* 二夜 *


時間の長短など、本来はありません。
平等に無慈悲に流れるものですから。
なのに、人というイキモノは、長いだの短いだのと。
勝手に計り、勝手に憤ったり、嘆いたりします。
何とも、勝手な事に。

まあ、それが判っていてもしてしまうのが。
やはり、人というものなのですが。
そこには、葛藤も有り、躊躇いも有り、開き直りも有ります。

他人からの介在。
拘束されている立場となると、思考を巡らす事が。
唯一の自由に出来る事となると、尚更に。

だから、早く早くと急くのかもしれません。


**********


「よっ」
「こんばんは、悟浄」
「随分と機嫌良しだなぁ」
「そうですか」
「あんま質の良くねぇのみたいだけどさ」

八戒の私室に応え無しに、入室の出来る悟浄が。
さっさと、入って来た途端の会話に。
八戒は、嬉しそうに質の良くない笑みを浮かべました。

「まぁた、ロクでもない事してきたんだろうけどさ」
「それは、ご想像にお任せします」
「やだね、面倒くせぇ」
「本当に貴方は面倒臭がりですね」
「ん〜、マメなとこはマメよ?」
「それは知っています」

慣れた仕草で、八戒の膝の上に頭を乗せた悟浄は。
下から、八戒の目を覗き込むように、見上げました。
翠の、綺麗な綺麗な色の、八戒の眸は悟浄のお気に入りで。
いつ見ても、いつまでも見ても、飽きないものでした。

それが、どんな理由であれ、楽しそうに細められるのであれば。
悟浄にとって、それだけで良しとするものでした。
その背後にあるものは、関係はなく。
知りたいとも、知ろうとも、思わないものでした。

八戒の前髪を引っ張ると、それが合図となり。
屈んできた八戒のひんやりとした唇が、重ねられました。


繰り返し、啄み合い。
戯れだけで、収めて。
悟浄を膝の上に乗せた儘、八戒は身体を元に戻しました。

「あの二人…」
「ん、何?」
「いいえ、何でもありません」
「そ…」

ちらり、と視線だけを向けてきた悟浄は。
八戒の膝の上で、八戒の手を触りながら、その肌の感触を楽しんでいました。
それを柔らかい笑みで、甘受しつつ。
思考を先程、口にした二人へと飛ばしました。

…今、どうしてるでしょう。
…二人きりに、させてあげましたし。
…勿論、見張りは付けてありますけどね。

執心してくれれば、いい。
妄執でも、何でも。
してくれれば、そうしてくれれば、僕の思い描いた通りになる。
そう、するのですから。

ああ…楽しみです。
その時が来るのが。


「…悟浄」
「何、八戒?」
「何でもないです」
「そ、だったらいいや」

今度は、目を閉じた儘、返事をした悟浄の髪を指先で梳きながら。
八戒は、口を閉じました。