【 仮面の緞帳 】



PN 【裏の女王】



さて、幕を開けましょうか。
主役の方が、やっと、みえましたからね。
ああ、やはり、我の目に狂いはありません。
この滑稽な脚本には、アナタではなくてはいけないのです。
お手をどうぞ、と言いたいところですが、我慢しましょう。
さあ、舞台へと、お上がり下さい。
観客は、我一人。
アナタが演じるのをずっと、待ち焦がれていたのですから。
では、アナタの為に、我からの開演の拍手を――。

マンションの一つ上の階に、アナタがご主人と引っ越されて来て。
一ヶ月が経ちましたね。
ご新婚という事で、時々、お見掛ける時には。
仲睦まじいご様子で、外見は元より、内側からも眩しい程に。
輝き、美しいアナタ。
ご主人の愛情で、幸福に微笑み。
紅と緑の瞳を絡ませ合い。
信頼し、甘えるアナタは、なんて、可愛しいのでしょうか。

だから、私は思い付いてしまったのですよ。
とても、楽しい事を。
ほんの少しで、いいのです。
アナタの時間を我に、下さいますね?


騒がれるのは、スキではありません。
波風を立てるのも、スキではないのですよ、我は。
ええ、ですからご主人が一泊の出張の時を選ばせて頂きました。
これでしたら、構いませんでしょう?
たった、一晩の事だけですから。ねえ。
薬は、きつい物ではありませんから、大丈夫ですよ。
ほんの10分程、眠るだけの軽いものですから、ご心配なく。
ただ、躰の自由は、申し訳ないのですが明日までは、適いませんので。
そこの所は、ご了承下さい。
それに、その方がアナタにもご都合が良いと思いますよ。
理由が出来ますから。自分の意志では無いという、理由がね。
さあ、では、目覚めて頂きましょうか……。



こ…こ、は?
天井が…違う……、僕の知っている、部屋…では、ない…です。
それに、薄…暗く、て……ひんやりと、して…いま、す。
ど…こ、なの、です……か、ここ…は?
僕……一体、どう…した、の…でしょう……か?

「お早う御座います。お目覚めですね。ご気分は如何ですか。」

だ…れ?
知…ら、ない。見…覚え、が…あり、ま…せん。

「知らない方が宜しいのですよ。お考えになっても無駄です。それよりも――。」

えっ。いやっ。何っ。
冷たい、氷の様な掌が。
僕の両頬を包んで、そのまま、首へ――肩へ――胸へ、と。
まるで、僕の形を確かめる様な感じで下ろされていっている。

「綺麗――な、ラインですね。アナタの躯は。我の想像以上の物です。
分かりますか。我が今どんなに喜んでいるかが。
これも全て、アナタのお陰です。
――有り難う御座います。」

どう、いう事なのですかっ。
手が、足が――身体の全部が、動かない。
そんな……。

「大丈夫ですよ。躯は動きませんが、目は見えるでしょう?
耳も聞こえるでしょう?
心は厭がっても、躯は愉しむ事が出来ますから、ご心配なく。」

それっ、て……。

「ああ、ご主人、本当に名残惜しかったのですね。
ほら、こんなにも痕を残して。
美しいですね。アナタの白い肌を色の濃い紅が彩っています。」

いっ、痛いっ。

「済みません。少し、力が入り過ぎてしまいました。でも、大丈夫ですよ。
ご主人の付けられた方のが強いですから、我の方のは目立ちません。
では、始めましょう。時間、ありませんからね。」

い、いや…いや、ですっ。
止めて…止めて、止めて、止めて……止めてっ―――――。



耳元の後ろ。

襟足のぎりぎりの部分。

鎖骨の窪み。

脇の付け根。

指の間。

膝の裏。

腰の括れ。


そして――躯の一番の奥の、秘所。


全て、我のこの手で触れさせて頂いて、この舌で舐めさせて頂きました。
アナタの全てを――何ひとつ残さず――覚えさせて頂きました。

アナタが気をヤって、気を失う瞬間。
我はアナタの網膜に、我の顔を記憶させました。
いいですか、忘れないで下さいよ。
アナタのご主人の次に、アナタを知っているのは、我だという事を。
その為に、最後の砦を守らせてあげたのですから。

いいですね―――沙、八戒…さん………。



2001.8.28 UP



☆ コメント ★


月波亭の美琴さんに捧げます。

美琴さ〜ん、2万ヒットのお祝いで〜すv
ご注文の【殿下】を絡めた58、なんですけど、如何なモンでしょうか。
どきどき。
リクエスト頂いた時、その返事に、
58基本のパラレルで変質者系でいい? と、
聞いた私にOKを下さった美琴さんの為に、頑張ったのだけど……。
んで、はっと、気が付いたら、私1×8って、初めて書いたのよねえ。
【殿下】好きの美琴さんに、導かれたのかしら? ふふふ。
では、未熟ではありますが、どうぞ、ご笑納下さいませ。返品可ですvv