深 淵



by 遙か



鍵が掛けられてる訳では、ない。
躰が拘束されている訳でも、ない。
けれど、僕はこの――悟浄の部屋から、出る事は出来ない。

薬で、喉を潰されて。
手を――足を縛られて。
媚薬を躰の内部に直接塗り込まれて。
僕は、悟浄に愛された。

人から見たら、狂気と言うのでしょうね。
僕も思いました。
悟浄は狂ってしまったのだと。

気持ち悪かった。
肉と肉の、鬩ぎ合いが。
口吻けられ。
全身を嘗められ、愛撫され。
自分でも、意識して…快感をもたらそうなど考えもしない場所にまで。
悟浄の手が、否応なく触れてきた、あの時間。あの瞬間。

拷問でしたよ。
感情が付いていかないのですから。
躰が、欲望の肉として喜んでいただけなのですから。

薬が切れかかると。
どうしてだか、悟浄は直ぐにそれを察して。
僕の中へと、又、薬を塗り込める。
長い、悟浄の中指の関節の太さを。
僕が、記憶してしまう程に。
何度も何度も…それこそ、切りなく、ね。

『八戒、綺麗だなあ。
 お前、見たコトないだろ。
 俺だけだよな。
 ここ、すっげえ綺麗でさ。
 しかも、小さくて可愛いんだ。
 色…綺麗な色してるし。
 ピンクってゆーか、紅ってゆーか。
 それにさ、俺が触るとピクッて動くんだ。
 ほら、動いた。
 な、お前も分かるだろ。』

両脚を広げられて。
一番の奥を、晒されて、覗き込まれて。
批評される。
しかも、悟浄の指の感触まで、感じさせられる。
ゆっくりと、周囲を撫でられ。
じっくりと、指を埋められていく。

悟浄は、僕が反応を返すのが。
とても、好きだという。
声を――嬌声が出るのが、好きだと。

優しい、優しい、悟浄。
悟浄とのセックスは、渓流から流されていく水に、似ている。
いつの間にか、激流になっていて。
もう、後戻りの出来ない場所へと流されているみたいに。

そして。
助けて欲しいと思っていても――。 

「八戒。」
「……………。」
「良かった。
 お前がここにいて。
 どこにも行くなよ。
 行ったら、俺、死ぬからな。」

何度も何度も、繰り返し聞かされた台詞。
僕の躰をその腕で抱いて。
僕の頬に自分の頬を擦り寄せて。
嬉しそうに言ってくる悟浄。

「心臓、一突きすればさ、俺でも死ねるよな。」

僕が死ぬのは、構わない。
けれど、悟浄が死ぬのだけは、嫌なのです。
僕は。
ただ、それだけなんですよ。

だから、僕はここにいる。
悟浄の部屋に。
悟浄のベッドの上に。
悟浄の腕の中に。


2001.4.28


★コメント★

最遊記ノベルの三巻の冒頭で、ありましたよね。
正気と狂気は、たった1文字の違いだけって。
それが、頭の中に残っていました。
この話を書いていて、三蔵は否定するだろうけど、この2人の関係をね。
悟空は、理解不能だろうけど。
ある意味、幸せかもしれないなって――思ってしまうトコもあるんですよねえ。
だって、悟浄。
八戒だけを見ているんですもの。
他、何もいらないし。八戒は腕の中にいるし。
では、感想聞かせてね。