。

その事実が・・・此れほどまでに重く圧し掛かる。



--------------



・・・ん、・・・・ぅ

も・・・・・・

一体、怪我人相手にナニを考えているんですか、この人は。
呆れて、モノも・・・

・・・ああ・・ダメ、ですよ。これ以上は。
そんなに、しないで・・・・。

・・・・僕も・・・ガマンできなくなっちゃうじゃないですか・・・
僕だって、ずっと・・・・欲しかったんですから・・・
・・・・貴方を・・・・

・・・・捲簾・・・・・



--------------



 ―!―

・・今、確かに・・・

気のせいなんかじゃない。
ほんの僅かにだが。

天蓬の唇が、動いた。

無意識下の事なのかも知れない。

だが・・・・それでも・・・・

俺は、夢中で天蓬の口中を貪った。

もっと確実な、はっきりとした反応を求めて。

舌の裏も、頬の内側も、口唇の裏側も。

何度も何度も角度を変えながら。



--------------



熱く、蕩ける様な感覚とは裏腹に。

僕の身体は徐々に色々なモノを取り戻して行きます。

捲簾の唇の。

熱を感じ、動きを感じ、快楽を感じ。

それらに引き摺られる様にして、僕の体も、僕の下に戻ってきたようです。

何時もするように、舌を伸ばして・・・・

・・・ああ、でもまだ。
思うように動いてはくれないですね。

だからと言って諦める筈も無く。

・・・ゆっくりと、ぎこちない動きではありますが。

捲簾に。

応えました。



--------------



俺の舌に絡んだ天蓬のそれが。

確実に意思をもって動いていると、そう感じた。

だから。

何時ものように。
ゆっくりと舌を解き唇を離す。

天蓬の顔は、先程までのモノとは、明らかに違う。
唇はぽってりと赤く艶を帯び、頬には朱が差している。


「・・・・天・・・・・」

小さく、小さく。
その名を口に出してみると。

まだ蒼みの残る瞼が。
ゆっくりと持ち上がった。



--------------



「・・・なんて顔、してるんですか・・・」
「・・・・うっせぇ馬鹿。もうしゃべんな」


真っ直ぐにその光を湛えた瞳を見つめる。

その眼は、すでに熱を孕み欲を顕わにして―


・・・・大丈夫。

もう、これで心配はない。

俺は再び天蓬に口づけた。

ありったけの、想いを乗せて・・・・



― 終 ―



2008・04・04



★ コメント ★

I原さまから頂きましたv

I原さんのサイト再開のお祝いに贈った話のお礼と
突然、贈られたきた捲簾と天蓬のお話!
あー、何て言ったらいいんだろう
嬉し過ぎて、言葉にならないくらい嬉しかったですv

失えない半分
そんな2人の絆のお話が素敵でしたv


本当にありがとうございましたv



モドル