That's the way the cookie orum
それは天界西方軍に下された討伐任務だった。周囲に散らばる妖獣は知能こそは低いもののとにかく巨大で素早い動きをしていた。これには流石の常勝を誇る、西方軍第一小隊でもなかなか封印する事ができずに苦戦していた。そもそも最初の報告からしていい加減だったのだ。それでも軍師の天蓬が状況を見つつ指示を出しているから何とかなっているのだ。それでも帰還の刻はもう間近まで迫っていた。ここで帰還の時間を過ぎてしまったら上級神や他軍の者からイヤミを云われる。そのとばっちりを一番食うのは他ならない天蓬だ。そんな事は耐えられない。
(畜生がっ)
それが捲簾に焦りをうんでいた。
「……ちぃっ、各自後退しろっ!!!」
戦場に捲簾の怒声が響き渡る。それに西方軍の部下たちがすぐに従って散開した。部下ったちが安全圏に下がったのを確認して捲簾は麻酔銃を構えた。狙うのは喉、もしくは足元だ。
「…………っ」
その捲簾の動きを逆方向にいた天蓬が気付いて身を翻した。
「捲簾っ!!!」
天蓬の焦りを感じさせる声が響く中、捲簾の放つ早撃ちの麻酔が妖獣に命中していった。確実に喉と足を撃ち抜き妖獣の動きを封じていくのに、その早撃ちから逃れた妖獣が捲簾に襲い掛かった。いくら知能が低くても誰が自分たちを倒そうとしているのかは分かるらしい。その眼には確かに殺気を感じるほどだ。
「――――くっ」
眼の前に妖獣の牙が迫るのに捲簾は傷を負うのを覚悟した。それでもこの任務を成功させて皆で天界に帰りたいと思っていたから無茶をする事ができたのだ。
(あー、これで怪我したらまた天蓬に怒られるな……)
そう思って口の端に笑みが浮かんだ時だった。
「――捲簾っ!!」
天蓬の声が近くで聴こえたのと同時に体当たりされた。身体が宙を飛んでいる感覚がして状況を知ろうと眼を動かすと、自分の胸の辺りに天蓬の黒髪が舞っていた。
ドンッ!!!
今まで自分がいた場所に妖獣の巨体が突っ込んできていた。
土は舞い上がり地面が抉れている。それからもその衝撃の凄さを知る事ができる。場所を退けるのが後少しでも遅かったら怪我どころではすまなかっただろう。
「……てんぽ……」
天蓬は捲簾の身を片腕で支えながら、もう片方の手で自分の麻酔銃を抜き妖獣に撃ち込んでいた。その全てが外れる事なく命中する。その正確さに捲簾は瞠目した。しかも体当たりしてから地面に到達するまでの短い間に済むくらいの早撃ちは捲簾に匹敵するほどだ。
ズサーッ……
最後の一体に麻酔を撃ち込んだのを眼で確認すると同時に捲簾は背中から地面に落ちた。すぐに身体を起こして状況を確認するが、どうやら本当に全て片が付いているようだった。
「……捲簾っ」
ガバッと身を起こした天蓬が捲簾の身体に怪我を負っていないか確認している。捲簾は大丈夫だと答える代わりにポンポンと頭を撫でてやった。
「俺は大丈夫だ、お前はどうなんだ?」
「え?」
「飛び出してくるなんて無茶しやがって……」
捲簾も身を起こしながらそう云うと、天蓬は怪訝そうな顔で睨んできた。
「それはこちらの科白です」
見合って笑い合う。
あんな大胆な事を咄嗟にできる天蓬の凄さを改めて知って捲簾は嘆息した。後はこの妖獣たちを封印すれば任務は完了だ。予定通り天界に帰れる。
「で?お前は怪我は?」
「大丈夫ですよ……」
先に立ち上がる捲簾に手を差し出されて天蓬も立ち上がろうとした。
「――――痛っ」
「天蓬?」
だが天蓬は立つ事ができなかった。すぐに捲簾が確認すると天蓬の左足から真っ赤な血が流れ出していた。出血量から見ても浅い怪我ではない。
「おまっ……」
「あはは、やっちゃってましたか」
他人事のように云う天蓬に少しムッとしつつも捲簾は怪我の状況を見た。黒い軍服のズボンで分かりにくいが裂けた布から、かなりの広範囲に渡る怪我だという事は分かった。
「このバカヤロウが……」
そう云う捲簾の声にも力はなかった。
「元帥っ、大将ーっ!!!」
「ご無事ですかー」
遠くから部下たちの声がする。それに捲簾は顔を上げた。
「おー、さっさと封印しろ」
「イエッサーッ!!!」
捲簾の出す指示に数人の部下が封印に回った。麻酔はしっかり効いているからすぐに封印はできるだろう。
「救護布寄こせっ」
「はいっ……、元帥!?」
命じられるままに布を差し出した部下が天蓬の怪我に気付いて声を上げた。それにほかの部下たちも視線を向けてくる。
「え?怪我されたんですかぁ?」
「………あの」
「大将、何やってたんですかっ?」
「元帥に怪我させるなんて、最低ですよ」
救護布を命じられた部下は、布だけでなく消毒液から止血剤まで持ち出してきた。大袈裟とも思える慌てっぷりに天蓬は片眉を下げた。
「大した事ありませんから」
「どこがだよっ」
ニッコリ笑って安心させようとした天蓬の言葉に捲簾はすぐに返した。それに天蓬はムッと口を尖らせた。
「少し切っただけです」
「立てねぇくせに」
捲簾は云いながら天蓬のズボンを引き裂いて足を剥き出しにした。
「うわっ」
「大怪我じゃないですか」
天蓬の怪我の惨状に部下たちは眼を背けるなり眉を顰めるなりしている。その気持ちは捲簾にもよく分かった。白い足に膝の上辺りから足首にかけて真っ直ぐに抉られている。刀傷でないだけに厄介だ。そこから流れる血は真っ赤で止まる事を知らない。
眼を背けたくなるのは当然だ。天蓬だって顔を背けている。
「これはここじゃ治療できねぇな」
「……………」
「中将!!ここの封印と引き上げ任せるぞ」
捲簾は云うと布で天蓬の怪我した足をグルグルと巻き付けた。ギュッと力を込めると天蓬はビクッと身体を強張らせた。
「痛いじゃないですかっ」
「……痛くしたんだから当然だ」
「酷いですっ、捲簾のバカっ」
いくら云われようともここは譲れない。放っておけば天蓬はまた同じ事をする。少しは思い知らせておかなくてはいけない。
「だったらもう怪我なんかすんなっ」
「軍人に怪我するな、なんて無理な注文ですっ」
「うるせぇ」
捲簾が本気の顔で声を上げると天蓬もビクッとした。
「大人しくしてろ、バカ天」
捲簾はそう云って天蓬を否応なしに抱き上げた。いくら細身といっても大人の男である天蓬を軽々と抱き上げられて驚く事しかできない。
「ちょっ、捲簾……」
「暴れんな」
「で、ですが……///」
捲簾の腕の中から逃れようとする天蓬を押さえ付けるように抱き込んだ。
「どうせ歩けねぇんだろーが」
「だからって……」
「夜中に腰が立たなくなった時はテメーの方から抱っこしろって云う癖に」
眼を細めて云う捲簾に天蓬は真っ赤になった。
「なっ、なっ……////」
「今更、恥ずかしがる必要ねぇだろ」
「………っ、そういう問題ではありませんっ///」
捲簾もこんな言葉の応酬で紅くなる天蓬が可愛くてついついからかってしまっている。堪らないのはそんな応酬を見ている部下たちだ。
「あんま聴き訳ねぇと口塞ぐぞ」
「………え?」
そう耳元に囁いただけで、天蓬はグッと口を噤んだ。拗ねるように頬を膨らませる天蓬に捲簾はクツクツと笑った。もう一度天蓬の身体を揺すって抱き上げやすい形を取る。
「折角チュウできると思ったのに」
「……こ、こんなトコでするのは嫌です」
天蓬はそう云ってそっぽを向いた。天蓬の意外な答えに捲簾は瞠目して、けどすぐに笑みを浮かべた。
「へぇ、だったらどこでならいいんだよ?」
「それは……///」
「てーん?どうした?」
ニヤニヤと笑う捲簾に天蓬は頬を朱に染めたまま顔を背ける。捲簾にしてみれば拗ねている天蓬の顔を見れないのは勿体なくて仕方がない。
「うっさいです」
「ほーら、天蓬」
片腕で天蓬を抱き上げたまま、片方の手で天蓬の頬を捕らえる。天蓬はそれを振り払う事なくジッと視線を交えた。
口を尖らせている天蓬を見ているとどうしても困らせたくなってしまう。こんな風に思うのはそれだけ好きだからに他ならない。
「ん〜、可愛いなぁ天蓬」
「ちょっ/// いい加減に……」
まともに動けない天蓬に捲簾は強引にキスしようとした。僅かに身を動かす天蓬に捲簾は構う事なく顔を近付ける。
「―――…大将っ!?」
「こんなところで元帥を襲わないで下さいっ///」
真っ赤な顔をした部下たちに云われて捲簾は、おっと片眉を上げた。天蓬も見られていたのだと今まで以上に真っ赤になった。
「何だ?見てたのかよ?」
「お、俺たちの前で大将が勝手に……////」
ワタワタしている部下に捲簾は大きく息を吐き出した。
「ったく、お邪魔虫どもめ」
「……ってか、あんま見せ付けないで欲しいっす」
「お二人がラブラブなのは分かりましたから///」
ボソボソと云う部下たちに捲簾はニッと笑って天蓬を抱き締める腕に力を込めた。クツクツと笑う捲簾に天蓬はポスッと肩に頭を預けた。
「あーもうっ、早く元帥連れて上に戻ってもらえませんか?」
「俺たち見せ付けられんの、しんどいっす」
手で追っ払うようにされて捲簾は笑いを噛み殺しながら中将の方に眼を向けた。
「んじゃ、本当(マジ)で後頼むぜ」
「大将こそ、……元帥をお願いします」
「途中で元帥、襲ったら駄目っすよ」
手を振る部下たちに捲簾は全てを任せて先に天界に戻っていった。
■■■
天界に向かうゲートで捲簾は前もって連絡をつけておいた。天蓬の足になるべく傷を残さないように、早く傷が消えるようにしたい。だから軍医ではなく金蝉付きの医者に連絡をした。金蝉も天蓬が怪我したと聴いて準備しとくと二つ返事で云ってくれたのには正直助かった。
「……全く、大袈裟なんですよ」
「俺はお前の身体に傷が残るのが嫌なんだよ」
ブスッとしているのは捲簾が本気で怒っている証拠だ。それが分かるからこそ天蓬は甘んじてされるがままになっている。
「……別に傷くらい、いいじゃないですか」
「あ?」
「女の人じゃないんですし」
そう云ってしまえば身も蓋もない。
「それでも嫌だ」
「……我侭ですねぇ」
「何とでも云いやがれ」
捲簾の言葉に天蓬はクスクス笑って両腕を眼の前の首に回した。元々抱き上げられていたので二人の距離は自然と近くなる。
「捲簾……」
そっと顔を近付けて捲簾の耳元に口を寄せる。
「そんな貴方の事が、僕は好きですよ」
「…………っ////」
捲簾の動揺が抱き上げられている腕を通じて伝わってきた。それに天蓬はクスクス笑う。
「テメー、ここで襲われてぇのか?」
「まさか、こんなトコじゃ嫌です」
「…………このっ、覚悟しとけよ?」
口の端を上げて云う捲簾に天蓬はキョトンとした。間近で交わる視線に捲簾の表情は更に意地悪なものになる。
「今夜は寝かせねぇから」
「………おや?何をして下さるおつもりで?」
「さぁな」
そんな風に言葉を交わしながら二人の距離は近付いて、唇を重ねようとした瞬間だった。昇降機が天界に着いたようで、すぐに扉は開かれた。
「―――――あ」
「天ちゃんっ、ケン兄ちゃん」
金蝉と悟空の声が聴こえて天蓬は捲簾を押し退けるようにして身を起こした。捲簾は邪魔しやがってと不機嫌な顔をそのままにしている。
「何してやがる、このバカどもが」
「……べっつにぃ〜」
捲簾は答えながら昇降機から下りた。
「天ちゃんっ、痛い?大丈夫?」
捲簾に抱き上げられている天蓬に聴いてくる悟空にニッコリと笑みを返した。
「大丈夫ですよ」
「でも……、足真っ赤だよ」
悟空は天蓬に触れようと手を伸ばすと、それを寸前で金蝉が止めた。
「おい、怪我人に触るんじゃねぇ」
「………金蝉?」
伸ばされた悟空の手を金蝉はしっかり握って天蓬に触れないようにする。見るからに軽い怪我ではないところに悟空の力で触れたらいくら軍人でも堪らないだろう。プライドの高い天蓬が捲簾に抱えられている時点で重傷な証拠だ。
「ついて来い、ババァが準備万端で待ってる」
「……おぅ」
先に歩く金蝉の後を天蓬を抱えたままの状態で捲簾は追いかけた。それでも、昇降機に乗る時も運ぶ時も負担がかからないようにしてくれている捲簾に天蓬は素直に感謝した。
運ばれたのは観世音の館の奥まった部屋だった。中では観世音が腕組みをして待っていて他には医者らしき者はいなかった。
「ババァ、医者は?」
「あ?俺が直々に診てやるよ」
ニヤッと笑う観世音は指でベッドを示した。それに捲簾と金蝉は揃って眉を顰めた。
「大丈夫なのか?」
「……俺は天下の菩薩だぜ、治癒くらいできるって」
確かに観世音は天界でも指折りの菩薩だ。その強さも権力も嫌という程に分かっているつもりだ。だが捲簾が心配しているのはそれだけではない。
「治療と称して天蓬に変な事すんじゃねぇぞ、ババァ」
捲簾の思いを金蝉が先に口にした。観世音は綺麗なモノが好きだ。昔から天蓬に眼をつけていた事は少しでも付き合いのある者なら誰でも知っている事実。心配しない方がおかしいというものだ。
「しねぇって、オラ……さっさとそこに座れ」
いつまでも天蓬を離そうとしていない捲簾に観世音は命じた。それでも天蓬を離そうとしない捲簾に観世音は嘆息した。天蓬も流石にこのままではと捲簾を見上げた。
「捲簾」
「……天蓬?」
「下ろして下さい」
天蓬にしてみてもいつまでもこのままでは辛い。さっさとおろせとニッコリ笑顔を向けると捲簾は仕方ねぇと抱き上げたままにベッドに向かった。そして何故か捲簾がベッドに腰をおろした。
「え?」
抱き上げていた天蓬の身体を自分の膝の上に乗せるようにして後ろからギュッと抱き締めた。それに当の天蓬は慌てて身体を捻る。
「ちょっ、捲簾っ」
「痛がって暴れないように後ろから押さえててやる」
捲簾はニッと口の端を上げた。天蓬が治療に痛がって暴れるなんて事がないのは知っている。だが、こうしていれば観世音が何かした時にすぐに対処できる。
「そ、そんな事しなくても暴れたりしませんよっ」
当然天蓬は嫌がった。でもそれは治療をではなく捲簾に抱っこされているのが、である。こんな状態でまともな治療が受けられるはずがないのだ。
「暴れてんじゃねぇか」
「貴方がこうしてるからですっ」
捲簾の腕を掴むようにして足をバタつかせる。何とか逃れようとしている天蓬を見て観世音はクツクツと笑った。
「元気だな」
観世音は云って天蓬の頭に手を置いた。それに天蓬は暴れるのをやめて観世音を見上げる。
「大人しくしてねぇと痛くするぜ」
「……………っ」
「捲簾、天蓬をしっかり押さえてろよ」
観世音は云うと否応なしに天蓬の怪我している左足を掴んだ。どうせ使い物にならないズボンを引き裂くと遠慮なく傷口に消毒液をかけた。
「―――――!!?」
天蓬の身体が声もなく飛び上がった。確かに傷口にドバドバと消毒液かけられたら痛いに決まっている。だが観世音にしっかり押さえておけと命じられている以上、暴れさせるわけにはいかない。ギュッと押さえる捲簾に、それでも天蓬は抵抗するようにもがいた。両手ごと包むようにして抱き締めているが天蓬は下を俯いて首を左右に振って痛みを拡散していた。
(こりゃ……相当痛いんだろうな)
痛みを忘れさせるにはそれ以上の刺激を与えればいい。そう思った捲簾は露わになった天蓬の項に唇を触れさせた。
「…………っ!?」
途端に天蓬はさっきとは違う意味でビクッとした。それに気を良くして捲簾は項に舌を這わせてチュウッと吸い付いた。
「やぁっ……/// けんっれ……」
思わず天蓬の口から漏れた声に、観世音は面白そうに肩を揺らし、見ていた金蝉は顔を紅くした。捲簾から逃げるように身を捩る天蓬の足が浮き上がるのを観世音はしっかりと握って防いだ。そのせいで天蓬は捲簾から逃げる事ができず、されるがままになっていた。
「………天ちゃん?」
悟空はわけが分からずに首を傾げて天蓬と捲簾を凝視しているのに金蝉は慌ててその金眼を覆った。
「何すんだよっ、金蝉」
「子供(ガキ)が見るもんじゃねぇ」
「何だよっ、それっ」
暴れる悟空を押さえながら金蝉も天蓬から眼を逸らした。
「ちょっ……、やめて下さいっ」
逃れようと身体を前に倒す天蓬を捲簾は逃がさないとばかりに引き寄せた。力で勝てるはずがないのが分かっているはずなのに、それでも逃げようとする。そんな反応がもっと見たくて捲簾は更に拘束をキツくさせた。
「捲簾っ!!!」
調子に乗っている捲簾はいつの間にか天蓬の軍服の前まで肌蹴させていた。流石にそれには天蓬もカッとなった。
「ぐぇっ!!」
蛙が潰れたような声を上げて捲簾は拘束を緩めた。その隙に天蓬はベッドから下りた。だが、そこは流石に観世音に戻された。
「まだ治療は済んでねぇ」
「……菩薩っ、ですが……」
天蓬は涙眼で観世音を睨んだ。そこに復活した捲簾が天蓬の腰を抱き寄せてきた。その手付きはどこか苛付いている。
「このヤロウ」
「……離しなさいっ」
「こんなオイタをする奴は離せねぇな」
本気の声で云う捲簾を何とか退かそうとする天蓬。捲簾は天蓬の顎を掴んで無理矢理後ろを向かせると、強引に唇を重ねた。
「――――っふんっ!?」
いきなりキスされて天蓬はギュッと眼を閉じた。呼吸を奪われて天蓬は暴れるのを忘れた。捲簾の腕に縋るようにしている天蓬に観世音はニヤニヤ笑った。
「……………///」
悟空の眼を塞ぎながらその様子をチラチラ見ていた金蝉は呆れていた。金蝉は捲簾と天蓬の関係を知っていた。
知っていたけどここまで人前で堂々とイチャつかれるとは思っていなかった。
「よし、終わりだ」
天蓬の足に包帯を巻き終えた観世音が云うと捲簾は漸く唇を離した。途端に天蓬は捲簾をベッドから突き落とした。
「いでぇーっ」
「いつまで引っ付いてんですっ」
ベッドに座ったまま見下ろす天蓬に捲簾は裾に付いた埃を叩きながら立ち上がった。視線が高くなって腰に手を当てると天蓬が眼を細めた。
「いいじゃねぇか」
「よくありませんっ」
即座に云い返す天蓬に捲簾は眉を下げた。
「俺はお前ずーっと一緒にいたいだけなのに」
「だからって、もう少し状況を考えなさい」
「状況って?」
「だから………、その、人前で……」
ボソボソと云う天蓬に捲簾は視線を周囲に向けた。救急用具を片付けている観世音に悟空の眼を覆っている金蝉。観世音は完全に面白がっている顔をしているが金蝉に至っては言葉も出ないらしい。
「気になる?」
「……当たり前ですっ」
ハッキリ答える天蓬に捲簾は大きく息を吐いた。
「見せ付けてやればいいのに」
「こ、こんな事……どうして金蝉に///」
「はぁ?」
そこで出た金蝉の名前に捲簾はムッとした。構わず天蓬を先と同じように抱き上げる。
「ひゃっ」
「何で金蝉?」
「……それは……、幼馴染みですしっ」
「お前は俺の恋人だろうが」
捲簾はそう云って、今度は金蝉にはっきりと見えるように唇を重ねた。それに金蝉はギョッとする。
「……………っ/////」
慌てる天蓬にそれでもこの体勢では大した反撃はできない。
「………このっ、いつまでやってやがるっ」
そこに金蝉の怒声が響いた。
「人が黙ってりゃ、イチャイチャイチャイチャしやがって」
「こ、金蝉?」
「そういう事は人のいないとこでやりやがれっ」
顔を紅くしている金蝉は悟空の手を引いてさっさと部屋を出て行った。何か云いたそうな悟空だったが金蝉がそれを許せずに引き摺っていってしまったためにできなかった。
「あーもうっ、どうしてくれるんですっ?」
「は?」
「明日からどんな顔して金蝉と悟空に会えって云われるんですっ」
天蓬は短い捲簾の髪を掴んで引っ張りながら訴えた。本気の力ではないとはいえ髪を引っ張られて捲簾は慌てた。
「痛ぇって!!コラ、やめろ天蓬っ」
「五月蠅いですっ」
天蓬にしてみれば、自分たちの関係を他人に知られるのは少しも構わない。ただ人前でその行為を見られるのが嫌なのだ。
「お前ら」
「………あ?んだよ」
「コラ捲簾、菩薩に対してなんて口のきき方を……」
観世音に向き直る捲簾に対して天蓬は髪を引っ張るのをやめてポカポカと頭を叩いた。天蓬を抱き上げたまま、捲簾はそれを回避しようと必死に身体を捻った。
「捲簾(ソイツ)の口が悪いのは周知の事だから別にいいんだけどよ」
「………え?」
「金蝉の言葉じゃねぇが、あんまイチャイチャすんなよ」
そう云いながらも観世音は凄く楽しそうにしている。肩を揺らしてクツクツ笑う。
「独り身には刺激が強すぎんだよ」
「あ///////」
観世音が云うのに天蓬は捲簾を叩くために振り上げていた手をおろした。捲簾もしまったと顔を顰めた。
「用は済んだんだ、さっさと帰れ」
「……うぃ〜っす」
捲簾はそう返事すると天蓬を抱き上げたまま敬礼をした。手で追っ払うようにする観世音に捲簾は背を向けた。
「ちょっ、歩けますよ」
「だーめ、俺が運ぶの」
「捲簾っ」
嫌がるように声を上げるも、天蓬のそれが本気でない事はすぐに分かった。騒ぐようにして漸く帰っていく捲簾と天蓬に観世音は大きく息を吐き出すと無造作に髪をかき上げた。
「ったく、『犬も喰わない夫婦喧嘩』ってか、あのヤローども」
そうは思うも、二人の事が嫌いになれない観世音は密かに応援しているのだった。
★ コメント ★
真神さまから頂きましたv
相互リンクの記念にリクエストをさせて頂いて、貰っちゃいました
『人目を気にしない捲天』
いいな〜醍醐味ですよね、ケンテンの(笑)
しっかりと楽しませて頂きましたv
本当にありがとうございましたv
モドル