死角の箱



by 遙か



デパートの。
閉店を知らせる為の音楽が鳴り始めた。
館内のざわめきが、少しずつ潮を引いてゆく。


『今日のお仕事も無事、終わりですね。』

この桃源郷デパートの勤めて、2年目の。
エレベーターガール嬢が、肩から力を抜いた。

さらさらの、ショートヘア。
グリーンの、澄んだ瞳。
小柄で、愛らしくて。
本人の知らぬトコロで、非公式ファン倶楽部が幾つもあるという。
猪八戒嬢は、誰も見ていないのを確認して。
うーーーんと、背伸びをしました。
そこへ。

「ごめんっ。
9階の催事場に忘れモンしちまって。
申し訳ないんだけど、行って貰えないだろうか?」
「は、はい。ど、どうぞ。」

気を抜いていたトコに、最後のお客様が乗り込んで来て。
八戒は、9階へのボタンを押す。

「ホント、ごめんな。
こんなラストに、さ。」
「いいえ、お気になさらないで下さい。」
「ホント、ごめん。」

必死で謝ってくる男を八戒は、見た。
長身で、紅い長い髪。
印象的な顔立ちで、ハンサムの部類には確実に入り。
しかも、トップクラスの筈。

『ごめんな。』

と、何回もこの台詞を男は言っていて。
その姿に、八戒は好印象を抱く。
だから。

『大丈夫ですから。』

と、言われる度に、八戒は返事を返していた。
そして、そのうちに。
エレベーターは、9階へと到着した。


「じゃあ、僕はここでお待ちしてますから。」
「そんな、わりーよ。
俺だったら、階段で降りっからさあ。」
「階段では、大変です。
僕なら大丈夫ですから、お待ちしてますから。」
「そ…そう、か?」
「ええ。」
「じゃ、お言葉に甘えて、速攻で行ってくんわ。」

そう言って、走ってゆく男の後ろ姿を八戒は見送った。
エレベーターのドアを開けたままで、待つと。
9階は流石に、もう人影もなく、昼間と違い一種不思議な空間となっていた。
その雰囲気に、ぼんやりとしていた八戒は。
バタバタっという足音に、ハッと気を引き締めた。

「忘れ物は御座いましたか?」
「ん、もお、バッチシ。」
「良かったですね。
では、下へ降りますから、どうぞ。」
「ほいほい。」

男が乗り込み、八戒が1階へのボタンを押す。
スーッと、ドアが静かに閉まり。
エレベーターは、下降し始めた。

ガタン――大きな音と揺れ。
計器類が、わっと反応し、ピタリと止んだ。
エレベーターが、8階と9階の間で停止してしまった。

「きゃっ。」

あまりに不意の事で、八戒は倒れ掛かったが。
後ろにいた男の腕に支えられて、辛うじて転ぶのを免れた。

「危なかったな。」
「は、はい。ありがとうございます。
い、今、連絡を取りますから、待っていて下さい。」

非常用の回線ボタンを急いで押すが、何の反応も無く。
八戒は、必死にもう一度押した。
すると、後ろから男の手が伸びてきて、八戒の手を握り込んだ。

「お客様?」
「ムダだよ。ム・ダ。」
「え、何がですか?」
「俺がね、そーゆー風に操作しといたの。
だあれも、来ねーよ。ここには、さ。」
「それって…一体……。」
「これから、あんたがどーなるのか、俺が教えてやるよ。
キッモチいーぜぇ。
俺、上手いからさ。」
「………やっ。」

無防備な耳元に、ねっとりとした口調で囁かれ。
反射的に、身体を逃がそうとしたが。
ダンッ、と両手首を纏めて握られ、壁へと叩き付けられた。

「痛っ。」
「あ、ごめんごめん。
けどさ、逃げよーとすっからだぜ。
大人しくしてれば、痛いコトなんかないんだからさ。」
「いやあっ。」

経験した事の無い恐怖が、八戒を突き動かした。
この状況から、逃れる為に力を入れたのだが。

「あ〜あ、人が折角優しく言ってやってんのに。
人の好意を無にしちゃ、ダメでしょーが。」

握られた手首が、グイッと上に引き上げられる。
男は長身で、苦も無いが。
小柄な八戒の身体が浮き上がる。
低いヒールの踵が床から離れ、爪先立ちとなる。
制服の袖がピンとなり、更に身動きが取れなくなる。

「やっぱ、着痩せしてんだ。
俺の目って、確かだよなあ。」

上着の裾から、男の手が無遠慮に入り込み。
八戒の胸を下から、揉み込んだ。

「や、止めて下さいっ。」
「デカイとさー、感度が悪いってゆーけどさー、どーなのかなあ。」

上着の前ボタンが、外される。
制服のタイが、引き抜かれる。
ブラウスの、小さな丸ボタンが外され。
ブラウスの裾が、スカートから引っ張り出された。

「どれどれぇ。お、白のキャミソール。
かっわいーじゃん。あんたに似合ってるよ。」
「見ないで下さいっ。」
「見えちゃうんだもーん。
それよりもっと、やった、フロントホックね。
助かるなあ、外しやすくて。」

プチッと、小さな音と共に。
八戒の白い胸が、露わになった。

「すっげぇの。白い桃みたいじゃん。
俺の手に余る位、でっけぇし。」

左の胸をギュッと、鷲掴みされた。

「いっ、痛いっ。」
「あ、痛くしちゃったな。ごめんな。
お詫びに、すっげぇ優しくシテやっからさ、許してな。」
「お願いです…離して下さい。」

八戒の哀願を無視して、男の左手が。
さっきの乱暴な動きではなく、掬い上げて、揉み始めた。

「やっわらけぇ。キモチイーねぇ。」
「お願い…もぉ、止めて。」
「ま、いーからいーから。」

今度は、柔らかく八戒の胸が揉み込まれてゆく。
軽いタッチが、微妙で。
男の指先が、羽の様に触れてゆく。

「ぁ……や、止めてぇ。」

胸の先端を丁寧になぞられ、八戒は悲鳴を上げた。

「へぇ。感度イーんだ。
ほら、俺の指に反応して立ってきた…ここ。」
「いやっ。」

3本の指が立ち上がり始めた果実を刺激し、無理矢理摘み上げた。

「きっれいなピンクだなあ。
あんま、遊んでないんだ。」

男のからかう声に、八戒は唇を噛み締めた。

「あっ。
もしかしてさ、まだ未経験とか?」

八戒が、ギクリと強張った。

「あったりーってか。
んじゃ、お互いラッキーだなあ。」

男の言葉に、八戒が戸惑った。

「俺はあんたのバージンを喰えるのが、ラッキーで。
あんたは、初っ端からカンジまくりの、イキっ放しのセックスを体験出来るんだぜ、
滅多にナイ、処女喪失じゃん。ラッキーだろ?」
「いや…いや……いやあっ。」

八戒の身体が、諤々と震え始め。
八戒の瞳から涙が、ポロポロと零れ出した。
狭い、無機質の空間で。
空気が、ねっとりと密度を増してゆく。


男は、八戒の服を全部脱がすコトなく。
半裸状態にして、自分の目を楽しませていた。
あれから、どれだけ。
八戒が、泣こうが叫こうが。
愛撫の手を緩めるコトなく、八戒を。
自分の手中へと、引き擦り込んでいっていた。

「あっ、ぁ……ん。」

胡座をかいた男の膝の上に、後ろから抱え込まれ。
今はもう、嬌声しか出てこない声。
男の的確な愛撫に感じ入り過ぎて、力の入らない四肢と。
ピンクに染まり切った、肌。
足の付け根を左右に大きく開かれて。
八戒の秘所は、男の好きな様に玩ばれていた。

「ん、ん――あっ、あーーっ。」

八戒が、一気に脱力をする。

「ナニ、又、イッちゃった?
すっごいねえ、あんたの味、イクたんびに濃くなって美味くなるよ。」

愛液に濡れた指を男が舐め取ると、八戒がピクリと動いた。

「さてと、もっとイカせてやっからさ。
こっち向いて、膝立ちしてみ。」

男の手に支えられながら、八戒は男の指示通りに動き出す。

「そ。俺の肩に手、回して。
そんで、いいか、ゆっくりと腰、下に降ろすんだぜ。」

八戒の花唇に男の楔の先が触れた瞬間。
男の手によって、抵抗する間もなく、八戒の身体は一気に沈められた。
その衝撃に上がる筈だった悲鳴は、重ねられた唇に塞がれ。
激しい熱となって、八戒の裡へと逆流していった。

思考は焼き切れ。
男から与えられる熱だけを素直に、追ってゆく。

「分かる?
今、俺のが、あんたの処女膜、突き破ったのがさ。」

細かく、身体を痙攣させながら。
八戒は痛みを凌駕した快楽を。
その身に刻み込まれながら。
囁かれた言葉に縋る様に。
全てを闇の中へ、堕としていった――。



『俺が、あんたのコト。
飼ってやるよ。
箱の中で。
大事にさ。』



2002.3.20 UP



☆ コメント ☆

さて、【2002年開けまして、貴女のリクを私に下さい】今頃かい企画v
その第1号・長春さんのリクは。
『エレベーターガール八戒と
客の悟浄が停電でベーター内に閉じ込められたっちゅうの』
でしたね。えへv

ごめんっ、遅くなった上にこんな話になってしまいました。
だって、だって。
停電だと、やってる時間がそんなにナイなあ〜と、思ってたら。
こんなコトを思い付いてしまって。
それで、書き始めたら……。
言い訳、終わり。てへへ。

では、リクを下さった長春さまへ愛を込めて、贈らせて頂きまーすv